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つぎはぎだらけのこのいのち
病院に行く途中のやけに長く感じる憂鬱な一本道。
線路がすぐ近くにあり、たまに頭上を電車が通っては一息とまって眺めてしまう。
その一本道の途中に、いつも気になっていた家がある。
庭の木は何種類あるかわからないがどれも上品に限られた敷地の中で共存しているみたいに、ひっそり穏やかに過ごしているように見えた。
それだけじゃない、手のひらサイズの植木鉢がたくさんありそこには小さな植物たちがまるでミニチュア玩具のように生きている。なにか苗の卸しでもやっているのかなと思うくらいのボリュームがあった。
約1年ほど、この道を通るたびにその家を横目で見ていた。そこを通るときは気持ちちょっとスローペースに。季節に合わせて色を変え、花が咲き、今が一番色鮮やかだ。わたしはそんな植物たちを見るのが通院の唯一の楽しみになっていた。
ある日、病院の帰りにその家の前を通ると家主さんが植物にむかって作業をしていた。なぜかその日のわたしはやる気も勇気も元気もあって「すみません、こちらの苗木って購入できるんでしょうか?」と声をかけた。わたしにもまだこんなエネルギーが残っていたんだと少し感動する。
家主さんはきょとんとした顔をして「みていかれますか?」と庭に誘導してくれた。はじめて、いつも眺めていた場所に足を踏み入れる。こじんまりとした庭ではあるが植物たちが上手く重なり合ってとてもきれいだった。
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家主さんはどうやら販売は行っておらず鑑賞盆栽を趣味としているらしく、そのための植物を「挿し木・挿し芽」という手法でどんどん量産しているらしい。そこらじゅうにあるミニチュア苗木たちは立派な盆栽になるべく成長中の研修生ってところだ。
何年も丁寧に選定され育てられた植物たちをみて、わたしもやってみたいという気持ちになった。その日はひととおり植物をみせてもらい、後日あらためてやり方を教わりにいくことにした。
そのジブリのような冒険話を塊根植物大好き人間の彼に伝えたら、ちょうど盆栽も気になっていたとのことでふたりで弟子入りすることになった。
師匠(と呼ぶことにした)はこんなふたりを快く受け入れてくれ砂の種類からやり方まで丁寧に教えてくださって、「まずはやってみること。たくさん失敗して経験してできるようになってください。」との言葉通り早速家でやってみました。
親となる木から採取した新芽たちにたっぷり水を吸わせて、プラポットの赤土に植える。まずは第一段階、発根を待っている段階です。
「やっぱ庭付きの家がいいね」
「庭付き平屋で!猫ちゃんと暮らしたい」
「それまさに師匠の家じゃん」
毎日水をやりながら彼とわたしで過ごす時間がなんとも心地よくて”ずっとこれがいい”なんて思ったり。