柏レイソルについて考える
今回は僕がもうすぐ20年追い続けていることになる、柏レイソルについて考えていきます。
今シーズンの柏レイソルの成績
現在、21/38試合を消化して5勝14敗2分の勝ち点17ptの16/20位。しかし、今年はコロナ禍での様々な要因から、下位チームの試合数が不足しており、その結果次第では19/20位も有り得るという非常に厳しい状況です。
1試合あたりに得られている勝ち点は0.81pt。これがどれくらいの数字なのかをイメージするために過去の自動降格ラインを見てみましょう。
2015 : 16位 松本山雅FC 0.82pt (28pt/34試合)
2016 : 16位 名古屋グランパス 0.88pt (30pt/34試合)
2017 : 16位 ヴァンフォーレ甲府 0.94pt (32pt/34試合)
2018 : 17位 柏レイソル 1.15pt (39pt/34試合)
2019 : 17位 松本山雅FC 0.91pt (31pt/34試合)
2020 : (降格なしなので参考値) 17位 ベガルタ仙台 0.82pt (28pt/34試合)
もちろん毎シーズン条件は異なりますので、単純に比較できるものでは無いですが、数字だけ見ると...なんと全てのシーズンで降格することになります。加えて、今シーズンは、昨シーズンにコロナ禍特別措置として降格枠「0」とした反動により自動降格枠が通常よりも多い「4」となっています。つまり、比較対象は自動降格ラインではなく、各シーズンの下から4つ目のチームとすべきなのです。
2015 : 15位 アルビレックス新潟 1.00pt (34pt/34試合)
2016 : 15位 アルビレックス新潟 0.88pt (30pt/34試合)
2017 : 15位 サンフレッチェ広島 0.97pt (33pt/34試合)
2018 : 15位 名古屋グランパス 1.21pt (41pt/34試合)
2019 : 15位 サガン鳥栖 1.06pt (36pt/34試合)
2020 : 15位 横浜FC 0.97pt (33pt/34試合)
この数字を上回る成績を残すことが求められ、仮に分かりやすくターゲットを1.00ptに設定した場合、シーズン終了時の勝ち点は38pt、不足分21ptを残り17試合で稼ぐ必要があります。つまり、1試合1.26ptペースの水準まで引き上げないといけないわけですが、ここ10試合は1勝8敗1分の1試合0.40ペース、引き上げとは程遠い状況です。
柏レイソルの現状 : 主力選手の流出
数字から、悲惨な成績であることはお分かりいただけたかと思いますが、現在柏レイソルというクラブが抱えている闇は、ふるわない成績だけではありません。
今シーズン、江坂選手は16試合、呉屋選手は12試合に出場。呉屋選手は、柏レイソルでは本来の力を出せていなかったとはいえ「主力」と扱うべきでしょうし、エースナンバーを背負う江坂選手については言うまでもありません。そんな2人がシーズン中に同カテゴリへの完全移籍。
2005年、初めてJ2に降格した時、シーズン終了後に主力選手が数多く移籍しました。問題の入れ替え戦ホームは現地で見ていましたが、悲しい気持ちよりも、J2という未知のステージに対して「この先どうなってしまうんだ」という恐怖のほうが大きかったこと、うっすらとおぼえています。そして、この頃は、見る側も経営・フロントまで含めた考え方ができる人は今ほど居なかったように思えます。今ほどSNSが普及していなかったこともあるでしょう。目の前で起こる残酷な結果を受け止めきれず、移籍する選手たちを"裏切り者"と呼ぶサポーターも、少なくはなかったです。
J2降格が目前に迫り、今再び、同じような状況が起こりつつあります。しかし、僕の観測範囲では選手を責めるサポーターは、ほとんど居ませんでした。むしろ「移籍して当然」「誰だってそうする」「一人の選手として期待しているので移籍先で頑張ってほしい」といった意見がほとんどです。誰もがこの移籍に納得してしまっているのです。僕も、もちろん同意見です。彼らは柏レイソルの一員である前に、1人のサッカー選手ですから、どんな状況であっても高みを目指す心を持っていて然るべき。労働環境に問題があるのであれば、それを変えることは到底非難されることではないのです。
柏レイソルの現状 : チーム構築のほころび
では、いつから柏レイソルというチームに「問題」が生じていたのでしょうか。近年の柏レイソルの成績は、この通りです。
2018シーズン(J1) : 17位でJ2降格
2019シーズン(J2) : 1位でJ1昇格
