別れ

「19歳、痛みだけがリアルなら、痛みすら、私の一部になればいい」ー蛇にピアス

18歳の終わりを告げる夏、昔の恋人に会った。
私から沢山奪った人。私に初めて与えてくれた人。
誰よりも愛しかった人。

彼の増えたピアスは、口元にも及ぶ。
「スプリットタンにしたいんだ」と懐かしい声に視線を奪われる。
舌に開いたピアス。
馬鹿じゃないの、って吐き捨てた。

キスをする度ピアスはカチャカチャと音を立て、舌に触れた。
馬鹿なのは私だ。

13歳の秋頃、アドレスを交換したばかりの彼からプリンの画像が送られてきたことがある。
そんなこと、きっと彼は覚えていないけど。
私にとって最初で最後の青春だった。

19歳になって最後に彼に会ったとき、プリンを買っていった。
さよならの意味をたくさん込めたキスをした。

私の忘れられない人。私の大切な昔の恋人。誰よりも酷くて寂しい人。

帰り道、無意識に口の中を探る自分がいた。
あぁ、悪い男を好きになってしまったなあ、と少し冷たくなった風に口元が綻ぶ。

ピアッサーはパチン、と音がして、一瞬の痛みと共に呆気なく私の舌を貫通した。
思ったより痛くない。鏡に映った私からは血も、涙も出ない。
こんなものか。そうか。「こんなもの」になってしまったんだ。

ピアスを開けて3日間、プリンばかりを流し込んだ。
高鳴る胸と、静かな痛みの中に彼のことを考える時間はなかった。


2017-11-24


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