命の心臓は心だった
ベランダに出て煙草をくわえる。
煙を吐くとそれは宙に舞い上がり強風と共に上空へ上っていく。
この時期はどこまでが煙でどこからが自分の吐息なのか分からない。
煙が昇る先を見てみる。
星が幾つか輝いている。
この体も煙のように消えて星になってしまえばいいのに。
死ぬ事は非常に難しい。
人間の体はなかなか死ねないように出来ているのだ。
だからせめて心だけでも消えてくれないかと願う。
体が消えないならせめて心が消えれば。
それはもっと難しいのだと今更思う。
何度もそう願って、でも叶った事はないのだ。
心を消す事は体を消すより難しい事なのだ。
例えば高層ビルのてっぺんから身を投げれば体はかなりの確率で消滅させられる。
しかし何をどうしても心は消えてくれないのだ。
感じる事、考える事を止めるのは簡単ではないのだ。
自分の原動力は食べ物でもお金でも知性でもない。
心なのだ。
心が私を突き動かし今私はここに居る。
私の命は心だったのだ。
そう気づいた時涙が溢れた。
どうして泣いているのだろう。
分らない。
分らないけれどまだ手放せないと思う。
命を手放せない、と。
生きるのが嫌で泣いて生きていたくて泣いて。
心がまだ生きたいと言って聞かないの。
ダダっ子みたいにここに居たいと言って離れないの。
言葉で嘘は吐けても心は嘘をつけないの。
そうやって私は生きて行くんだろう。
聞き分けのない心を抱えて持て余して時に捨てたいと切望しながら人生は続くのだ。