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創刊号試し読みー「蝶の骨」旦部辰徳

1月14日文学フリマ京都で販売します「第九会議室 創刊号」の、掲載作品の試し読みコーナーです。

旦部辰徳 著者紹介(本文抜粋)

<未完成の美学>の信奉者。
好きなもの:羽化せざる蝶、花咲き難き梅、待宵月、反故原稿、人間。
※写真提供も著者です。

「蝶の骨」本文抜粋

 ルチアは思う。西日を受けた常緑の街路樹の影が、延々と、一文字につながって、黄金色に染まった石畳の上を、蛇のように這って、数百メートル先、通りの東端にある聖母修道院の懐にまっすぐ潜り込んでいる。今朝、通学バスで潜った、霧の中をアーチのように横たわる、サルバドール大聖堂の時計台の影よりも、何倍も何倍も長い影が。校門から東に折れて、バス停に向かうまでのあいだ、ルチアは、その蛇の背を、眺めながら歩く。怒れる巨大な海蛇と、聖なる力との一騎打ち。何かとんでもないことが起こって、私を巻き込んでくれないかな。
 ルチアの脇を、マチルデたちが駆け抜ける。先に行くよ。ルチアは顔を上げる。うん、先に行ってて。マチルデの、丈の短いブルネットの髪が、扇のように広がっては閉じる。また広がる。閉じる。彼女の血の透けるような色素の薄いうなじが、それ自体光を発しているかのように、輝いている。いつ見ても、星のようなマチルデ。彼女が、小鹿のように愛らしい足でステップを蹴り上げて、バスの中へ踊り込むまで、ルチアは彼女から目を離さない。また明日、マチルデ。

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