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お山の一本杉

 御岩神社に行かないかと誘われた時には、正直かなり驚いた。
 半年ほど前から付き合っているケイスケは、休日となればサーフィンに行ったり、友人達と飲みに出かけたりして過ごしている。私とのデートも、海岸線をドライブしたり、アウトレットに買物に行ったりすることが多く、神社仏閣などには興味がないと思っていた。
 不思議に思いはしたものの、断る理由はなかったし、私自身も一度は訪れてみたい場所だった。

 「いいよ、それじゃあ日曜日にね」

 私は気軽に了承した。
 神社までは市内から車で30分程度の距離なのだ。

 「ああ。……これではっきりするな」

 だがケイスケが返した言葉はいささか的外れのものだった。

 「はっきりするって?」

 私が首を傾げながら尋ねると、「なんでもない」と首を振る。
 なんだか腑に落ちない気分だが、食い下がって問いただすほどのことでもないだろう。
 変なの。
 そう思いながらも、それ以上は深く考えても仕方ない。彼のいう通り、神社へ行けば分かることならば、当日を待つしかないだろう。



 H市は海岸線沿いに細く長く広がっている。
 日本を代表する巨大企業のおひざ元で栄える街は、夜景も美しく大都会には一歩及ばないながらも、開けていてすみやすい街だった。住民の半数ほどが巨大企業の関連事業所で働いており、私とケイスケも例にもれず、その企業の子会社に勤務していた。
 同じ会社といえど部署は違う。
 私は経理関係の部署に在籍し、彼は営業部のエースだった。
 私はエースであるケイスケのことを知っていたが、ケイスケが私のことを知っているとは思わなかった。だから、社内食堂で話し掛けられた時には驚いた。軽いパニックになっていたとも言えるだろう。
 ケイスケは四つ年上だったが、笑うと悪戯っ子のように年齢より幼い顔になる。
 異動で一年前に越してきたが、いまだに土地に馴染めない。どこか寂しそうな顔でそう言われて、私はあっさりと落っこちた。
 付き合いが始まったのはそれから一ヶ月ほど後のことだった。
 関係が深くなれば、お互いの悪いところも見えてくる。だがそれは、誰と付き合っても同じだったし、我慢できる範囲のことだった。
 私たちは上手くやれている。
 そう思いながら過ごしていた。



 

 約束の日は空も高く青く澄み渡り、とても心地の良い天気だった。
 彼の運転する車に乗って出発する。市内は海沿いだが、10分も走らないうちに一気に緑が濃くなって山の中へと入っていく。H市育ちの私にとっては当たり前のことだったが、海と山がこんなにも近く、それでいてしっかりと開けた街に住んでいるというのは、なかなか贅沢なことだろう。
 二車線の国道はそこそこ車も多いが、事故でもない限り渋滞するようなことはない。

 「やっぱり、うまく表示されないな」

 ぐねぐねと折れ曲がった山道を走り始めたあたりでケイスケがため息交じりに呟いた。

 「表示って?」
 「カーナビだよ」

 言われて覗き込んでみれば、確かにカーナビは目的地までの道のりを検索中のままで止まっている。

 「いいんじゃない? だってここ、一本道だし」
 「そういう事じゃないんだよな」

 液晶画面を乱暴に叩く様子に、私は肩をすくめてみせる。
 彼のこういう所は苦手だった。付き合う前はいつも機嫌が良かったけれど、いざ付き合いをはじめてからは不機嫌を隠すことが減ったのだ。恋人同士であれば、自然体で接したい。そう考えているのだろう。
 だが、本当にそれは正しいのか。
 私は、大好きな相手には出来るだけ幸せでいて欲しい。そのためには、不機嫌さは隠すように努力している。それが、相手の行動に起因するものでなければなおさらだ。つまり、今回で言えばカーナビの不調は、私に非がある訳ではないのだから、不機嫌な態度は辞めて欲しい。
 とはいえ、それを指摘すれば余計にこじれることだろう。ドライブ中に喧嘩をすると、お互いに逃げ場がないため悪い結果にしかならないことは分かっている。
 私は車窓の風景を眺めることに意識を向け、胸に刺さった小さな棘に気付かないふりをすることにした。

