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大谷川と「一つのメルヘン」

先日、ふとしたことで小学校の修学旅行を思い出した。

栃木県日光市に大谷川(だいやがわ)という川が流れている。当時、読み方が独特で面白いなと感じた。


観光バスの窓側に座っていた私は、その大谷川にかかる橋を渡りながら河原を見た。

その河原を見た瞬間、中原中也の「一つのメルヘン」という詩が頭に浮かんだ。

一つのメルヘン(中原中也)


その日は曇っているのに明るい日で、河原には大きめの石が多く転がっていたのを今でも鮮明に憶えている。
荒涼としているように見えるのに、なぜだか石は光り輝いていた。

たぶんあの瞬間の私にとっては、あそこが賽の河原だった。



今思うと、この時に初めて文学の良さが分かったような気がする。

様々な背景を調べて作品を鑑賞するのではなく、一切の情報を持たずに、ただ詩文の響きを味わうという鑑賞をしたのだ。



もし仮に文学の世界において神という存在がいるのならば、間違いなくあの瞬間私の側にそれはいたのだと思う。

それくらい心を動かされる経験をした。


大人になった今、その河原を訪ねてもそんなに美しい風景ではないのだろう。


それでもいつかまたその河原に行きたいと思った。



【終】



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