最近読んだ本の中で良かった10冊を紹介します。
以前、個人でやっているYouTubeで、皆さんの愛読書を紹介して頂きました。
500件ほど応募頂きまして、その中から気になった36冊を購入致しまして、全て読んだ上で気に入った10冊を発表させて頂きました。
皆様本当にありがとうございました。
動画でも発表したのですが、noteでも、選んだ10冊を紹介したいと思います。
紹介する順番は適当です。ランキングではございませんので悪しからず。
自殺うさぎの本
アンディ・ライリー
色んな方法で自殺するうさぎが、ほとんどイラストだけで描かれています。
その表現方法がいちいち面白い。
なんかお洒落なんですよね。
ランウェイを歩くモデルのコートに縫い付けてあったり、身体中の穴にタバコを突っ込んだりと、風刺的なものもあれば、ハサミを抱きしめてバンジージャンプの列に並んでいたり、UFOが人を連れ去る時に出す光に体の半分だけを入れたり、発想が凄いのもあります。そんな中でちょこちょこシンプルな自殺も入ってくるのが面白い。
不謹慎かもしれませんが、こんなにポップに自殺を描かれると笑ってしまいます。
そういう習性のウサギだというだけで、自殺したい理由なんかは別にありません。それが、テーマにしては内容が重くない理由だと思います。
イラストだけなので10分程で読み終わり、そのまま3周しました。
本が横に長いので、仕舞う時に場所を選ぶのが唯一の欠点。
コンビニ人間
村田沙耶香
36歳女性コンビニアルバイト。スーパーマニュアル人間が主人公。
「36歳女性コンビニアルバイト」を世間一般的な、いわゆる普通の価値観で見ると「就職も結婚も出来ずに焦っている女性」と勝手に想像されてしまいます。
この主人公も例に漏れず、世間からそういう目を向けられてしまいます。
当人はただ、マニュアル通りに行動していればよい居心地の良さが好きでコンビニで働いているだけなのにです。
直接的な表現は一切出てきませんが、過去の回想でアスペルガー症候群を思わせるエピソードが幾つか出てきます。そんな彼女が「普通の人間」として見られる為に、普通の人間の真似をして生きている話。
こうやって説明すると重そうなテーマですが、読んでみると全然爽やかです。
こういう「世間と感覚が違う主人公」の物語にありがちな描かれ方として、生きづらさを憂いて同情を誘うみたいな、悲哀の押し売りみたいなものがよくありますが、この作品からはそういう押し付けがましさみたいなものが全く感じられませんでした。
僕は心が狭いので、何かに憂いている人間を見るとイライラするのですが、コンビニ人間の思考や言動は清々しく、僕にはむしろ理想の女性の様に思えました。
共感できる価値観ではないけど、筋が通っているので理解は出来ましたし、全体通してなんとなくアートだなと思いました。
人によってハッピーエンドかバッドエンドかが割れそうなラストになっています。そういう作品は多いですし、モヤモヤするので僕はあまり好きではないのですが、不思議とこの本に関しては個人的に「超ハッピーエンド」という感想を持てました。
「普通」とはなんでしょう。
天使のナイフ
薬丸岳
ヤバい本に出会ってしまいました。
学校の国語と道徳を廃止してこの一冊でいいと思えるぐらい強烈です。
少年犯罪がテーマの作品なんですが、読みはじめはむちゃくちゃムカつきます。
子供の目の前で母親を殺害した人間が、「未成年だから」という理由だけでその辺のおっさんよりも完璧にプライバシーを守られるんですね。少年たちを守っているのは他でもない少年法です。
この少年法の是非をかなり深いところで問うた作品です。
作品内で「可塑性(かそせい)」という言葉がよく出てくるのですが、少年少女にはこの可塑性がある。要は「成人に比べて更生する可能性が高い」という理由から、少年法で保護されています。
なんじゃそれですよね。
更生できる成人もいれば、どうしようもないガキもいるので、20歳で線引きする必要性なんかあるかいなと、初めは思います。読む人のほとんどは被害者目線なので。
しかしこの小説内では、被害者はもちろん、加害者、警察、更生施設の人間、とにかく関わり得る全ての人間目線で、少年法について描かれます。
別にこれで犯罪に対する考えを改める必要はありません。目線を変えたところで殺人が良かったことには絶対にならないので。
しかし少年法の是非に関しては、見つめ直すことになる可能性が高いです。
さらにこの本は、問題提起にとどまっていません。
単純にストーリーがめちゃくちゃ面白い。
小説として面白すぎるのです。
そしてタイトルのセンス。
「天使のナイフ」て…。
どこを取っても完璧です。
京極のnoteを読んでいる暇があるなら天使のナイフを読んでください。
騙し絵の牙
塩田武士
小説が映画になったり、映画が小説になったりはよく聞きますよね。
どちらも売れたから「結果的に」そうなったものですが、この小説は初めから映画化することを決めていた作品です。
故に、大泉洋さんが表紙です。
大泉洋さんが演じる前提で書いているからです。
これ凄くないですか?