 「このあたりって、鉱山だったらしいな。昔は山の方ももっと栄えてたんだってさ」
 「へぇ、そうなんだ」

 私はわざと物珍しそうな声をあげた。
 H市のはじまりが鉱山であったことは有名だ。鉱山で使う部品を直すために作られた部署がめきめきと頭角を現して一大企業へと成長した。この街に長年住んでいる者ならば誰でも知っていることだった。
 今でも、鉱山のごく一部は採掘を続けている。市のシンボルとも言える巨大煙突は現役で活躍中なのだ。

 「それでさ、この道って心霊スポットでも有名なんだってな。首無しライダーが出たりするんだってさ」
 「やだ、怖い話しないでよ」

 山中を走る道路は、片側が高く切り立っている。今までに何度もがけ崩れがあったのだろう。コンクリートで固められたり、落石防止のネットがかけられている場所が多くある。
 道はカーブが連続しており見通しが悪く、少し気を抜けば事故が起こっても不思議ではない。
 私はケイスケの話に耳を傾けながらも、奇妙な違和感を覚えていた。
 ケイスケは怖い話が苦手なのだ。ホラー映画は絶対に見ないし、遊園地に行ってもお化け屋敷の類いには近づかない。
 なのになぜ、今日はそんな話をするのだろう。

 「お得意さんから教えて貰ったんだけど、この先にある一本杉もヤバいらしくってさ。あの辺りは太平洋戦争の時に爆弾が落ちて、鉱山で働いてた連中が生き埋めになって大勢死んだんだってな。その呪いが漂ってるから、事故が多いってって。お前、知ってたか?」

 私は曖昧な顔で微笑んだ。
 H市は太平洋戦争中に空襲で大きな被害を受けた。それは、H市を支える巨大企業が当時は武器を製造していたからだ。
 二度の大空襲と、海上からの砲撃。
 市内の被害は甚大だった。
 現に私の曾祖父は空襲で死亡し、曾祖母も焼けた木材の下敷きになって酷い火傷を負ったそうだ。
 古くから街に住む者たちにとってみれば、それはごく近しい人の悲劇であり、軽々しく呪いなどと語って欲しくはないものだ。
 本当に今日の彼はどこか様子が変だった。いつもならば、不機嫌になることはあるものの、会話には気を遣ってくれていた。なのに今日は、出て来る言葉がどれもどこか刺々しい。私が神経質になってしまっているだけだろうか。

 「ああ、ほら、見えてきた。一本杉だ」

 その杉は国道の真ん中に立っている。
 本来ならば切り倒される運命だっただろう。ただ、切り倒そうとするたび不幸が起こり、結果、道のど真ん中に杉の樹を残しておくことになったらしい。

 「……あれ?」

 私は思わず声をあげた。
 杉の樹の後ろに誰か人が立っている。
 多分女の人だろう。樹に隠れてほとんど姿は見えないが、ほっそりとした白い腕が樹に絡んでいるのが見えたのだ。
 気のせいだろうか。枝が腕に見えてしまっただけだろうか。
 じっと車窓に目を凝らしても、いまいち正体が分からない。

 「どうした?」
 「樹の後ろに、誰か立っていた気がしたの」

 問いかけに言葉を返すと、ケイスケはミラー越しに背後を確認する。

 「どう?」
 「いや、見えなかった。ちょっと戻って確認しよう」
 「え? うそでしょ?」

 少し先に進んだところで、Uターン出来る場所があった。今度はさっきよりも速度を落として走行する。

 「ほら、あそこ。樹の後ろに誰かいない?」

 私が指さしても彼は首を傾げるだけだった。

 「見えないな。もう一度通ってみよう」
 「もういいよ。やめておこう。あまりジロジロ見ない方がいいと思うし」
 「ちゃんと確認しない方が怖いだろ?」

 再び車をUターンさせ、杉の傍らを通過する。
 やはり、いる。杉の樹の後ろから真っ白な手が伸びている。なんだろうか。気持ちが悪い。何よりおかしいのは、行って帰ってきた時には車線の左右が変わっているのに、どちらから見ても腕しか見えていないことだった。
 まるで見られているのを意識して、杉の樹の後ろに移動しているかのようだ。

