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創刊号試し読みー「太郎」ジロウ

1月14日文学フリマ京都で販売します「第九会議室 創刊号」の、掲載作品の試し読みコーナーです。

ジロウ 著者紹介

X(旧Twitter):@sabu87714

「太郎」本文抜粋

 父がトカゲを飼い始めた。ニホントカゲだ。たまに彼からトカゲの動画がメッセージと共に送られてくる。今日のトカゲ、という一言だけだ。動画を再生すると、いつも顎から下しか顔が見えない父とその右肩に乗っているトカゲの姿がスクリーンに映る。太郎、と父は自らの肩に向かって呼びかける。すると、トカゲは彼の呼びかけに反応しているみたいに舌を何度か出し入れさせる。太郎は彼の人差し指ぐらいのサイズで、尻尾の先端が青白く、身体が濡れたように光っている。

 兄たちはあまり太郎のことを快く思ってないようで、これも父の独り身の寂しさの表れだと考えている。母が死んでからというもの、父の奇行や病の全ては彼女と関連付けられるようになっている。たしかにそれはそれなりに説得力があるように感じられるし、飲み込みやすいストーリーで、たまに私もそう思ったりする時もある。母が死んだせいで父はペットの温もりを求めたのだ。シンプルで誰もが思いつきそうな話でもある。最も、それが犬や猫だったらさらにわかりやすかったのだろう。……それにしても太郎とはね。最近では犬にもつけない名前だ。

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