スター女史の時空を刻むメランコリー 【第1話】
【第1話】
「ふう…」
スター女史は行きつけの喫茶店、名魔家(なまけ)のカウンターでため息をついた。
「スターさん、どうしたの〜浮かない顔して〜」
ファンキーでボリューミーなカーリーヘアのママが呆れた表情で声をかけた。
声色に心配さは滲むが、そんなに気にしていない雰囲気はひしひしと伝わってくる。
それでも、このやり取りにはほんの少しの癒し効果があることをスター女史は知っている。
「別に…何もないんですけど…」
「あ〜らじゃあそんな顔しないでぇ、元気出したらどうですかぁ〜」
「そうですねぇ…。そうですよねぇ…」
ママのステージ、カウンターの戸棚には力強い格言の色紙が飾られ、それがまたママの背景を独特にしている。
「そうですよ〜。何か作りましょうか?ハンバーグカレーなんてどう?元気出ますよ〜」
スター女史はママからの一度も頼んだことのないメニューの提案に視線を斜めに上げ、
「そうですね。ではお願いします」
ちょっとした躊躇いを水とともに飲み込み、表情を変えずにオーダーした。
ママはわかりやすく瞳を輝かせ、
「はいはい、ちょっと待ってて、くださいね〜」
と言うと、いそいそと客席側にある冷蔵庫に駆け寄り、エプロンに何かを丸め前屈みにキッチンに消えた。
スター女史はいつもの露骨にコソコソしたママの動きを見ながら、
「ふう…」
また小さくため息をついた。
そして、ここ最近起きた説明のつかない出来事をぼんやり考えていた。
「あれはなんだったのかなぁ…」
そう遠くないキッチンの奥から年代を感じるアナログな音色で「チーン!」と音がした。
続く