めちゃくちゃ後に引けないプロジェクトですよね。
「吐いた唾は死んでも飲まんぞ」という覚悟がとても好きでした。
内容もめちゃくちゃ面白かったです。
舞台は出版社です。なんとなく想像つきますが、やっぱり最近の出版業界ってかなり厳しいらしいんですね。
そんな中で、なんとか黒字を目指して奔走する、カルチャー誌「トリニティ」の編集長が主人公で、この人がめちゃくちゃ大泉洋です。映像がありありと浮かびます。大泉洋さんを知っているので。
僕は作品を観賞するとき、世界観やストーリーよりも、キャラクターに重きを置くタイプなので、この主人公はドンピシャでした。
飄々としていながら抜け目がない。理想の主人公。
出版業界の事情を知れるのも面白かったです。
もう少し早く読んでいれば映画の公開に間に合ったのですが、読み終えた段階ではもう埼玉の映画館でしか上映していませんでした。スケジュールの関係で難しかったのですが、ギリギリまで行くつもりだった程です。
今改めて検索したらAmazon primeでレンタルしてました。
観ました。
あくまで書籍の感想なのでここまでにしておきます。
夜市
恒川光太郎
ジャンル的には一応ホラー小説なんですが、所謂ホラーではありませんでした。
世界観が奇妙で、妖怪やら化け物やらは出てくるのですが、怖さではなく、ストーリーを楽しむ作品です。
作品を語る時に別の作品を持ち出すのは野暮極まりないのですが、どこか『千と千尋の神隠し』を彷彿とさせる世界観で、「化け物は出るがホラーではない」というのもそれに近いのかなと思います。
この本の中に「夜市」と「風の古道」の2作品が収録されているのですが、本当にざっくり言うと、どちらも「出ようとする」お話です。
出るために必要なモノやコトを追い求める中で、判明するアレやコレやが衝撃的で、俯瞰で見る夢の様な、第三者目線にも関わらず、自分もその物語に参加しているような、それぐらいの没入感がありました。
しかもラストは感動的。
大人用の絵本って感じですね。
とにかくワクワクします。
『アニメで観てみたい小説ランキング(架空のランキング)』一位(風の古道)と二位(夜市)(京極調べ)なので、是非読んでみてください(マジで)。
正欲
朝井リョウ
これは素晴らしい本です。
最近よく聞く「多様性」という概念に斬り込んで斬り込んで斬り込んだ作品です。
とある事件についての記述から始まります。全てを読み終わった後、もう一度その記事を読むと、印象がガラリと変わります。
ここからは書評ではなく、僕が考える「多様性」です。
人って70億って数字に現実味を持ててないですよね。
それがダメとかじゃなくてそれで当たり前なんですが、言葉としての「世界」と現実的な意味合いとしての「世界」って億単位で差異があります。
実際に目に映る「世界」には、実はそんなに他人はいないですよね。
「多様性」もそうです。この「多様」は実際70億には向けられていないんですね。
僕は多様性を認めるって「ほっとく」ってことだと思うんです。
「自分と価値観の違う人間を理解する」はそれの対極にありませんか。
「70億もおったらそういう奴もおるやろ。ほっとこ。」がなぜ出来ないんでしょうね。
LGBTなんて言葉無意味です。本当はその後に無限にアルファベットが並ぶし、そのアルファベットひとつひとつの中にもっとややこしい分岐があるんですよ。
多様性を認めると宣いながら、何かの枠には嵌めたがる矛盾が「多様性」を主張する人間の気持ち悪さですね。
でもそいつがそれを主張したいなら勝手にすればいいと思います。「そういう奴もおるやろ」としか思いません。
他人を認めようなんて烏滸がましいです。自惚れです。「自分はどんな奴でも理解できる」と信じているなんて僕以上のナルシストだと思います。
