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『道なる未知は愛への架け橋』 著者:9月のワンピース

ある日、私はこの世に誕生した。
その日、私は世界の景色を初めて目にした。
それはとても美しく、どこか懐かしいように感じた。
私はこの景色をどこかで見たことがある気がする。
命がけで闘った母、真っ直ぐに強く見つめる父。
鮮明な色彩の世界、私の目から溢れる涙。
ああ、私は未知なる世界に誕生したのか。
これから一歩一歩、道を歩んでいくのか。
それは希望に満ち溢れていた。
夢を見ているようだった。
世界がとてもキラキラと輝いていた。
この世界には自分以外にも人がたくさんいた。
周りの人全てが私には大きく見えた。
幼いころから弱かった。
泣き虫で引っ込み思案な私は周囲の人々と関わるのが苦手らしい。
周りで皆が楽しそうに遊んでいる。
それはまるで永遠に続くかのように楽しそうだった。
私もそこに加わりたかった。
臆病な私にとって「入れて」の三文字はとても難しい。
羨望の眼差しで周りを見つめる日々。
思えば、孤独の耐性がついたのはそこからだろう。
それは単なる孤独ではなかった。
孤独の中になぜか涼しさを感じられたからだ。
雲一つない青空のような涼しさだった。
涼しさは時々、冷たさに変わった。
冷たさは私の体温を奪ってくる。
ある日、私は皆の中にいた。
何故、私はここにいるのだろう。
ここはどこだろう。
どこからか巨大な鼓動のような音が聞こえてきた。
それは私の中からだった。
その音は何年も経って徐々に小さくなり始めた。
そこでは涼しさというより温かさを感じた。
不思議な気持ちを抱いた。
人には体温があるのか。
私はそう思った。
それまでの道は、か細くてあたり一面真っ暗な迷路だった。
細い道はいつ落ちてもおかしくない。
恐怖を抱いた。
真っ暗闇に落ちたら死んじゃうのかな?
消えちゃうのかな?
恐怖で足がすくんでしまう。
それは、皆の中にいるようになって真っ直ぐな道に変わった。
この道は私には安全だ。
少し逸れても道幅は広い。
いつでも守ってくれる強くて優しい道だ。
誰かが道の端に立ってくれている。
時には私が端に立つ時もあった。
端に立つことは怖いと思っていた。
しかし、端に立つということは私に少しだけ強さを与えてくれた。
それを人は責任感と言うらしい。
道を歩くようになって気づくことがあった。
道は必ず繋がっている。
どこを通っても必ず元の場所に戻って来る。
真っ直ぐのはずだけど、迷路にいるようだ。
そんなことを考えているうちに気づいたら皆がいなくなっていた。
どこ行ったの?
私はか細い声で叫んだ。
返事は返ってこなかった。
歩いて探すしかない。
そう思いしばらく歩いた後、道が分かれていた。
右と左に。
今まで道が分かれていることがなかったので困惑した。
どっちに進んだらいいのだろう。
分岐している所にある本が落ちていた。
中にはこのように書かれていた。

「皆は右に進みました」

右に進めば皆に会える。
私は右に進んだ。
右には誰もいなかった。
またそこには本が落ちていた。
それにはこう書いてあった。

「皆は左に進みました」

左か。
私は左に進んだ。
左には誰もいなかった。
また分かれ道か。
何度も何度もその道は左右の選択を迫ってくる。
自己主張がない私にとって選択は苦痛だった。
どちらが正しい道なのか分からない。
道の真ん中でうつむいて止まってしまった。
その場所にどのくらいの時間止まっていたのだろう。
静止と回顧は兄弟のようなものだ。
どこで間違えたのだろう。
私は後ろを振り返り、ふとこう思った。
今まで歩いてきた道が真っ直ぐに見える。
あれ。
毎回、左右のどちらかを選んで進んできたのに。
真っ直ぐな訳ない、何かがおかしい。
目を凝らし何度も何度も確認してみた。
しかし、道は真っ直ぐなままだ。
どういうことだろう。
私は懸命に考えた。
なかなか答えにたどり着かない。
幻ではないかと思った。
しかし私はここにいる。
左右の選択を間違ったのだろうか。
本当にこの道でいいのだろうか。
過去に全ての意識が向いた。
どうしたんだ。
急に未来の姿が暗転した。
なぜだろう。
考えた。
何度も何度も。
だけど私の脳では分からない。
分からないことはとても悔しい。
悔しさを糧にする力を私はまだ持っていない。
諦めようと思った。
考えることはつらい、考えることはきつい。
答えが欲しい。
そう思ってうつむくと、道から何かの音が聞こえてきた。
考え過ぎて私はおかしくなったのか。
周りが次第に暗くなってきた。
急に雨が降ってきた。
寒いよ。
雨は少しずつ私の体温を奪っていく。
途中から雨なのか涙なのか分からなくなった。
真っ黒な雨は私の真っ白な服を染めた。
希望しかない世界で私は絶望した。
地面を見つめ、どのくらいの時間が経ったのだろう。
再び道から音が聞こえてきた。
私はその音に耳を澄ましてみた。

「前へ、前へ進むんだ」

そう聞こえた。
その声は小さかったが、強くて優しい。
涙が枯れ切ったとき、道に手を置いてみると何故だか温かい。
それは以前感じたことがある温かさだ。
私は周囲の道をいくらか触ってみた。
温かい。
それと同時に今までの記憶が蘇ってきた。
そういうことだったんだ。
私は立ち上がって前にある左右の道を交互に見た。
その後、左右に分かれた道の間を見つめた。
そこに向かって私は歩いた。
間は壁だけど進む足を止めなかった。
怖さは少しもなかった。
壁に差し掛かる瞬間、目を瞑ってしまった。
だけどそのまま歩いてみた。
しばらくして目を開けると左右の道がなくなっていた。
そこには今まで見たことがない広くて真っ直ぐな道があった。
その道はとても涼しくて温かい。
目の前に真っ直ぐに道が伸びている。
私は少しずつ前へ進んだ。
途中で転んだけど不思議と痛みを感じなかった。
その先の道は未知だ。
未知は進みたくなる。
道なる未知は架け橋のようだ。
その道(未知)の成分は「愛」だった。



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