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夢:人の面影を残す人型との戯れ

30年の時間を遡る禁忌を見た。今をとるか過去を選ぶか、幾度も繰り返していたことを忘れていたようで、しかし禁忌に触れて思い出した。
方法は確立していた。その時に警告もあった。人の面影を残す人型が、幾度も警告をしてきていた。

懐かしい声を手放せずにいて、義務感から逃れられずにいて、どちらが最適なのかなんて比べるまでも無いのに、禁忌の甘い誘惑が10を超える試行回数に至っていたことに意味を見出せずにいた。人型から受ける身の毛もよだつ警告が、危険を伴わないただの嫌がらせでしかないことに気付いて視界は一変する。

追い詰めた人型が薄っぺらい細身の金属片を暴発させたことは予想外だったが、それでも酷く冷静な自分は穏やかに人型の境遇に耳を傾けて、虚勢と素直さが混じる言葉からその禁忌について聞いた。成れ果ててしまったが故の警告と長い月日からなる無邪気への変貌は、すぐに合点がいく。甘い夢をみた代償だ。

行動は早かった。優先順位はよく分からなかった。身の安全なのか、最大限の享受なのか、それ以外なのか。果肉植物を連れ出し、白い毛の猫に語りかけ、人型たちと共にどこかに向かっていた。これまでは通学路、交差点、団地、自室が主な場面だったが、猫に話しかけた路地裏の次は畳敷きの広間だった。

そっちに行ってはならない、そこに近づいてはいけない、そんな恐れの強い場所こそが核心に近い場所だとあたりをつけた。
気付けば80インチはありそうなモニターを前に、急かされるような気持ちでビデオゲームをこなしていた。人型は熱狂的なギャラリーとなり、ゲームクリアが恐れの払拭になるようだった。

順調に進行するとゲームから意思を感じ始めていた。恐れはなく、人型に似た気配を感じていた。そして、フェアではないバグのような明らかな妨害に邪魔をされる。特に抗うことなく自らゲームを降りるように、ごく自然にケーブルを引っこ抜き、コントローラーをばらばらにすると紙のように破れた。

人型は呆気に取られると、嘆きだした。これで、俺ももうおしまいだと言わんばかりに。
モニターから感じ取れていた意思はより明確になっていた。挑発や高揚感からの失望。意思の疎通が可能だとすでに理解していたので、どうか俺を身代わりに、人型たちにもう一度だけやり直すチャンスを欲しいと懇願した。

部屋の崩壊とともに答えはすぐに返ってきた。親切な説明はなく、人型の消失と自分自身の変質。考えることの放棄は気が楽で、そのまま狭間の世界に囚われても、あの無邪気な人型よりはもう少し上手くやれるかもしれない。が、ご都合主義のように龍が助けてくれた。モニター越しの意思も笑っていた。

「面白いからついていく」と、いつの間にか手に握られていた化繊の白いタオルがそういうと、懐かしい30年前の祖父の家で目を覚ました。傍らの兄が、洗濯するからそのタオルを寄越せというので、白いタオルとはそこで別れた。そのまま外に出て、自転車にまたがり日常に戻る。また、選択と決断を続けていく。



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