2020シーズン(J1) : 7位
2021シーズン(J1) : 現在暫定16位
2021シーズン開幕にあたり、何があったのか。それは、78試合で61得点15アシストを記録した圧倒的"個"、オルンガ選手の移籍です。
しかし「それだけの選手が移籍したなら仕方ない、J2降格は免除してあげよう」とはなりません。オルンガを柏レイソルに、Jリーグに留めておくのが難しいことは全員分かっていたのです。外から見ている僕たちの目にもそう映るのですから、一緒にやっている選手はもっと感じたでしょう。
江坂選手の移籍については、様々な感情、憶測が飛び交い、クラブ内に留まらずJリーグを賑やかすトピックとなりました。「監督との確執があったのではないか」「もう心は柏レイソルに無いのではないか」と。
心は無さそうですね。さて、話を戻します。江坂選手が移籍したことで、東葛まいにちさんのインタビューは大きな意味を持つことになってしまいました。
年間を通して、まとまったサッカーができなかった。実際になんで勝てたのか分からへん試合もあったのは事実やし、自分たちに絶対の自信を持てるような試合も少なかった。もうちょっと、『レイソルのサッカー』っていうのがあってもいいんじゃないかなと。ただ、これは自分たちだけでは決めれないところでもあるんやけど
ミカ(オルンガ)を活かした速攻が目立つにしても、実際にプレーしている側としては、『それだけではきついよな』っていうのは現実としてあって、正直、攻め込まれている時間が長過ぎる試合も多くて、ミカがゴールしてくれて勝てていた部分はあっても、内容的にもガッツリ負けてしまっている試合も多い。そう考えると、速攻以外の攻め方やレイソルのサッカーを確立するべきだと思う
川崎は典型的やし、横浜FMもサッカーを貫いて2019年は優勝までしていて、C大阪にもロティーナ監督(清水)のサッカーがあった。最初は苦しんでいながらも、最終的にあの順位まで上がった鹿島にも貫く形があった。他チームからすれば、『レイソルはカウンター』と見られているかもしれないけど、自分たちは必ずしもそうは思ってへんというか
試合中継を見ていると、実況/解説者は柏レイソルのことを「相手に合わせてやり方を変えてくる」「良い守備から良い攻撃へ」「自分たちのやりたいことをやるのではなく、相手の良さを消すサッカーをするチーム」と説明します。2020シーズンに7位という、決して悪くない成績であったわけですが"相手に合わせてやり方を変えている筈なのに、それが有効に機能していない試合"や"良い守備からつながる良い攻撃がない試合"も数多くあったように感じます。そして、江坂選手のこのインタビューは、それを裏付けるものだと言ってもよいでしょう。サポーターが思っていたことを選手も思ってくれていた、嬉しいことですね。
勝てなくても指揮官は「やり続けるだけ」と不変の姿勢を貫く。でもやっぱり結果がついてこない。
苦境打破には抜本的改革が必要だ。このまま同じ戦い方を続けて暗いトンネルから抜け出せるとは思えない。まずは「迷い」を取り払うことが重要だ。そのためには、「相手ありき」の考え方を捨て、選手の武器を活かすべきだろう。
今は、試合を増すごとに内容が酷くなっています。不変の姿勢を貫きながら、チームの雰囲気が悪くなっていくのですから当然と言えます。試合にも負け、試合内容も悪く、主力の選手が問題点を的確に指摘した上で同カテゴリに移籍をする、これでチームの雰囲気が良かったら、それはそれで大問題なわけです。そんな苦しい時こそ、シンプルなアプローチ『レイソルのサッカー』が必要なのではないでしょうか。2021シーズン開幕前のキャンプ、そして6月の中断期間、『レイソルのサッカー』を得る機会を放棄し、主力選手の流出が始まったのです。
選手は熱く、クラブ経営は冷えている
まず、柏レイソルのクラブ経営サイドは「常勝のチームになりたい」とか「みんなに愛されるチームになりたい」とか、そういったことは強く感じていません。それは、このクラブの成り立ちに関わるものが大きく、サポーターも薄々感じていることです。J2に落ちてしまえばいい、とまでは思っていないでしょうが「あわよくばそれなりに勝てるチームができたらいいな」とか「いつも来てくれているサポーターが来てくれれば満足」というあたりが現実的なラインです。
たとえば、グッズ展開の温度差は非常に顕著ですね。近年、Jリーグでは、期間限定ユニフォームを発売するのが流行しています。直近では栃木SCさんの夏限定ユニフォームにグッと来ました。
サッカースタイルから生まれた新しいユニフォーム
2021年 栃木SC夏季限定ユニフォームは
