私の人生を定めた男の話/聖黒シリーズ及川純
私のBL人生において、語らねばならない男。及川純。
今回は「また及川純みたいなキャラクターに落ちた…」という私のセリフしか聞いたことない友人へのプレゼン記事です。
しぬほど長いので、興味がある人だけ、ぜひ。
※柴田よしき・著「聖なる黒夜」「所轄刑事・麻生龍太郎」の登場人物(非BL作品、ミステリです)
※ネタバレを多分に含んでいるので、今後も読む気がない人以外は注意してほしい。
出逢いは「決断 警察小説競作」というアンソロジー。大沢在昌、今野敏、佐々木譲が好きだった若かりし頃の私は、収録されていた「大根の花」という作品が気になって気になってしまい、関連作を読み漁ることになった。
同時期に腐女子としての自我が芽生えていたこと、毎月お小遣いとは別に図書カードをそれなりの額もらっていて、欲しい!と思った本を買うことに躊躇する必要がなかったということも大きいと思う。
作品について~シリーズ・関連作~
及川純を知るために読んでもらいたい本は、時系列順に並べると「所轄刑事・麻生龍太郎」「聖なる黒夜」(文庫で上下巻)の三冊。
文庫版の「聖なる黒夜」の解説を三浦しをんが担当していることから、なにかを察せられる人は察せられるだろう。
※読む順番としては「聖なる黒夜」が先のほうがキャラクターがわかりやすいと思う。「所轄刑事・麻生龍太郎」は麻生龍太郎の過去編という感じなので、先に読まなくても大丈夫。
※「聖なる黒夜」を読む際には角川文庫版を入手してほしい。上下巻にそれぞれ一編ずつ収録されている番外編は、必ず、絶対に、本編を読み終わったあとに読むことを私と約束してほしい。
関連作:「私立探偵・麻生龍太郎」「海は灰色」(電子書籍のみ)→麻生龍太郎と山内練の話
「RIKO」シリーズ→麻生龍太郎が登場する
「花咲慎一郎」シリーズ→山内練が登場する
※そもそもが「RIKO」シリーズに出てきた麻生龍太郎というキャラクターが主人公のスピンオフという位置づけが一連の作品。
キャラクターについて~腐女子から見た雑感を添えて~
まず及川純を主軸にキャラクターを簡単に紹介しておこう。
❁及川純(おいかわ じゅん)
私の推し。人生で一番の推しかもしれない…と思っている。
「所轄刑事・麻生龍太郎」時点で28歳、警部補。
捜査四課(暴力団対策課)の合法スレスレの武勇伝を山と持つやり手刑事。ゲイであることを隠していない。潔癖症。
麻生龍太郎(及川純との年齢差は2学年)は大学の剣道部所属時代、彼の付き人をしていた。
剣道の腕は世界大会も優勝できるようなレベルでずば抜けていたが肩への怪我により、もう続けていない。(プライド高いので…)
私は彼みたいなキャラクターに野良猫受けと名付けたい。こう……愛されたいのにうまく態度に示せない……でも攻めにはバレバレ…みたいな。萌えませんか!?
❁麻生龍太郎(あそう りゅうたろう)
自分の在り様にずっと違和感を抱いていた男。執着心が薄い。それがゆえに、無意識・無自覚に他人を翻弄する。キャラクター性では山内練が「魔性の男」だというような印象を受けそうだが、実際は麻生龍太郎のほうが罪深いと思う。
「聖なる黒夜」後は警察(捜査一課の刑事)を辞め、私立探偵をやることになる。
ちなみに私がハイライトを吸っていたのは、彼が吸っているタバコの銘柄だったから(出たな!オタクめ!)
