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雨でも《ハレ》森の芸術祭 岡山県

アウトドアの芸術祭 お天気が気になるけれど

今年8月の新潟【縄文土器先生に会う】旅の際、偶然に《大地の芸術祭》の会期中で、思わぬ機会に恵まれた。町おこしを兼ねた広範囲に渡る大自然の中でのアート作品展示というのは、私には初めての体験で、とても面白い試みだと印象に残っている。
以前から、一度アートの息づく直島には行って見たいと思っていたが未だに未踏。直島は瀬戸内に浮かぶ島なので、岡山県のような気がしていたらMAPを調べると香川県で(;^_^A   ちょうど10・11月と、岡山県の北部地域で、《森の芸術祭 晴れの国・岡山》が開催されている。これはチャンス!と思い立ち、11月は行き先を岡山県北部と決めた。
芸術際に合わせて観光列車や、会場を巡るバスなどが案内されているが、本数が少なく、満員だと乗れない恐れも。「これは、一泊するコースかなぁ…」と思い、11月の最終週になんとか予定を詰め込んでいた。
ところが!芸術祭の会期は、11月24日まで。あらあら、間に合わないじゃないの、と慌てて終了前日に、滑り込みで日帰りに変更することに。「どこかピンポイントに絞って、そこを目指す方が良いな」と思い、パンフレットとにらめっこ。
アート作品は、津山市、新見市、真庭市、鏡野町、奈義町がそれぞれ展示エリアになっている。情緒豊かな城下町の津山エリア、湯郷温泉も近い。でも確か、湯郷には行ったことがあるはず。満奇洞・井倉洞に作品がある新見エリアも魅力的だが、今月初旬の大雨で洞内に入れなくなっているらしい。
中でも一番の私のお目当てのアーティストは、坂本龍一氏で(彼は音楽家として有名だが)、ちょうど奈義町現代美術館に作品がある。よし、今回はここにスポットを当てよう。美術館には、複数の芸術祭参加作品があり、もちろん常設の展示もある。せっかくだから、時間をかけてゆっくりと見たいので、レンタカーで向かうプランにする。天気予報では、結構な雨に見舞われそうで、あまり運転に自信がない私は【がんばって】慣れない土地を走ることにした。そのご褒美だったのか、作品たちを堪能して美術館を出た瞬間、大きな虹を目にすることが叶った。それがトップに挙げた写真。本当は、端から端まで、完璧なアーチが見られたのだが、どうしても他の人が写り込んでしまっていて(みんな一生懸命カメラに収めていた)この写真に。こんなに大きな虹を見たのは初めてのような気がする。

こちらが奈義町現代美術館
全体像は自分では撮れなかったので、館内の写真を拝借
那岐山が上手く借景になっていて近代的な建物が映える

もうこれを見ただけでも充分! 

芸術祭も終盤の休日とあって、美術館の駐車場は満杯。それでも誘導してくれる係のおじさんのご厚意で、ゲートボール場のすぐ横手に車を停めさせて頂いた。美術館とは道路を挟んですぐ向かい側なので、雨も強くなる中、本当にありがたかった。実は、このゲートボール場も作品の展示場所になっており、はじめは美術館の別館か何かだと思っていた。案内パンフレットを見て、ゲートボール場だと気づき、せっかくだからと、まず最初にここに入ってみることにした。外から見ると、植物が鬱蒼と茂り、温室のようにしか見えない。中に入ってびっくり!!

水鏡のような池に、橋が架かっている
覗き込むと針葉樹の森を上空から見ているみたい
この森林はどこにあるのか、私は一体どこにいてこの森を眺めているのか?
見れば見るほど、不思議な森へと迷い込む
世界が逆さまになったような不思議な気分

このインスタレーション作品は、レアンドロ・エルリッヒの手によるもの。金沢21世紀美術館の『スイミング・プール』も彼の作品と聞いて納得。もう20年近く前になるが、新しい美術館として注目を集めていた当時、上からと水底からの両方の感覚で楽しめるこの作品を「面白いなあ。現代美術、ってこんな感じ?」と思ったのを鮮明に覚えている。
雨が強い時間だったせいか、ちょうどお客さんも少なくて、この独特の世界にじっくり浸ることができて大満足。もうこれだけでも来た甲斐があったと思うくらい。
会場を出てから解説を読むと、《空間を作るだけでなく、鑑賞者の現実認識そのものを変容させる。頭上からは300本の木々が吊るされ、さらにつり橋の下の鏡が空間を反転させ…》 …え?あれ鏡だったの?
騙されました(笑)  
作品タイトルは『The Nature Above』まっさかさまの自然(2024)

