他人の解散を止めるな。
芸歴も7年目になると、コンビ解散の相談をされた経験も少なくはありません。
その際、「引き止める」が模範解答なのでしょうが、僕は他人の解散を止めたことがありません。
責任を持てないからです。
例えばそれが後輩なら、この世界に繋ぎ止めた以上、ある程度面倒を見る責任が生まれます。
僕が大金持ちで「生活費の面倒を見るから続けろ」まで言えるなら止める権利もあると思うのですが、現実的じゃないですよね。
考え過ぎかもしれませんが、本気で止めるならこれぐらいの気持ちで伝えるべきですし、本気じゃないならわざわざその人の決意をブレさせるようなアドバイスはするべきじゃないですよね。
そもそも、散々考えた人間に対して「まだ考えろ」なんて僕は言えません。
「もっと話し合った方がいい」
話し合ってるに決まってます。
「才能があるのにもったいない」
才能があるから売れるとは限りません。
「あと一年だけやってみたら?」
一年前にそう思ってやってみた結果が今です。
解散を打ち明けられた他人が数秒で出した解決案なんて、本人が数ヶ月、数年、考え続けた道程のどこかにもうあるんです。
僕は解散を相談された時、止めるどころか促すこともあります。「ピンでやってみたい」にしても「別でコンビを組みたい芸人がいる」にしても「芸人を辞めて就職する」にしても、とにかく早い方がいいですから。
そりゃあ個人的な意見だけで言うと「解散しないでほしい」ですが、考え疲れた脳にたかが僕の意見を詰めるだけ詰めて放っておくのはあまりにも無責任だと思うのです。
たまに「相方が困るから思い留まっている」のパターンがありますが、これは論外です。
情で売れるなら全員売れています。
おもしろいことだけが正義の世界に飛び込んだ以上、相方におもしろくないと判断された場合捨てられることは覚悟しておくべきですし、それがお笑いに対して真剣に向き合うということだと思います。人としてはどうかしていますが。
僕を含め、ほとんどの芸人が天才ではありません。
天才ではない以上、時に非情な道を選ぶ、選ばれる、覚悟が必要です。
「可哀想だから組んでいる」は、その覚悟に対して失礼ではありませんか。
冷たいようですが、向いていない人間にしてあげられる一番の力ぞえは、早く社会で生きられるようにしてあげることです。
「おもんないならやめろ」と言っているわけではありません。何がおもしろいかなんて僕も未だに分かりませんし、基準にしては曖昧です。
でも「やる気がないならやめろ」とは思います。
無理やり縛られることも、無理やり離されることもないこの世界に自分を繋ぎ止めるものは自分自身の『やる気』だけです。
一般的な仕事と違って、お笑いなんてのはやらなければいけないことではありません。多少つまらない世界にはなりますが、仮にこの世からお笑いが消えても社会は回ります。
「やりたいからやる」が前提の世界では『やる気』が全てです。それを失ってまで無理に続ける必要なんてどこにもないじゃないですか。
向いていなくてもしがみつきたいなら、それは本当に最高なことだと思います。やる気がある以上は続けるべきです。
どうせ決めるのはそいつら自身ですから、「解散を止めない」は、他人の僕がそのコンビに示せる最大限の敬意なのです。
それでも解散は寂しいんですけどね。