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敦賀という街

2024年3月16日、北陸新幹線の金沢-敦賀間が開業し、東京と敦賀が1本に繋がって6ヶ月が経った。
北陸新幹線が繋がったことで、東京から3時間程度で敦賀まで行くことができるようになった。

私の父の生まれ育った街が敦賀であり、私が幼い頃は両親に連れられて、専ら夏や冬に訪れる場所だった。
夏は電車ではなく車で行くことも多かったが、冬はやはり雪道となり道中のチェーン規制などもあったため、京都駅から特急(一番古い記憶だとボンネットタイプの雷鳥になる)に乗って行くのが通例だった。
私が幼い頃はまだ米原を過ぎてからしばらく走ると直流と交流を切り替えるためにデッドセクションがあり、車内が一時的に暗くなるタイミングがあったのを今でも鮮明に覚えている。

敦賀駅の駅舎はすっかり綺麗になっているのだろう。
冬のホームは雪景色の吹きっ晒しで、人気なく、皆、改札の前の待合所で電車が来るのを待っていた。自動改札だった記憶はなく、薄らと覚えているのは駅員によって改札パンチされていたような気もする。

敦賀にあった祖父母の家は、古くて、物が多くて、狭くて、いつも薄暗くて、独特な匂いがした。
いつ訪れても、何も変わらず、その家だけが時代の移り変わりから取り残されているような、私の記憶に残っているものを絵に描き出したりしたら、おそらく7〜8割くらいはそっくりそのままを描けてしまえるかのような、そんな雰囲気があった。さらに言えば、住所なんて覚えてすらいないけれど、Google Mapsで敦賀市を調べて、あとは近隣にあった建物などを元にして、簡単に見つけることができるくらいに記憶として定着している。
そうやって、今、実際にGoogle Mapsで辿り着きストリートビューで見てみると、驚くことに外観は私の記憶のまま変わりなかった。
周りにあった家もほぼ変わっていない。
でも、祖父母共に既に他界しているので、その生活の痕跡はもちろん残っていない。
ストリートビューの履歴を見ると、2015年時点では祖父の名前の表札が残っていて、祖母が世話していたと思われる鉢植えなどの生活の形跡も残っているが、最新の2023年時点のものは表札の名前が消されていて、会社の名前が入ったプレートがドア横に据え付けられていた。調べてみると機械整備などを行う会社が入っているようだ。
私が大学生の頃に祖父が亡くなり、その七回忌だったかの際にこの家に訪れたのが最後だろうから、祖父の亡くなった年から数えて年数の辻褄も合う。祖母は、そのあとに私の実家近くの介護施設に入っており、その頃にはもう私は東京に住んでいたし、祖父母の家の顛末自体は知らなかったが、敦賀にあった祖父母の家はそのままの形で売りに出されたらしいことがわかった。

夏にはこの家から気比の松原を抜けて海水浴をしに行き、冬にはこの家の前に積もった雪で遊び、近くの神社で初詣をした。(そういえば、私の幼い頃のアルバムにこの神社でお宮参りした写真も残っていたはず)
近くの川(というか用水路?)には、鯉がたくさん泳いでいて、近くのスーパーで買ったパンを千切って投げ入れると、我先にと鯉がバシャバシャと跳ねる姿が怖かったのを覚えている。
父が釣り好きだったこともあって、岸壁でサビキ釣りをした記憶もある。
岸壁に行くまでにあった、船が港湾に入れるよう高さを持たせるために大きく登り降りする橋がジェットコースターみたいで大好きだった。

グルメで言えば、魚介類が苦手な私は、敦賀と言えば敦賀ヨーロッパ軒のソースカツ丼だった。
国道8号沿いにあるラーメン屋も好きだった。

私が歳を重ねるごとに、私と敦賀という街は疎遠になっていった。年1回だったのが、数年に1回になって、泊まりがけだったのが日帰りに変わった。
おそらく、これから先の人生で、敦賀という街に行くことは1回あるかどうか、だろう。
その時はきっと北陸新幹線に乗って行くことになる。
もちろん、宿は祖父母の家ではなく、ホテルなどになるか、もしくは泊まりもしないかもしれない。
東京から3時間と、かなり近くなった敦賀という街並みは、きっとかなりの部分で私の思い出とは異なる街になっているだろう。

それでも、ストリートビューで見た祖父母の家だった場所のように、今も30年近く前の記憶とほとんど変わらない景色がある街でもあるのだ。
私の記憶の中にある敦賀の街並みは、夏には気比の松原を越えた先にある海水浴場が賑わい、冬には湿り気の多い雪が積もって、道路の左右に排気ガスによって薄汚れた除雪のあとが残っている風景。
私の記憶が色褪せないように、きっと今も敦賀という街は色を変えずにそこにいるような気がする。
様々な歴史を経ても、変わらない何かがあの街には根付いている。

下の子がE7系新幹線が好きなので、いつかそれに乗って連れて行ってあげるのもいいかな、とこっそり思っている。

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