"STORMING" をコンセプトに展開。
「"ストーミング"という戦術を使って戦っていくんだよ」とサポーターに示す意図もあり、痺れます。ユニフォームは決して安いものではないですが、選手とおそろいの限定ユニフォームを着て戦う特別な数試合、良い思い出になること間違いなしです。ライブTシャツのようなイメージですかね。
各チーム限定ユニフォームの発売はすっかり定番化したのですが、柏レイソルでは当然そういったものは供給されません。それどころか、通常ユニフォームですら2年に1度のデザイン更新です。他のチームは毎年ユニフォームのデザインを変えて、限定ユニフォームも出している中で、です。もはや周回遅れ。クラブを使ってビジネスするモチベーションは無く、サポーターは特別な体験を受けることなど出来ないのです。
移籍した江坂選手と呉屋選手のユニフォームを修正して在籍中の選手に書き換える方まで。ネタの側面も強いのかも知れませんが、今年はユニフォームのデザイン変更年だったので、あと1年半も居なくなった選手のユニフォームでスタジアムに行くことになるという現実は、あまりにもつらすぎますね。
また、スタジアムでのサブイベントなども必要最小限に留まっています。サッカーはもちろん、サッカー以外のことでも良い体験を提供し、サポーターの数を増やすというのがスタンダードな手法になりつつある昨今、硬派な姿勢を貫き続けているわけです。
選手それぞれの取り組みや練習、地元の商店街を回る活動や陸前高田でのボランティア活動など、そういうのをYouTubeやテレビで見たんです。こんな前からこんな取り組みをしていたんだ、すごいなって思って見ていくうちに、好きになっていきました(笑)
自分の好きなものをもっと多くの人に知ってもらいたい、というのがサポーターの心ですから、こういった「選手のメディア露出によりサッカーに興味をもった」というエピソードを見るたびに「なぜうちは...うちはこれが出来ないんだ」と下唇を噛むことになります。
何故、クラブ運営が冷え切っているのか
先程から冷えている表現を用いていますが、クラブフロント内部では、クラブ運営は「概ね成功」という扱いになっているのではないかと推察しています。クラブ運営の成功は、オーナーからのミッションをこなせた場合に実現します。このミッションが、「常勝のチームにする」とか「みんなに愛されるチームにする」ではなく、「チームを存続させる」とか「限られた人員で黒字を出す」というものだった場合、ミッション自体はクリアしていることになります。現状で満足していたら物販やイベント企画を頑張ったりはしませんよね、納得がいきます。こういったことは、過去のクラブ/サポーター意見交換会で垣間見ることができます。この議事録は大変興味深い内容となっておりますので、お時間が許すのであれば、ぜひ全文を読んでいただきたいです。
ちなみに入場者数を増やさなければならない理由をどうお考えですか?
今以上の収入を得るために新たなコストを掛けるより、収入は今のベースを維持しながら工夫をしてやっていこうという考え方でやってきましたので、もっと"好感度を上げ、集客を"というところを最優先はしていませんでした。ファンサービスについては、新たなファンを望む前に、今我々を支援してくれている方々をしっかり大事にしよう、その方々に背を向けないようにやろうということがコンセプトでした。
収入は、そんなに上がりません。例えば、今平均1万人の観客が仮に全試合満席になったとしても、今得ている入場料収入を上回るのは1億円ほどかと思います。1億と言ったら大きな差だろうとお叱りを受けてしまうかもしれませんが、それに関わる営業費用や人的な数を考えたときに、そこに傾注してやっていくというクラブサイズではないと考えております。色々なクラブで色々なサービスがあります。アウェイゲームで各地に行かれる皆さんは、我々が応援しているクラブはあまりにサービスが悪いな、と痛感される場面が多いのではないかと思います。とはいうものの、我々がその部分について非常に体たらくだ、という風には捉えていただきたくないと思っています。
これがクラブの色だから温度差を感じずにいてください、と言われてしまうと...
長々と綴ってきましたが、ここで行き詰まりなのです。このクラブを好きで、もっとたくさんの人に知ってもらいたいという感情を抱いた時点で、顧客対象外になってしまう。ジレンマですね。
おわりに
サッカーチームを好きになるときにクラブビジネスのビジョンまで考慮する人なんていませんでしょうから、オーナー/クラブフロントとサポーターの心が通う現場が少しでも増えることを祈っています。