『海のルルル』
なかなか映画が撮れないので、漫画を描いてみました。
せっかくなので映像化の目処が立たないオリジナルシナリオを元に。
まずは手始めに連作短編として企画していた『海のルルル』というシナリオから。
このシナリオは元々、湘南在住の脚本家・浪子想氏と「海辺のバーを舞台にした『スモーク』とか『深夜食堂』みたいな定点モノをやりたいね」というところから話が盛り上がり、勝手に倍賞千恵子さん倍賞美津子さんをそのまま姉妹役で脳内キャスティングしていったところ、知らず知らずのうちにロバート・アルドリッチ監督の『何がジェーンに起こったか?』的な要素も侵食してきたりして、結果、このようなテイストになったものです。
『海のルルル』(仮題)
○ 夕暮れの海
一艘の手漕ぎボートが進む。
漕いでいるのは、サングラスに真っ赤な口紅、
ハイヒールを履いた派手な格好の女性・風子(67)。
風 子「…」
手を止めて、遠くを見つめる風子。
サングラスを外す。
岸で何かが光っている。
再び漕ぎ始める風子。
○ 海岸
日が落ちてすっかり暗い。
海岸にぽつんと建っている店「Barルルル」。
海面に店明かりが映り、揺れている。
○ Barルルル・店内
壁掛け時計のゼンマイを回している店の女主人・夕子(70)。
しかし時計の針は動かない。
夕 子「…だめねぇ」
カウンターに戻る夕子。
男性客・志麻が一人、座っている。
志麻に空のグラスを差し出され、お代わりを作る夕子。
時計を見やる志麻。
止まった時計や、どこもかしこも古びた店内を見回す。
志麻の前にグラスを置く夕子。
夕 子「…潮時よねぇ」
志 麻「…」
夕子が置いた酒瓶を手に取ると、飲むように勧める志麻。
夕 子「じゃ、いただこうかしら」
と、グラスを志麻に差し出す夕子。
夕 子「最後の日ぐらい、いいわよね」
グラスを合わせて酒を煽る。
夕 子「ありがとう」
と、何かに気づいて、扉の方に顔を向ける夕子。
○ 同・表
風子の漕いでいたボートが砂浜に上がっている。
店の前にスーツケースが置かれている。
○ 同・店内
サングラスをかけたままカウンターに座っている風子。
戸惑いを隠せない様子で立っている夕子。
風 子「白がいいわ」
ワイングラスを用意する夕子。
夕 子「…」
ワインを注ぐ。
差し出されたグラスを持ち上げる。
風 子「再会に」
夕 子「…」
飲んでいたグラスを持ち上げる夕子。
酒を煽る二人。
煙草を取り出す風子。
風 子「店、売るって?」
夕 子「…」
風 子「聞いてないんだけど」
夕 子「…連絡先も知らなかったし」
風 子「勝手じゃない?」
夕 子「どっちが…」
風 子「半分私のもんでしょ」
夕 子「!」
と、口を押さえてトイレに駆け込む夕子。
夕子の飲んでいたらしい酒瓶を手に取る風子。
[泡盛 70度]と書かれている。
風 子「…」
煙草に火を点ける。
○ 同・トイレ
水洗レバーを捻り、便座に腰かけて口を拭う夕子。
ぐったりと頭を壁に預けると、目を閉じて動かなくなる。
○ 同・店内
志 麻「…」
酒を飲み干す志麻。
風 子「…もう灰皿どこよ。もう」
カウンターに入って、灰皿を探している風子。
席を立つ志麻。
志 麻「あんた、夕子さんのお姉さん?」
空き缶を見つける風子。
風 子「失礼ね。妹!」
財布を取り出し、札を出す志麻。
志 麻「…釣りは、“また”って言っておいて」
受け取らない風子。
ようやく見つけた空き缶に灰を落とす。
風 子「しまって。ツケとくから」
煙を吐く風子。
札を財布に戻す志麻。
志 麻「…じゃ」
風 子「“また”」
店を出て行く志麻を見送る風子。
風 子「…」
先程まで夕子が立っていた場所に立っている風子。
サングラスを外し、店内を見回す。
何かに目を留める風子。
風 子「…ただいま」
視線の先には、古い家族写真がある。
○ 同・トイレ
寝ている夕子。
○ 同・表
穏やかな波の音。
海に月が揺れている。
(第二話へ続く)
さて、いざこれを実際に描こうにも、漫画なんて中学の時に(数人の友達に見せるために)遊びでノートに描いていた程度。どうしていいのやらと頭を悩ませ、いくつかのマンガ入門サイトを参考に、Gペンやら漫画原稿用紙やらコピック(ペン)やらも今回初めて購入。机に向かって描き始めたわけですが、溜まっていくのは原稿ではなく、消しゴムのカスばかり。
普段、映画を演出する時にはまず「人物をどう動かすか?」を考えますが、これを絵で表現するとなるとかなり難易度が高く、下書きを描いては消し、描いては消しを繰り返し、徐々に「いかに人物の動きを減らし、動きの無い中で表現するか?」という方向にシフトしていきました。
言うなれば、映画監督としてのシャドーボクシングみたいなもんです。これからも身体がナマらない程度に続けていければと思っておりますので、お時間ある時にでも覗いていただけたら幸いです。