「なんかアイツ訳分からんけど、話おもろいから喋ろ。」で十二分だと思います。
大事なのは「自分は何か」だけです。
僕は男で、女が好き。それだけ分かってればいいんです。それ以外は考えるだけ時間の無駄です。
他人を100%理解なんて無理ですし、それが人間の面白いところです。
こういう奴もいます。
カササギの計略
才羽楽
歪んだ愛というか、歪んだ憎というか。
「分からんことないけど分からんわ」って感じの動機で、ある人間がある事をやります。
本当何も伝えられなくて申し訳ないのですが、何の情報も入れずに読むべき作品なのでご了承いただきたい。
終盤、「なーんか気持ち悪い終わり方しそうやなぁ」と思ったのですが、良い意味で裏切られました。気持ちよかったです。
ここまでの作品で共通している事なんですが、やはり全てタイトルが良いですね。
「自殺うさぎの本」みたいなそのままのやつもいいのですが、僕は「天使のナイフ」とか、「騙し絵の牙」とか、「カササギの計略」みたいな、意味を探したくなるようなタイトルが好きみたいです。
この「カササギの計略」の意味が繋がる瞬間の快感を、皆様も是非味わってください。
ゴールデンスランバー
伊坂幸太郎
ドローンで首相が暗殺されます。それ自体本当にあり得そうで怖いのですが、本当に怖いのはそこではありません。
なんの関係も無いある一般人が、それの犯人に仕立てあげられるのです。
「疑いをかけられる」じゃないんですよ。
「仕立て上げられる」んです。
誰に?
作中に明言はありませんが、恐らく「国」にです。
いくらアリバイがあろうと関係ありません。国が犯人だと言えば犯人です。
絶望です。絶望の話です。
主人公が本当に可哀想で可哀想で。
ただの良い奴なのに、何かの陰謀で鬼の指名手配ですよ。国民は一人の意見より警察を信じますので、日本中が敵になるんです。こんなん無理じゃないですか。可哀想に。
さあ、どうやって逃げるのか。
果たして逃げ切れたのか。
実際に読んで確認してみてください。
冷静と情熱のあいだ
江國香織(Rosso)/辻仁成(Blu)
同じストーリーを、男性目線と女性目線で描いた作品です。
同じストーリーと言っても、それぞれ別の生活をしています。どちらも少々鼻につくぐらいお洒落な生活です。
ただ、この2人は昔付き合っており、その当時の思い出や、終盤の話では、景色と時間を共有した別の目線の物語になります。
これが斬新で面白い。
両者共にクセ強めです。
もちろんどちらか片方だけでも話として成立しているのですが、やはり両方読んで頂きたい。
どちらから読んでも大丈夫なんですが、一冊ずつではなく、一章ずつ交互に読んでください。
そうやって連載していたらしいので。
Bluで終わる方が気持ち良いです。
そうやって連載していたらしいので。
ちなみに「Blu」は「ブルー」ではなく「ブリュ」らしいです。
知ってたとは言わせませんよ。
Rosso(ロッソ)とBlu(ブリュ)です。
映画もあるみたいなので、併せて是非。
江戸川乱歩傑作選
江戸川乱歩
江戸川乱歩すげえ。
これに尽きます。
到底現代に当てはまる設定ではないにも関わらず、推理小説として面白いのは本当に凄いと思いました。
全作品で度肝を抜かれたのですが、僕が特に好きだったのは「人間椅子」です。
Kindleで無料で読めるのでそれだけでも読んでください。
Kindleはレジェンド作家の書籍を無料にしがちです。
江戸川乱歩レベルになるともはや教科書ですから、全員が読むべきだということです。義務図書です。
Kindleで読んだら、紙で買ってください。
特に人間椅子は、紙で読んだ方が面白いです。
理由は読めば分かります。
以上が、僭越ながら選ばせて頂いた10作品です。
ほんまに全部読んでくれ。