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あいつのテレパシーもう聞こえない

0818 23:55~01:10

ある作品を観て、読んで思い出したことがある。

中学生の時

当時、親の機嫌を伺いながらも友達とうまくやり、ぼんやりとした中学生活を過ごしていた。

元々、クラスで中立の立場にいた私は今思えばつかみどころもない、わけのわからない女であったが、そこに惹かれたのかよく知らない、わからない人たちからの評判はそれなりに良かった。

当時の私は戦場で戦うような気持ちで生きていて、常に気を張っていた。

中学三年生のある時、私はある男の子の存在に気がつく。

まるで野良猫を人間にしたかのような男の子。

私はその男の子をノラネコくんとこっそり心の中で呼んでいた。見た目からはわからないがもっぱら自由で、人の言葉をひらひらかわそうとすることに気づいて、なぜか私はいつも心苦しくなった。

そしてある時、私たちは一番後ろの窓際の席で二人、まるで世界から孤立しているんじゃないかとでも思うほど静かな前後席になった。それをきっかけに私たちは授業中こそこそとお話したり、手紙を交換したり頻繁に足を引っ掛けられたりしたり、しまいにはノラネコくんが私を家に送ってくれて一緒に帰宅する関係になっていった。ノラネコくんは施設で生活を送っていて、門限が5時であるのにも関わらず週に一、二回は私を送ってくれていた。施設の決まりで5時を過ぎると遊びに出してくれなくなるらしいが、それでも私を送ってくれていた。なぜだろうと思っていたが聞けなかった。そんなある日、数学の授業で私が困っている時、低い声でノラネコくんは言った。

「お前さあ、ほんまは俺とおんなじ気持ちやと思う。多分さ、俺とお前はおんなじような人間なんやわ」

私はその時、因数分解に全神経を費やしていたために、すぐに聞き返すことができなかった。

それから夏休みに入って、施設育ちで携帯も持っていない彼と連絡も遊ぶ約束もしていない私はあまりにも暇な夏休みを過ごした。いわゆる「センチメンタルアニメ」と呼ばれるようなアニメをみて、適度に親と喧嘩をし、内容の浅い本を読み、大好きな藍色のマニキュアを足に塗ってみたり、彼氏をほっぽって男の子の友達たちと連絡をとったりして過ごした。

しかし夏休みが明けても、彼は一向に学校に来なかった。

夏休みが明けて二日ほどたったくらいで、彼と同じ施設の、私と仲良しの女の子が言った。

「最近さ、なんか気づいてたことある?」

彼のことだと一瞬でわかった。それまで気づいていないふりをしていた私だったが、流石に不安だったので、聞いてみる。

「(ノラネコ)のこと?あいつ、どうしたん?」

施設の先生に手をあげて、それからすぐにその施設から出される状態まで行ったようで、もう学校には帰って来ないらしい。小さい子供が大好きで、いつもニコニコしていた彼がそんなことするはずもないので、到底信じられなかった。彼女にその話を聞いてやっぱり受け入れることができずに、丸一日は頭が真っ白になっていた

それから毎日退屈な日々を過ごした

教室にはノラネコの座らなくなってしまったイスと机。窓についたカーテンが彼のいなくなったことを良いことにひらひらと舞う。たまらなかった。私の唯一の理解者であった彼はどこかへいなくなってしまった。ふらふらと野良猫のように。もしあの時、きちんと聞き返していたら。好きな色や親の話を詳しく聞いていたら。そして夏休み、私が彼の気持ちに寄り添っていたら先生に手はあげなかったかもしれない。後悔だらけだった。

お互い、結局一番大事なことは言い出せなかった。怖かったから。私たちは授業中話している時、世界でふたりだけであると思った。いや、世界で二人だけであればいいと祈った。「俺らここでこそこそ話してたらさ、ずっと無敵な気がする」と言われ、私はそんな彼に救われていた

私の人生はいつだってドラマチックだ ドラマチックすぎて疲れる。

それから彼には会えていない。彼が送られたという鑑別所?のようなところへ、先生にも黙って電話をしたりもして見たけれど、私たちはもう二度と繋げられることはなかった。

だけれど、ある日私は気づいてしまった。               夏休みが明けてから、クラスの誰も彼の話をしなかったのだ。

私はひたすらに悲しかった。あれだけ彼に構って、自由をなくすほどに構っていたのに。やっぱり誰も彼のことをなに一つわかって、知っていなかったのだ。                                私はそれからクラスメイトに抱いた嫌悪感を消すことができず、心を殺したまま過ごした。彼のこっそり秘めていた気持ちはどこへ行くのか、そればかりを毎日考えた。                           しかしその反面、抱いた嫌悪感はクラスメイトに対してではないことに実は気づいていた。それは、彼のことを知っているようで、知らなかった私自身に対してのものだ

それから受験も過ぎて、私は美術科のある高校へ進むことが決まった。卒業式がやってくる頃になっても話が上がることはやっぱりなかった。彼の残された机とイスに、寂しげに残された名前のシールを、こっそり私が剥がし、そして自分の名札の後ろに貼り付けておいた。粘着力のなくなったシールを、真新しいセロファンテープでも一度貼り付けた。          そんでもって私だけが絶対にお前のことを一生忘れてやんねーーと思った。

今でも思い出す。私が問題を起こして校長室へ呼び出されたということを伝えると大爆笑していた彼のことを。放課後廊下で将来の夢を語り合ったことを。私の描いた絵を、お前の書いた絵はやっぱわからないよと笑いながら割れ物を抱くように触れていたことを。

彼が私と同じであると感じたところ。中立の立場ゆえに誰にでも構われて、しんどくなってしまうところ。家庭環境が悪いところ。本音を話さないところ。彼はサッカー、私は芸術という風に、好きなことに対して一生懸命に頑張るところ。だけれどやっぱり、そんな風に自分をうまく表現できなくて帰り道にいつもこっそり泣いているところ。

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