私は息を30秒止めた
息を30秒止めた苦しさは、失恋した後の苦しさとほんのちょっと似てる。
思いだすと、少しずつ苦しくなっていくところも。
少し前に失恋した話をありのままを。忘れようとしたら余計辛くなることが分かってるから、私は忘れない。彼と過ごした時間は間違いなく私が体験した楽しかった時間の一部だから。
彼とは少しの時間しか過ごしていないのに、なんだか昔から知ってる友達みたいだった。
恋愛でなにを大切にするか人それぞれだと思うが、私はドキドキよりも安心感のある人と一緒にいたいと思う。
コミュニケーションをとるのが得意で、いろんな人とすぐ仲良くなれるのは私の強みだろう。だけど、心のなかではいつも警戒心強め。だから、私が信じたい、裏切られてもいいと思える人に出会うと、扉全開で信じてしまう。
初めて会った冬の日、私たちは夜景を見に行った。基本的になんでも優しい彼だから、予定になかった夜景も快くついてきてくれた。ご飯を食べるときだって、たくさん食べなっ!って言ってくれる。
誠実で、優しくて、まっすぐなところが好きだった。初めて会う人にすぐ心を開かないはずの自分が、数時間でその人を信じたくなった。
恋をしたとわかった。
高いところから、まちを見下ろした。彼と一緒にいろんな建物を探した。その帰り、彼は寒いねと言って、ぎゅっとほんの一瞬手を握った。
ドキドキもしたけれど、信じたくなった彼を信じようと決めた瞬間だった。
帰り道に、彼の最寄りを知った。降りたことのない駅だった。そして、最後に会ったあの日から、もうあそこへ行くことはないだろう。
それから私たちはメッセージを重ね、会った。また違う場所に夜景を見に行ったのだが、方位的に見えるはずの建物がどれだけ探しても見つからなかった。
そして、この物語の最後の日。
結末を言うと、またぎゅっと、ほんの一瞬手を握った。
彼とはこの日までにも、半年後とかの約束を笑い合いながらしていた。次はどこへ行こう、これをやろう、あたかも未来が確約されていたかのような会話だった。
行く先も決めず歩いていると、夜景のときに彼がどうしても見つけたがっていた建物がでてきた。
みつからなかったものが見つかった。
いつも通り、私たちはたわいもない話をして盛り上がった。
この日、彼の職場の最寄りを知った。
いつもと違うのは、「次」という言葉に対する彼の反応だった。彼の頭に「次」という文字が失くなったことを感じた。
だから、私は駅まで送ってもらった後に、自分からぎゅっと手を握った。握ってもらって始まったこの物語は、そうして本を閉じた。
ありがとうと「次」をいつも言ってくれる彼から、思った通り「次」の言葉はなかった。私は悟った。だけど、このままだと本を開きたくなってしまう気がして想いを送った。結局最後は振られたのだけど、どこまでも誠実で好きになってよかったと心から思ってる。
今でも人として好きです。だから、失恋という運命だったけど、出逢えてよかったと思っています。
ありがとう、さようなら。
彼が好きな人と出会って幸せになるのを心から願ってます。
彼と最後に遊んだ場所は、私の職場の最寄りの一駅手前。今日も、あの日待ち合わせた場所を見た。これからだって、通る度に鮮明に思い出してしまうのだろう。電車に乗っているはずなのに、その場で彼を探している私を見た気がした。
そしてもうひとつ、彼の職場の最寄りは私が職場に行くときに使う乗り換え駅の一駅手前。だから、これから先、彼とばったり会うなんてことはないだろう。
私の地元にある彼が大好きなラーメン屋で、ほんとに偶然再会する以外は。
追伸:私はやっといつものように呼吸ができています。
最後まで読んでくれてありがとうございます。 このnoteを読むために、あなたの時間を使ってくれたことが嬉しいです。