アポイント・シグナルはラブソングなのか〜月岡恋鐘の「恋」とアポイント・シグナル〜


はじめに

※この記事には、恋鐘W.I.N.G、G.R.A.D、Landing Point、S.T.E.Pなどのネタバレが含まれます。
この記事は、AtPOPさん(@AtPOP_c)企画のシャニマスアドベントカレンダー2023の記事として投稿されました。

こんにちは、galax(@f5533_shiny)です。
突然ですが、自分は普段あさひPでやらせてもらっていますが、一番好きなソロ曲は「星をめざして」とは別にあります(もちろん星めざもめちゃくちゃ好きです)。
それが、月岡恋鐘のソロ曲「アポイント・シグナル」です。

©Bandai Namco Entertainment Inc.

理由はいろいろあります。曲調も好きだし、3rdツアーで初めて見た時の礒部さんの演技と振り付けにやられてしまったのもあります。それと同様に、歌詞についても完全にやられてしまいました。
ところで、この曲は「恋に決まった道なんてないよ」「前のめりアクティブに恋していくだけ」「一番のデートスポット」など恋愛を示唆する歌詞が随所に見られます。恋鐘自身がいわゆる「Pラブ勢」筆頭なのもあり、この曲をラブソングであると思うのに何の疑問もないように思われます。
しかし、そうすると以下の一節について意味が通らなくなります。

夢のままで終わらせない 叶えちゃう予感しかない
自信は特技 任せて!
さぁ、進もう…ここからも!

月岡恋鐘(CV.礒部花凜) - 「アポイント・シグナル」より

詳細は後述しますが、恋鐘にとっての「夢」はアイドルになることだったはずです。この曲が特定の誰かへのラブソングであるという立場に立つと、ここの一節だけが彼女の夢を歌っており少々ミスマッチ感があります。
そこで、この記事では逆に「アポイント・シグナルは、その全体としてラブソングではなく彼女の夢についての歌である」という立場に立って議論を展開していきたいと思います。

月岡恋鐘の来歴

まずは、月岡恋鐘さんの来歴について振り返っていきましょう。

©Bandai Namco Entertainment Inc.

月岡恋鐘、19歳。実家は佐世保で食堂を経営しています。
小さい頃から食堂の手伝いをしており、漁帰りに食堂に立ち寄る漁師たちにとっての「アイドル」的存在でした。
そこでお腹をいっぱいにして笑顔にする仕事を見て、自分もアイドルとしてみんなに笑顔を届けたいと志すようになります。
そして高校卒業とともに上京し、片っ端からオーディションを受けますが、
方言やドジなどを理由に不合格続き。

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そうして、ネットで見かけた283プロのアイドル応募を見かけ、オーディションを受けたところ見事合格。アイドルとしての一歩を踏み出すのでした。

©Bandai Namco Entertainment Inc.

というように、恋鐘が283プロに巡り合うまでは決して順風満帆な道のりではなく、アイドルになるために必死にもがき続け、努力を続けた結果今の場所に立っています。

月岡恋鐘の「恋」とは

恋鐘のS.T.E.P.コミュに出てくる特徴的なフレーズとして、
「恋の岬に鐘が鳴る、夢が終わって愛が始まる」
というものがあります。

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これはS.T.E.P.のコミュを通して少しずつ紐解かれていく事実ですが、恋鐘の父はかつて演歌歌手として人前でステージに立ち歌っていましたが、現在は辞めて結婚し食堂を営んで暮らしています。このフレーズはその父が演歌歌手であった時代に歌っていた曲に含まれるフレーズです。
同時に、恋鐘の父の生き方そのものの示唆ともとれます。彼は実家の食堂を継がず(恋鐘が「祖父の代から続く食堂」であると言及していた)、演歌歌手として皆からちやほやされていたが、ちやほやされるあまり「大事にせんといかん人をおざなりに」してしまったことを悔いています。これ以上彼の来歴について詳しく語られることはありませんが、おそらくそれが彼が演歌歌手をやめて食堂を継いだことと関係があると思われます。
つまり「恋の岬に鐘が鳴る、夢が終わって愛が始まる」というのは、芸能界という一時の「夢」から覚めて、身近な大事にするべき人を大事にしようという「愛」を大切にしようという、彼の半生に対する象徴的なフレーズです。

©Bandai Namco Entertainment Inc.

