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「サンジ君」と「ナミさん」
「サンジ君!」
「ナミさん!」
ワンピースの読者には、ずいぶん馴染み深い呼び方だろう。
私も、この年になるまでサンナミの呼び方に疑問を持ったことがなかった。自然で違和感を感じなかったからである。
尾田さんはSBSで、サンジがロビンをちゃん付けし、ナミをさん付けするのは何故?という読者の質問に、こう答えている。
A.やーそんなこと深く考えてなかったですけどね。 この前、うちの仕事場のスタッフが面白い事聞いてきたよ。 「女性は年を取るごとに若く扱われたくて、若いうちは大人に扱われたい。そういう気持ちをサンジは知っているんですか?」って。僕は答えたよ。 「も、もちろん、そうだよ」
これ、一見回答しているように見えるが、よく考えるとつじつまが合わない。
何故なら、サンジは年下であるビビやプリンのことも「ビビちゃん」「プリンちゃん」と呼んでいるからだ。
つまり、サンジが女を呼ぶとき、年齢にかかわらず「ちゃん付け」がデフォであり、さん付けはむしろ例外なのである。
尾田さんは、時々カモフラージュをすることがある。
本編でも大事なことをギャグ描写にして伏線とすることが多々ある。SBSもそうである。
ところで、ワンピースの男女が、特別な呼び方をしている例は、もう一組存在する。
それがドフラミンゴとヴィオラだ。
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「ドフィ」と「ヴァイオレット」。
このシーンは、かなり印象的に描かれているため、覚えている人も多いだろう。
そして直後のSBSで2人の関係について質問があり、尾田さんはこのように語っている。
「んー切り込みますねー。これは深い裏設定があるんだけど、教えられません。担当には教えたけど、かなり大人な物語なので、少年誌ワンピースとしては隠します。」
ならば、何故このシーンを描いたのか?
裏設定なのに、何故直後のSBSでバラしたのか?
私は2つの点が気になった。
確かに、情熱の国ドレスローザ。設定として入れたかったのも嘘ではないのだろう。
だが、ドフラミンゴはともかく、ヴィオラはいわゆるゲストキャラ的な立ち位置である。2人が恋愛関係だったのは過去の話だし、その設定がこれからの展開やストーリーの根幹に関係あるとは思えない。
だから尾田さんは意図があって、このシーンをわざわざ描いたのだと思う。
裏設定なのにSBSで公開したのも、たぶん読者に気付いて欲しいからだ。
もっと言うと、「男女が、お互いに他と違う呼び方をする事に対して意味を持たせるため」ではないだろうか。
単純に2人の恋愛関係を描きたいだけなら、「ドフラミンゴ」「ヴィオラ」でも充分描けた筈だ。
「互いに特別な呼び方をすることで2人の恋愛関係を表現した」私の中の結論はこれだ。
男女が特別な呼び方をする事に意味を持たせた。
これが、この後どのように伏線回収されたのか。それがWCIのこの場面だ。強烈なシーンとして登場した。
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ナミがサンジをビンタし、呼び捨てにするシーンである。
このシーンは辛い。
サンジはもう船を降りる理由を作るため、悪に徹して行動している。仲間を危険から守るためだ。もう、サンジの中で話をするとかの段階ではない。ルフィはそれをわかっている。
対するナミは、サンジのことが心配でいてもたってもいられず、危険な四皇の本拠地までやってくる。ナミはまだ、話をすれば解決できると思っている。
サンジはナミを危険から遠ざけたいのに、ナミはサンジを思うあまり自分から危険な土地に来てしまう。
2人ともお互いを思っているゆえに行動が裏目に出るし、絶妙にすれ違う。それがとても切ない。
という感想はさておき。
「サンジ」と呼び捨てにするシーンをわざわざ強調して書いている。
ナミはこの時、初めてサンジを呼び捨てにした(直接本人に言ったという意味で)。特別な呼び方をやめてしまった。
では、「サンジ君」「ナミさん」という呼び方が持っていた意味は何なのだろう?
この2人が、ドフラミンゴとヴィオラのように男女の仲なのか、お互いに両思いなのか、はっきりと明言された訳ではない。
しかし、少なくともナミが親しみを持って「サンジ君」と呼んでいたことがこの1コマでわかるようになっている。
尾田さんはここに繋げるために、伏線としてドフラミンゴとヴィオラのシーンを入れたのではないだろうか。
余談 「サンナミとガルチュー」
ガルチューの元ネタは、ネパール語の「君を愛している」という意味の「तिमीलाई माया गर्छु(ティミライ マヤ ガルチュ)」からである。
ミンク族の女の子にガルチューしまくるサンジ。
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そして、ナミに対する特大ガルチュー。
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こんなにデカいコマを使って、ナミ1人だけ別に描かれている。
なんでこんなシーン描いたの?
アニメでわかったが、ナミはこのガルチューに拳を返している。愛ある拳は防ぐ術なし。
この時2人がいる建物は、たぶんパイナップルだ。パイナップルの花言葉は7つもある。
全体:「完全無欠」「あなたは完璧」「蓄える」「満足」「大切な気持ち」
西洋:「歓迎」「私にとってあなたは最愛の人です」
ところで、尾田さんは時々、大事なことをギャグ描写にする。
サンジの特大の愛しているに、ナミが私も好きよ!これぐらい!と拳で返しているのだろうか。