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創刊号試し読みー「僕のババロニア」南﨑理沙

1月14日文学フリマ京都で販売します「第九会議室 創刊号」の、掲載作品の試し読みコーナーです。

南﨑理沙 著者紹介(本文抜粋)

文学は狂気をも美学へと昇華する。なにも起こらなかったけれどたしかに在った貴方の切なさ、哀しみ、仄かな揺れ、そういった存在に必ず光を当てる。言葉の世界においては私たちは何の制約も受けない。言葉を通して私は自由になりたいと思っている。そしてできれば、せっかく言葉に出会ってくれたあなたにも、少しでも自由になってくれたら嬉しい。

「僕のババロニア」本文抜粋

 僕のババロニアが死んでしまった。ババロニアは若葉のような綺麗な緑色をしていて、僕はとっても気に入っていた。気に入りすぎて、僕の家の前を走り回っている大量の足音を聞いてもまだ、僕はババロニアを抱えていた。
「西だ! おまえらは西へ行け! 太陽が沈む方向へ!」
 家の外で、男の人が声を張り上げている。ザッザッザと土を捲き上げる音がする。
「いや、南だ! おまえらは南の方へ行け!」
 さっきとは別の声が怒鳴る。バラバラな指示が、太陽の照りつける町の片隅に飽和しているようだった。僕は、埃っぽいカーテンをほんの少し指で開けて、外の様子をうかがった。誰かと目が合わないことを祈りながら。
 すると、大声を上げている人が何人もただ立っていた。彼らは、走ってはいなかった。その姿はとても堂々としていて、僕はなんて格好いいんだろうと思う。
「今だ!」
 そのうちの一人が言った。自信満々な彼の表情を見たいのに、顔が黒いベールで覆われていて本当に残念だ。僕はババロニアを見た。とげとげしていて、不意に触るとそれは僕を傷つける。でも僕は知っている。こいつは、本当はとっても柔らかいんだ。みんなはこいつの棘を恐れるけれど、とってもとっても柔らかいんだ。

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