 「もう一回確認しよう」

 さらにもう一度Uターンしようとするケイスケに、私は思わず手を伸ばす。

 「ねぇ、もういいって。見間違いだったから。やめようよ」
 「駄目だよ。確認しないと」

 何か変だ。彼は子供っぽいところはあるが、ここまでむきになる事はなかったのだ。なのに今は、ハンドルを強く握って前のめりになり、じっと目を凝らしてスロースピードで走っている。
 それだけじゃない。
 先ほどまでは対向車がたびたび通り過ぎていた。だが今は、何度もUターンしているのに、一度も車が通らない。ここはもう少し通行量がある場所なのに、こんなにもすれ違わないことがあるだろうか。

 「ねぇ、本当にもうやめよう。お願いだから、もうやめて?」

 白い手。女の手。まるですがりつくように、太い杉の樹に絡む手は、どこか妖艶で艶めかしい。だが、ケイスケには見えていないようだった。最後には、スピードを落とすどころか杉の樹の隣で停車する。

 「なぁ、本当に何が見えるんだよ」
 「分かった、ごめんなさい、私の気のせいでした! 何も見えてないです! 見えてないから、もう行こう!」

 私はほとんど涙声になっていた。だって、手が。
 杉の樹の後ろの白い手が少しずつ伸びてきているように見えるのだ。

 「駄目だよ。確認しないと」

 ケイスケがまじまじと見詰めるほどに、白い手は伸びてきているようだった。まるで彼を求めるように。誘いこむように伸びてくる。

 「いい加減にしてよ! はやく車を出して!!!」
 「なら、お前が降りろ」

 叫ぶ私に、ケイスケの声はゾッとするような冷たさだった。表情も暗く、目も虚ろでいつものケイスケとはほど遠い。

 「降りろよ。お前はどうせ外れだったんだ」
 「降りろって、こんな所でどうしろっていうの?」
 「知らねぇよ。さっきバスが通ってただろ。近くにバス停でもあるんじゃないか?」

 眼が涙で熱くなる。けれど、ここで涙は見せたくない。
 私は顔を背けると助手席のドアから外に出て、足早に逃げるように歩き出す。
 一本杉の少し前にバス停があった気がしたが、あの樹の傍らを通り過ぎる気にはなれなかった。それに、今は感情が昂っていて頭の中がぐちゃぐちゃだ。いっそ次のバス停まで歩いていった方が気持ちの整理がつくだろう。
 一度だけふり返ると、ケイスケは窓を開けて顔を出し、ぼおっと樹を見詰めていた。
 もう知らない。
 私よりもあの樹の方が大事ならば、勝手にすればいいだろう。
 怒りと悲しみと、どうしようもない喪失感。
 私は涙を堪えながら、無心に足を動かした。




 結局私は、そのまま御岩神社まで歩いていった。時間にして40分ほどかかったが、その分だけ気持ちは落ち着いた。
 途中、大きなトンネルに差し掛かった時には少しばかり尻込みしたが、中は電灯が灯っており、歩行者用の通路もしっかり舗装されていたので、勇気を出して踏み出した。
 そうして、歩いて、歩いて、神社のそばの集落に辿り着いた時にはほっと息を吐き出した。
 山の中にぽつんとあるような神社を想像していたが、ちょっとしたお洒落なカフェも営業しており、思った以上に開けていている。
 何よりも神社の境内は、深い緑の樹が取り囲み、空気が冴え渡っているのを肌で感じられる場所だった。