商業BLだと鈍感ノンケ攻めとかにカテゴライズされそう。
❁山内練(やまうち れん)
白檀のような匂い、男を誘う色香を持つ男。左胸、心臓の上あたりに青一色で彫られたウスバシロチョウの刺青を持つ。
麻生龍太郎に人生を狂わされ、麻生龍太郎の人生を狂わせる。
とある罪で刑務所に入り、オンナの代用品にされる。刑務所を出てからは男娼からヤクザ・韮崎の愛人兼経済ヤクザ(紛い)になる。
山口智充・主演で「花咲慎一郎」シリーズがドラマ化した際には、中村俊介が演じた。(私はこの人、山内練じゃなくて麻生龍太郎だと思っていたのだけどなあ…というボヤキ)
なお「聖なる黒夜」はこの韮崎というヤクザが殺された事件を解明する話。そしてとあるキャラクターの「冤罪」についての話でもある。
山内練はまあ、ビッチ受けって言われそうですね。(雑)ビッチはビッチでも麻生龍太郎に対しては処女ビッチな男だと私は思っています。
及川純は麻生龍太郎と山内練の関係に対する当て馬のようなポジション、過去の男なので、情報が足りない。私は七悪のなかでも強欲の腐女子なので、もっと及川純のことが知りたいのである。
関係性について~なぜ私は及川純に堕ちたのか~
さて。続きまして、時系列に沿って三人の関係性について。
この三人はいわゆる三角関係。正確にいうと三角では足りないのだが、今回は及川純に焦点をしぼっていくので割愛。
萌えポイントもふくめ、適宜本文を引用しながら紹介していくので、もう一度言っておくが、ネタバレが無理な人は回れ右してほしい。
彼らの関係性もまた「聖なる黒夜」というミステリの伏線の一部であるようなものなので!(念押し)「所轄刑事・麻生龍太郎」に出てくる及川純に関しては、麻生龍太郎の解決する事件には深くかかわってこないので、そこまで気にしなくともよいはず。これも体感なので、あまり当てにはしてほしくないが。
及川純と麻生龍太郎の、二人の関係がはじまったのは大学生の頃。剣道で大学に入った麻生龍太郎が付き人としてついたのが及川純だった。体育会系部活のイメージ通り、後輩は奴隷のように扱われていたが、及川純は奴隷としてだけでなく対等な練習相手としても麻生龍太郎を扱った。「ふつう」の先輩後輩とは少し違った。
そして、及川純の引退試合の夜。二人は先輩と後輩という関係から変化した。
肉体関係的には及川純×麻生龍太郎だったのだと推察される。明確には言及されていないが、麻生龍太郎の生きざまの受け身っぷりから抱かれるほうであることがうかがえる。後述もするが「及川純はオンナになればよかったんだ(意訳)」という発言が山内練から出ることからも察せられるだろう。
変化した二人の関係は、けれどそれ以上進むことはできなかった。
及川純は関係をはじめたものの、麻生龍太郎はゲイではないと思っているし、麻生龍太郎を信じることができない。麻生龍太郎もそんな及川純のことを「重い」「別れればいい」と思いながらも終わらせることができなかった。泥沼かよ……と思う。
この物語はゲイ(麻生龍太郎はバイですが)の警官同士の職務キャリアかセクシャリティかという話ではない。そういう恋愛関係を続けるための選択の土俵にすら二人は立てていない。麻生龍太郎のある種の人の心のわからなさがしんどい。どうしてこうも鈍いというか、恋愛に関することになると腰が重いんだ、おまえは…というのは後々も思わされる。
推理力や事件解明に繋がることに関しては有能どころではなく有能な男だというのに。
そう同棲を持ち掛ける及川純に対して麻生龍太郎は「考えとく」と断る言葉を返すが、麻生龍太郎は及川純との関係を「恋愛と言い切ることも出来る」「自分は及川が好きだ」と言う。
けれど、同じくらい自分の人生に対して「このままでいいのか」と思っている。お互いに運命の相手だと思っていたのに。この関係を続けていくことを考えると違和感を覚えてしまう。
それが故か、麻生龍太郎が及川純の部屋に泊まるのは非番の前夜だけ。いつも深酒をして、何も考えないようにして眠って。
