ショートショート『青空もみじ』

市民に愛されている公園に、虫に食われた紅葉の葉がおります。

その一枚は、いつも空を見ては、うっとりしています。

「穴、大きいね。かわいそうに。」

と隣の健康な葉が言いました。

「ありがとう。けれど、うれしいことに思えるんだよね。」

みんなが木からはなれ、土と交尾するときに、じぶんは空に戻りたいからだそうです。穴で体が軽くなれば、その分、風に大きな力を借りすぎなくて済みます。

「空に戻るって、おかしなことを言うね。君は、空の一部じゃないんだよ。」

と隣の健康な葉。

そこへ、人間の親子が、紅葉狩りにやってきました。

紺のスモッグと、黄色の帽子の子が、その一枚を指さして言いました。

「あの紅葉、空色。」

「紅葉が空色? どれどれ?」

お母さんが子どもの目線でその葉を見ると、開いた穴から空が見えました。

その葉は、その言葉を、心にそっと握りしめました。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?