百年の孤独
今日は折角の祝日だというのに朝から雨が降り続いている。
人びとは傘を差しながら寒空の下を歩く。
私はもう一眠りしよう、と瞼を閉じる。
気がつくと三時間も寝ており、起毛素材のパジャマの首もとが寝汗で濡れている。
怖い夢を見たのを覚えている。
私は複数の追っ手から一人で逃げているのだ。
私が何かしたという記憶はないが、捕まれば罰が待ち受けており、私は必死で逃げまわって、恐怖で発狂しそうになって目が覚めた。
目覚めると空腹だった。
空腹が悪夢を見せたのだろうか、と思いつつキッチンに向かう。
豚の生姜焼、かぼちゃの煮付け、卵焼きに白飯の簡単な食事を作って食べる。
余りはタッパーに入れて冷蔵庫にしまう。
ベッドにもぐり図書館で借りた小説をめくる。
ページがなかなか進まない。
どうやら相性の悪い小説だった様で、本を閉じてまた目を閉じる。
起きると夕方5時だった。
お風呂に入り、髪を乾かし別の小説に手を伸ばす。
明日は出社だと思うと少し気が重い。
きっと朝方みた夢が影響しているのだ。
私は何一つ悪くないのに誰かに罰を与えられようとしている。
それは何だか境界知能の自分を投影した夢の様に思えなくもない。
境界知能だという理由でバッシングを受ける。
自分で選んだ障害ではない。
だから私に非はない。
それでもバッシングを受けるというところが、悪夢に少し似ているのだろう。
会社の人にも友達にも境界知能は告げていない。
告げればどんな目で見られるか分からない。
私のもとを去る人もいるだろう。
境界知能を告白したかつての友人が一人また一人と去っていった様に。
この障害を他言しないと決めたのは私自身ではある。
しかし誰にも真実の自分を告げられない事が、時に心に重くのしかかる。
重すぎて痛みを感じる日もある。
誰にも理解出来ない痛みを抱える事は人を圧倒的なを孤独に陥れる。
きっと三年前はよく思っていたが、慣れすぎて痛みや孤独が鈍磨したのだ。
だが、今日不意に思い出してしまった。
私は生涯孤独から逃げられないのだろう。
境界知能がある限り誰とも心の相合傘は出来ないのだ。
スマホの電話帳には多くはないが、数人の信頼出来る人の名前がある。
明日会社に行けば親しく話せる人がいる。
そんな人々に囲まれても私の持つ孤独は消えない。
カーテンの隙間からおもてを見る。
まだ雨は止まない。
私の孤独など素知らぬ顔で、雨は降り続ける。
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