愛憎半ば、より少しだけ。
恋人は残酷な嘘をつく。彼女におそらく非はないし、それは仕方のない嘘なのだ。
仕方のない嘘とは厄介なもので、僕にはどうすることもできない。彼女を責め立てることもできない。
それで僕は努めて平静を装う。しかしこれはひどく疲れるもので、僕は身勝手にも平静を装っておきながら、時々唐突に彼女に当たってしまう。
「あなたには嘘をつく覚悟があっても、そんな嘘に巻き込まれる覚悟を僕はまだしていない。」
「あなたの嘘で傷つくのは二人だけで、得をするのは僕以外だ」
「———でもそんなこと言ったら私たちそれまでだよ。」
返答に窮する。
僕は何も言わずにPCを開いてこの文章を打ち、あなたは時々小さな鼻歌を口ずさみながら皿洗いなどをして、この最悪に淀んだ空気にせめて静寂だけは連れてこないように少し足掻く。
「ガチャ」ドアの開く音が静かに聞こえる。
今は夜の2時。あゝ彼女はずるい女なのだ。
それでもエレベーターの中で追いついた僕をみて彼女は呆けた顔をする。
彼女は見るからに重い洗濯物を手一杯に持って(最近乾燥機が壊れてしまった。痛い)、コインランドリーに向かおうとしていた。
それを持ち上げて、2人で黙って夜道を歩く。
いつもは繋ぐ手を今日は繋がない。それでも車道側を歩く。少し涼しくなった夏の夜道は先程より空気は重くない。
帰り道、彼女にアイスを買って、手を繋ぎ、車道側を歩く。
彼女はとてもずるい女で、僕はそんなずるいやり方に甘えている。少し憎んでまた愛して、これから先何度これを繰り返すのだろう。
愛憎半ば、より少しだけ、僕はあなたを愛している。
少し膨らみ始めた半月が綺麗だった。