ところで、及川純は麻生龍太郎のことを愛しているのだ。同じだけの質量の愛を麻生龍太郎から返されないとわかっていながら。あのプライドの高い男からは想像できないほど、いじましいアプローチ、好意の見せ方。最初の夜が及川純にはトラウマであり、麻生龍太郎に大きくもう一歩踏み出せない理由なのだろうな…と私は解釈しています(萌える)
二人のすれ違いは幾度も繰り返され、麻生龍太郎が結婚を決意したことで決定的なものになる。「所轄刑事・麻生龍太郎」から「聖なる黒夜」がはじまるまでの間で、麻生龍太郎は玲子という女性と結婚し、彼女に逃げられるのだ。(ちなみに玲子が彼の元を去る理由もなかなかクるものがある)
玲子にプロポーズをすると麻生龍太郎が決め、別れを告げるとき、及川純は「殺してやる」と言う。そして実際、殺そうと拳銃を麻生龍太郎に向け、発砲もしている。けれど、及川純は麻生龍太郎を殺せなかった。
あ、愛~~~~!神様~~~~!(号泣)たぶん及川純はこの時麻生龍太郎を撃ち殺していたらそのまま自害したと思いますね。もはや心中……愛が重たい……。
こうして二人の関係は終わった。
だというのに、及川純は麻生龍太郎が山内練にされた復讐を聞いて、「知っていたらとっくに殺していた(山内練を)」「放置していたわけがない」と言う。麻生龍太郎のためなら平気で命も賭す。これが愛でなくてなんだと言うのだ。
このセリフで私は及川純に堕ちた。
報われなかった男の惨めさや、それでも捨てられない想いにしぬほど萌えた。いま「若いイラストレターと同棲している」と言われているのにもかかわらず、捨てきれない麻生龍太郎への想い。彼の麻生龍太郎に対するクソデカ感情にたまらなく萌え狂った。そしてこの男が報われる様、愛される様をどうしても見たい!!と苦しんだ。
若イラ(名前がないので界隈ではこう略されます)×及川純が読みたい!!
二次創作も嗜む腐女子ではありますが、自分ではどうにも理想の若イラが書けなかったのですが、願望だけ述べると麻生龍太郎とは真逆な性格、察しがよくて大型犬のような人懐っこさがあるキャラクターだといいなと思っています。みなさんのなかではどんな若イラ像が描かれているんだろうか…。
後述すると言った、「及川純はオンナになればよかったんだ(意訳)」はこの山内練のセリフ。及川純の麻生龍太郎への想いを「邪恋」と言いきる山内練から見た評もまたクるものがある。(麻生龍太郎をはさんだ恋敵でもある)(なお「聖なる黒夜」作中では及川純×山内練の肉体関係もあります)
「聖なる黒夜」のラストからしてそうだったけれど、「私立探偵・麻生龍太郎」まで読むともう、及川純には勝ち目がないし、及川純ももう終わった恋だと処理できているんだろうなと思う。
それでも彼は徹頭徹尾、麻生龍太郎に報われなかった「可哀想」な男なのだ。
そして私は本命に報われなかった当て馬ポジション、「可哀想」な受けが好きである。卵が先か、鶏が先かという話になってくるのだが、及川純に出逢ったことによって私は己の一番の萌えを知ったのであった。
「聖なる黒夜」本編を読み、上巻に収録されている番外編「歩道」を読むと、始まらなかったはずの麻生龍太郎と山内練の関係が始まる物語が「聖なる黒夜」だというのがわかる。
ちなみに「私立探偵・麻生龍太郎」は麻生龍太郎×山内練の行く末を固唾をのんで見守る話である。(そしてエピローグを読んで、どうにもならない感情を抱き、懊悩する)
頼むから読んでほしい…頼むから……(呻き)という気持ちが溢れてきた。長々と書き連ねてきたが、1ミリでも興味が湧いてくれたら嬉しい。頼むから読んでほしいのだ……(また言う)
作者・柴田よしき先生にとあるきっかけで「及川純の話が読みたい」とリプライしたら「予定はある」との返事がきたので、それを糧に私は一生生きていける。(お願いだから読ませてください)一日も早くその時がくることを願ってやまない。
最後に、今単行本の発売を切望している、麻生龍太郎と山内練の最後(?)の物語のリンクを貼ってこの記事は終わりにしようと思う。
ご清聴ありがとうございました。