 ……来てよかった。私はここに来るべきだった。

 じわじわと、怒りや悲しみが溶けていく。不思議と、歓迎されている気分だった。

 なぜ私は、あんなに我慢していたのだろう。
 ケイスケと付き合って、本当に幸せだったのか。
 楽しい時はあったけれど、それ以上に息苦しさを感じていた。
 きっとこれは、神様がくれた機会なのだ。彼とはこれ以上は付き合えない。もっと深みにはまる前に、それを気付けて良かったのだと、そんな風に思えてくる。

 お参りをして、お守りも買って、帰りはバスで帰宅する。
 杉の樹の横を通る時は、少し緊張したものの、あの不気味な白い手は見えなかった。




 その日の深夜、ケイスケから電話がかかってきた。
 着信音に目を覚まし、唸りながら起き上がる。デジタル時計を確認すれば、午前二時を少し過ぎた頃合いだ。
 なんだってこんな時間に電話をかけてくるのだろう。
 無視しようか。
 そう思いもしたものの、こういう時に電話に出ないと彼は何度でもかけて来る。
 ため息を吐きながら通話ボタンをプッシュする。
 スマートフォンからザザっと不明瞭なノイズが響き、くぐもったケイスケの声がした。

 『……なぁ、お前、どこにいるんだよ。俺、探したんだぞ。あの後、カーナビが直ったから、神社に向かって追いかけていって』

 酔っぱらっているのだろうか。
 声はどこか覚束ない。半分、眠っているような声だった。

 『でも、いくら走っても、見つからないし。なんか、道がだんだん、細い砂利道になって、……どんどん、山の中に、入って』

 ノイズがまじっていて、彼の声を聞き取るのがやっとだった。
 おかしいな。彼は今、どこからかけているのだろう。
 私は不思議に思いながらも、取り合えず耳を傾ける。どちらかと言えば、眠くて声を出すのが面倒だった。

 『細い道で、ぐねぐね、曲がって、どんどん木が増えて、そのうちトンネルに、入ったんだ。そうだ、トンネルに、入った。それで、そのまま、ずっと走ってる。トンネルの中を、ずっと、ずっと、走ってるんだ。おかしいよな。こんなに長い筈がない。でも、出られないんだ。ずっと、ずっと……』

 何を言っているのだろう。
 確かにトンネルはあったけれど、歩行者用の通路もしっかり確保された、広い二車線のトンネルだった。それに徒歩でも10分はかからなかっただろう。それをこの時間まで彷徨っているなんてあり得ない。

 「いい加減にしてよ。まだ私を脅かそうとしてるの? そういうの、全然面白くないから」
 『ちがうよ、そうじゃない、本当にずっと出口がなくて、暗い、暗い、洞窟の中を、ずっと走って……』

 ザザザっと一際大きなノイズが走り、そこで通話はプツリと切れる。
 何なのよ、もう。
 私は恨み事を吐きながら、布団の中に潜り込む。
 昼間たっぷり歩いたせいか、眠りはすぐに訪れた。




 「なぁ、ケイスケの奴、ずっと休んでるんだけど何か知らないか?」

 営業部のリョウタから声をかけられたのは、それから一週間ほど後のことだった。
 ケイスケと顔を合わせたくなかった私は、ランチの時間も社内食堂を避け、自由会議室を使っていた。リョウタはどうやら私を探し回っていたらしく、目があうとほっとした顔をした。

 「知らない。一週間くらい連絡もとってないし」

 私の言葉に、リョウタは困り顔になる。それから、少しばかり言い難そうに、咳払いをしてから切り出した。

 「あのさ、その一週間前って、もしかして御岩神社に行ったりした?」
 「行ったよ。途中で別行動になったけど」

 私は一本杉での出来事をかいつまんで説明する。そうするとリョウタはますます眉間に皺を寄せた。

 「ねぇ、もしかして何か知ってるの?」

 煮え切らない様子に問いかけると、リョウタはごにょごにょと口ごもった後に、隣の席に腰を下ろす。

 「実はさ、アイツ、前にもあの神社に行こうとして失敗してるんだよ。その時も、当時付き合ってた彼女と一緒でさ……」
 「気を遣ってくれなくていいよ。アイツとはもう別れるつもりだし、というか、私の中ではもう終わったことだし」
 「そうか、それは良かった、て、いや、すまん……」
 「良かったって? ケイスケ、営業部では評判良かったよね?」

