幻想の話

先日、小林信彦氏×細野晴臣氏の対談がNHKのスイッチインタビューにて放送された。

その中で私が印象に残った言葉を書き留めておきたい。
「本当に面白かった20世紀がどんどん遠くなっていくわけですよね。」
「『さよならアメリカ』っていう気持ちもあるんです。かといって『こんにちは日本』でもないんで・・・」

私は20代で、20世紀を生きた経験はない。
しかし、少し試食したことはある。
例えば、音楽。
好きなアーティストはThe Beatles、The Band、はっぴえんど、大滝詠一、山下達郎etc….
「好きだ」というアンテナの感度に従ってきたらこのようなことになった。
特に山下達郎氏においては今もご存命だからこそ、時代のグラデーションを感じる。
たとえ、その時代を生きていなくてもうっすらと疑似体験できているはずだ。

だからこそ、このアーティストが亡くなると「20世紀が遠くなる」感覚がうっすらわかる気がする。
不思議だ。ちゃんと知らないはずだが、それでも感じる寂しさ。
それほど、濃密な時代が20世紀だったのだろう。

懐古主義は好きじゃない。幻想はさらに好きじゃない。
私のような体験したことがない事を懐かしみ、美化するのはただの幻想だ。
知り得た数少ない情報をこねくり回して創り出した歪んだ世界だ。
それは現実でも何でもない。
私の脳内で作られた、少ない経験に規定された寂しい世界だ。
そんなものに私を占拠されたくない。

それでも、最近の「遠ざかる20世紀」感には寂しさを感じえない。
経験によるストレートな感覚として、昔ながらの風景や人、空気。
変わっていくことに寂しさを感じる。
せめて、もう少しゆっくりと。グラデーションのように行かないか。



2023年3月28日、坂本龍一氏が亡くなった。
正直、彼の音楽をきちんと聞いたことはあまり無い。
どちらかと言うと、スタジオミュージシャンとしての彼の印象が強く、山下達郎氏の「ドリーミング・デイ」を聞いた時は鳥肌が凄かった。
高橋幸宏氏が去って坂本龍一氏が去ってYellow Magic Orchestraのメンバーは最年長の細野晴臣氏だけがご存命だ。

少なからず私になにかを与えてくれた存在が急にいなくなるのは寂しい。
ぼちぼち行こうぜ、20世紀。
焦るなよ、21世紀。

細野さんはまだまだ長生きしてくださいね。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?