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創刊号試し読みー「手の平の星空」南﨑理沙

1月14日文学フリマ京都で販売します「第九会議室 創刊号」の、掲載作品の試し読みコーナーです。

南﨑理沙 著者紹介(本文抜粋)

文学は狂気をも美学へと昇華する。なにも起こらなかったけれどたしかに在った貴方の切なさ、哀しみ、仄かな揺れ、そういった存在に必ず光を当てる。言葉の世界においては私たちは何の制約も受けない。言葉を通して私は自由になりたいと思っている。そしてできれば、せっかく言葉に出会ってくれたあなたにも、少しでも自由になってくれたら嬉しい。

「手の平の星空」本文抜粋

  彼は、私に星空を見せてほしいと一度も言わなかった。私は、星空を創ることができる。宝石のように煌めく星空を思い浮かべながら目を閉じると、手の平から小さな宇宙が生まれるのだ。物心ついたときから、当たり前のように星空を浮かべて遊んでいたので、これが特別なことだなんて全然思っていなかった。小学校に入り、周りのみんながしきりに珍しがるのを見て、私はこれが自分だけの力なのだと知った。
 彼と二人きりのとき、星空を見せたことはない。今私は、都会にあるビルの屋上で開かれているスターライトパーティーの開始時刻を待っていた。楽屋には、私一人だ。リハーサルをしようと思って目を閉じても、頭に浮かんでくるのは彼のことばかり。あれはまだ二人が高校生だった頃のことだった。
 私たちは学校が終わると、小さな山のてっぺんにある静かな公園で過ごした。山の下には港町が広がっており、遠くから漁港を行き交う人々の声が微かに聞こえた。公園では、春は彼の頬の色にも似た桜の花びらがゆらりゆらりと舞い、夏は、ただひたすらに熱い太陽が彼の滑らかな素肌に照り付ける。秋は深紅や山吹色に色づいた紅葉が彼の瞳を染め、冬はほとんど足跡のない銀色の世界に二人で漂った。そんな四季とともに私たちは、公園から青い海に浮かぶ島を眺めていた。毎日毎日、飽きることなく。その島は、輪郭がペンギンに似ているため町の人からはペンギン島と呼ばれていた。私たちは、お互いの存在をそうっと確かめ合うように手を繋いで、動くことのないペンギン島を一緒に見ながらベンチに座って話をした。


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