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あとひき

 このあいだ久しぶりに書店をぶらぶらとしていたら、1冊の小さな本が目に入った。安西水丸さんの本だ。新刊、ではないよなとおもって手にとってみたら、昔の単行本の編集版らしい。タイトルをみた覚えがあるけれど、たぶん読んだことのない本だったから、買って帰ってのんびりした気分で(のんびりした内容だった)読んだ。

 『たびたびの旅』というタイトルで、1980年代の終りごろから90年代後半にかけ、色々の雑誌やパンフレット類に掲載されたらしい、旅の文章と絵がついた内容の本だった。
 酒がすきな人なので、夜の街の章もあった。
 旅における土地や風土の豊かな表現、どこか人を和ませるイラスト、歴史に対する深い造詣、おいしい酒をおいてある店、のなかに突如(そう感じられる)なんだかエロティックな文が数行書かれてあったりする。
 その書きかたというのが、どうもサラッとしているような、でも内容はディープというか、なんというか・・・。
 さらに言うと、ディープだけれど肝心なところで秘したようなところもあって、その先をもう少し知りたい、そんな気分にさせられる。そこがなんとも上手い。

 こういった、あとをひく系統のものは、私をちょっとだけおかしくする。

 あとちょっとこの人の書く文章を読んでいたい、あともうちょっと味わっていたい、この音を、声をまだもう少しのあいだ聴いていたい、まあだいたいそういう感じのことがあるとき、私はちょっとだけおかしな感覚におちいっていく。

 誰かと、まだあともうちょっと一緒にいたい、そんなときも、本当はどれだけでもうれしいんだけれど、そこをぐっとこらえると、次の機会がまたうれしくなる。
 などと言って、それは次の機会がある場合の話。あるいは私が生きていられたら。

砂が落ちていく

*

 本のことから話の向きが思いがけないほうにいってしまった。
 安西水丸さんの文章は、(ディープな部分だけじゃなく)「あとちょっと読んでいたい」とおもうものが多いけれど、もうこの世にはおられないから、この先新しく書かれることはない。そうおもうとやはりさみしい。
 なくなってもうすぐ10年かあ。

*

今日もまた「イノシシ」:行きたいところがあって、今朝雑木のなかを歩いていると、がささっという音とブルルという唸り声がして仰天した。ちょっとやり過ごして、ちゃんと目的地点まで行くことができました。

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片山 緑紗(かたやま つかさ)
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