常設展もユニーク 

だからといって、そのまま帰る訳ではなく、道路を渡って美術館へ。
芸術際の目玉作品と思しき、坂本龍一+高谷史郎 『TIME‐déluge』は、常設の【大地】の部屋に置かれたステンレスのワイヤー『うつろひ』(宮脇愛子 1994)と見事にマッチングしていた。

〈déluge〉は〈洪水〉の意  滝のように流れ落ちる水の映像と
能楽笛方 藤田流十一世宗家 藤田六郎兵衛の笛の音が流れる

2021年ホランド・フェスティバルで世界初演された舞台作品『TIME』は、舞台上に張られた静かな水の上を笙を演奏しながら渡っていく宮田まゆみ(自然/ピュシス)と、自然を克服しようと試みて悶絶する田中泯(人類/ロゴス)によって坂本龍一の構想が描かれている。今年の春、日本での初演を観ていたので、この作品に一番興味があった。
【大地】の部屋は常に穏やかな水を湛え、弧を描くワイヤー『うつろひ』は、のびのびとした自由な魂《気》を描きたいという作者の想いがある。
延々と氾濫する水の流れは、その空間の持つ穏やかな時間の流れと対比を為し、舞台で表されたものと共通の世界観を表現しているのだ、と私は解釈した。作品の制作年は、2023となっている。坂本氏が存命のうちにイメージを作られたのだろうか?
折しもしとしと雨が降り続き、その空間に情趣を加えていた。

【月】の部屋  『HISASHI-補遺するもの』岡崎和郎 1994

建築家・磯崎新のプロデュースによるこの美術館は、まず先にアーティストの作品があり、その作品を展示するための空間=建物を造る、という新たな試みによって設計されている。作品を作るアーティストと建築家が幾度も意見を交わし、【太陽】【月】【大地】の3つの部屋は、それぞれに作品と共に半永久的に一体化している。

【太陽】の部屋  『偏在の場・奈義の龍安寺・建築する身体』
荒川修作+マドリン・ギンズ  1994
パイプ状のドームの横壁には、龍安寺の石庭が
ドーム内は円形のため、複数の人数になると、真っ直ぐ立つのがむずかしい

奈義町を満喫

せっかく遥々この町に来たのだから、もう一つ、二つ行くべき場所は…と探して、車を走らせる。

蛇淵の滝   地元に伝わる巨人伝説「さんぶたろう伝説」
その昔、土地を治める領主と山中で出会った絶世の美女との間に生まれた太郎
母の正体は、この滝に住む大蛇だったという。
母から授かった五色の玉を舐めて大きく大きく成長し、巨人になったそうだ
那岐山トレッキングコースの入口にあたる天空橋より  山野草公園を望む 

蛇淵の滝へ入る道を一本間違えて、自衛隊の演習場へ行く道に入りそうになったり、【熊出没中!注意】の看板が立っていたり、緊張して運転したので、山の駅で休憩。雨が弱まったので周りを散策して【昇龍像】を発見。その横に架かる真っ赤な天空橋と、そこからの紅葉した景色に癒される。
宿泊施設もあって、寒い日の早朝には、雲海が見られることもあるそう。
そうこうしている内に、菩提寺のライトアップの始まる時刻になっていた。当初は、暗くなる前に帰途に着こうと思っていたのだけれど(^_^;)
ちょうど訪問日の前日から、4日間だけのライトアップ、タイミング良く。

菩提寺の大イチョウ(国指定天然記念物)
山の駅で《なぎビーフ和牛すき焼き御膳》を食べたかったのだが、時間も遅く売り切れ。
代わりに地元産のお土産をいくつか購入。

実は、この《森の芸術祭 晴れの国・岡山》に興味を持ったのにはもう一つ理由があって、金沢21世紀美術館の長谷川祐子氏がアートディレクターをされていたこと。彼女の言葉から引用させて頂く。
「森にはさまざまなものがあり、迷いながら分け入っていくことで、見たことがない場所、思いがけない出会いがある魅力的な体験へと導いてくれます。そして不便さも辿り着くことの困難さも魅力のひとつとなります。限られた訪問時間でどの(森の)サイト(地、場所)を選ぶかはあなた自身だからです。」
旅の道中で手に入れた案内パンフで、後日、目にした文章なのだが、当にその通りだと実感した。
那岐山は、「イザナギ、イザナミ」由来の名だとする説もあり、神の山として信仰の対象にもなっている。天気のいい日に頂上に上れば、西に大山、東に氷ノ山、北には日本海を、南には遠く四国の山々まで見渡せるという。
その地を選んで、駆け足だったが数々のアート作品に触れ、大パノラマの虹を拝めたことは、なんと幸運なことだろう。
私の気分は、「雨でも晴れ、ハレ!」なのである。

令和6年11月の旅。
 







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