 首を傾げて問いを重ねれば、リョウタはしばし目を背けたが、覚悟を決めたのか大きく息を吐き出した。

 「確かにアイツは業績トップだったけどさ、社内での評判は微妙だったんだよ。いつも顧客側にべったりで、納期も規格もかなり無茶ぶりなことも多かったからさ。それで技術部とよく揉めてた。まぁケイスケの方は『俺たち営業がアイツらの給料を稼いでやってるんだから、デカい口叩くな』って笑ってたけどな」
 「そうだったんだ」

 そんな事は知らなかった。
 だが思い当たる節もある。経理部でもケイスケからの請求書は適当なものが多く何度も差し戻しを出していたが、彼はのらりくらしと躱してまともに取り合っていなかった。

 「それで、その昔の彼女と神社に行った話がどうしたの?」
 「実はさ、その時もカーナビが動かなかったらしいんだ。それで一本杉のあたりでなぜか道に迷って、何度も同じ場所を通ってるうちに、だんだんと険悪なムードになったんだと。結局、彼女が怒って車を降りて、そこから歩いて帰ったんだ。運悪くバスも通らなくて、街まで二時間以上歩くことになった。それだけならいいんだけど、彼女、妊娠してたらしいんだよ。安定期がまだで、無理して歩いた結果、流産した」
 「可哀そう……」

 私が眉をしかめると、リョウタは肩をすくめてみせた。

 「そうだよ。普通そう思うよな。でもケイスケは違ったんだ。ケイスケは彼女の妊娠を知らなかった。流産したって聞いて初めて知ったんだ。それでアイツは、……喜んだんだよ。あの女は繋ぎだったから結婚する気なんてなかった。危なかった。あのまま子供が出来てたら、結婚させられる所だったって」
 「何それ? アイツ、そんな酷いやつだったの?」
 「営業部の飲み会の時に聞いたんだけど、さすがに回りもドン引きしてたよ。でもさ、ケイスケの奴は得意げだった。俺は御岩神社に助けて貰ったんだって。カーナビが動かなかったのも、彼女が流産したのも、自分の未来を御岩神社が守ってくれたお陰だっ、俺は御岩神社に好かれてるって、そんな風に言ってたんだ」
 「馬鹿じゃないの?」

 心底あきれ果てて、吐き捨てるような声が出た。
 御岩神社に好かれている? そんな筈はないだろう。
 だって彼は、神社に辿り着けなかった。
 そこまで考えて、ふと私は、あの夜の電話のことを思い出した。

 「そう言えば、おかしな電話はかかって来た」

 深夜の電話の話をすると、リョウタは「マジかよ」と呟いて、しばしの間黙り込んだ。

 「マジかよ、アイツ、マジで……」
 「どうしたの?」
 「ぐねぐね曲がりくねって、舗装されてない一本道って言ったんだよな」
 「そうだったと思う。それでトンネルに入った、って」
 「……あの道路にデカいトンネルがあっただろ? でもあのトンネルが出来る前はもっと迂回したルートに細いトンネルがあったんだ。最近じゃ心霊スポットだなんて言われて、わざわざ見にいく奴もいる」
 「ケイスケはその古い方のトンネルに行っちゃったってこと?」
 「行ける筈がないんだよ。だって旧道の入口は車が通れないように封鎖されてる。それにトンネルは、もう40年近く前にコンクリートで埋め立てられて、人っ子一人通れない。もしそんな所に迷い込んだって言うなら……」

 リョウタはそれ以上は言わなかった。
 確かなことは1つだけ。ケイスケが行方不明になってしまったということだ。

 「たしかに、好かれていたのかもね」

 ぽつりと落とした呟きに、リョウタも小さく頷いた。
 だがそれは、神社ではなく、別の何かであるのだろう。
 私は大きく息を吐き出すと、それ以上は深く考えるのはやめにした。

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