そして、恋鐘の「アイドルになりたい」という希望に対しても、そういう風に大切な人をおざなりにしてほしくない、という主張をして反対します。つまり、恋鐘の父にとって「夢」と「愛」は対立する概念なのです。ここからは推測ですが、恋鐘にこのフレーズを引用して「恋鐘」という名前を付けたのも、身近な大切にするべき人を大切にできる子になってほしい、という希望を込めてなのではないでしょうか。
それに対して反論しようとした恋鐘は、「うちの始まりは」と言いかけます。

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恋鐘の父が芸能界を志したのがどんな理由かはわかりません。察するに芸能界で有名になってちやほやされることが目的だったのでしょうか。しかし、恋鐘はそうではありません。小さい頃から両親が食堂でお客さんのみんなを笑顔にする姿を見て、自分もアイドルとしてみんなを笑顔にしたいと志しました。それは果たして「大切にすべき人をおざなりにする」という危険性を孕んでいるでしょうか。間違いなくそうではありません。アイドルとしてみんなを笑顔にする、その姿勢は間違いなく人を大切にする心からくるものです。つまり、恋鐘にとって「愛」は「夢」の中に含まれるものなのです。

©Bandai Namco Entertainment Inc.

ここまで来ると、アポイント・シグナルの「恋」がなんなのかわかってきます。アイドルとしてみんなを笑顔にすること、それが「恋」や「愛」なのだとしたら、アポイント・シグナルはラブソングです。ただしその対象は誰か特定の一人ではなく、アイドルとして笑顔にするべき人みんなへの「恋」であり「愛」なのです。
「はじめに」で提起したちぐはぐさもこれで解消されます。恋鐘にとって「恋」と「夢」は全く別物ではなく、アイドルになるという「夢」の中にみんなを笑顔にしたいという「恋」が包含されているのですから、これらが同時に歌詞に出てくることに何の違和感もありません。

ここが好き!アポイント・シグナルの歌詞

アポイント・シグナルの歌詞の謎が解けてきたところで、具体的に歌詞を振り返っていきましょう。

まだ 始まってなくても 運命と分かってるの
ねえ だから諦めない 加速してこう
今をチャンスにして!

月岡恋鐘(CV.礒部花凜) - 「アポイント・シグナル」より

これは、まだアイドルになっていないときから「自分はアイドルになるために生まれてきた」という絶対的自信を持っていた恋鐘らしさの表れたフレーズになっています。この自身も間違いなく彼女の魅力の一つです。

Wonderful distance, Wonderful freestyle
恋に決まった道なんてないよ
キミにたどり着いたら どんなルートもアンサー

月岡恋鐘(CV.礒部花凜) - 「アポイント・シグナル」より

ここには二つの解釈があります。
まず、ここの「恋」を「ファンのみんなを笑顔にすること」と解釈すれば、「どんな形であれ、みんなが笑顔になってくれるならそれが正解」という意味になります。ドジっ子の入っている恋鐘らしい歌詞です。
これはある意味アイドルという概念の根底を問うている歌詞にもなっており、アイドルは極論を言えば歌もダンスもビジュアルも「一番」である必要はありません。それがパフォーマーとの違いです。ではアイドルの資質とは何か。ここでその議論をすると終わりがないので割愛しますが、これまで恋鐘が大事にしていた「みんなを笑顔にできること」というのは間違いなくその答えの一つでしょう。

もう一つ、この「恋」を「アイドルになること」と考えると、「アイドルになるまでに自分がたどってきた困難も、ここにたどり着けたから全部正解」という意味になります。
方言やドジっ子を理由にオーディションにたくさん落ちてきた恋鐘ですが、その結果巡り合ったのが、方言などの「自分らしさ」を大切にしてくれる283プロダクションでありアンティーカ。この場所に辿り着けたのだから、オーディションに落ち続けたのも正解だった、というこれまでの歩みを力強く肯定する歌詞です。エモすぎるだろ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

©Bandai Namco Entertainment Inc.

ほらね 一番のデートスポットで
ずっとわたしを呼んでいる
アポイント・シグナル
待っていて!

月岡恋鐘(CV.礒部花凜) - 「アポイント・シグナル」より

ここで言われている「デートスポット」も、「恋」がファンのみんなに向いていることを考えると「ステージ」と取るのが正解でしょう。だとしたら、アポイント・シグナルというのはファンが応援のために掲げるペンライトの光と考えられるかもしれません。いずれにせよ、ここで歌われているのが「そこで見とけ」というスタンスではなく「(私がそこに行くから)待っていて!」というスタンスであることに、「ファンのみんなを大切に思っていて、笑顔にしてあげたい」という月岡恋鐘のアイドル像がはっきり見て取れる歌詞になっています。

おわりに

いかがだったでしょうか。結論から言えば、アポイント・シグナルがラブソングであるという解釈には何の依存もありません。しかし、その「恋」の中には彼女のアイドルとしての固い信念が秘められている、というのを想起しつつ聴いていただければ幸いです。


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