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旧作ザオリク図書館「驚異のズッコケ大時震」レビュー

 言わずとしれた児童文学の名作、ズッコケ三人組シリーズの中でも人気であろうタイムスリップ巻です。このシリーズ、たまにこういうSFスペクタクル来ますよね。初版88年発売。

 お話は帰宅途中、謎の地震に巻き込まれたハチベエ、ハカセ、モーちゃんが、いきなり関ヶ原の合戦現場に転移してしまうという超展開です。殺し合いから逃げる内、たまたま小早川秀秋の陣に迷い込んだ三人。秀秋や重臣らと会見し、歴史上の展開を予言して、神の使いとして扱われる羽目に。

 これはもしや、タイムスリップ系オレツエー来た!? と読んでて思ってましたが、そう甘くない。なんとハチベエらがスリップしたこの過去、なぜか途中から歴史の歯車が狂い始め、まさかの武田騎馬隊が参戦、東軍の背後を奇襲します。この世界線では武田信玄がまだ生きているだと!? 
 さらには、真田昌幸軍にあっさり家康が討ち取られてしまい、ハチベエらのいる小早川軍も敗走。ズッコケ三人組も、わけがわからないままにその場を脱出します。
 ここはもしやパラレルワールドなの? と読者に疑わせつつも、親切な農家で一晩お世話になった三人組は、街道を西にゆく最中、またしてもタイムスリップ!

 そこは元禄の時代であり、皆は水戸黄門一行に、旅のお供として拾われます(何の前触れもない時間移動で、淡白すぎて逆に新鮮)
 旅の宿場で、代官配下の思わぬ宿改めに対し、葵御紋の印籠を披露して、無事に収める黄門様。その後、ハチベエらはあっさり黄門様一行と別れて、京都の宿屋へ向かいます(基本的には故郷の稲穂県を目指して西へ)そこでまたまたタイムスリップし、幕末へGO!

 その宿・寺田屋で働くおりょうさんや客の坂本竜馬と運命的に遭遇。三人組は、幕府の密偵疑惑を必死に解いて身分を明かし、歴史談義に華を咲かせます。だが今度は、新選組が寺田屋に襲撃を仕掛けてくる大ピンチに。
 リボルバーをふるい、隊士三名を撃ち倒す竜馬だが、すぐに弾切れ。多勢に無勢の危機である。そこを救うありえない助っ人は、時代劇ヒーローの鞍馬天狗なのでした。

 これは一体、どういうことなのか? リアルとフィクションが混在している世界? もはや平行世界説でも説明しきれません。
 宿を飛び出し、夜の京都で竜馬と近藤勇が決闘している間に逃げのびた三人組。またまた時空転移に巻き込まれ、とうとう邪馬台国の時代に来てしまいます(邪馬台国の所在地は曖昧)

 で、魏から来た旅人と偽って現地民に歓待された三人は、邪馬台国のヤマトマスラオノミコト(卑弥呼弟)やヤマトヒメノミコトこと、卑弥呼女王本人と謁見します。
 卑弥呼の出番自体が、かなり少ないのが残念ですね(挿絵も影と後ろ姿のみ、中年女性らしい)ともあれ、シャーマンである卑弥呼は三人の出自など、最初からお見通し。彼女が受けた神託により、これから目指すべき方角を指示される。そこは、敵国クマノ国との国境の先であった・・・・・・。

 そして起こる最後のタイムスリップ! 転移先は中生代ジュラ紀である。   三人は、翼竜ランフォリクス、かみなり竜ディプロドクス、まだいないはずのけもの竜ティラノサウルスと次々に遭遇します。
 あわやティラノの餌食、という瞬間、謎の背広の小男が現れて、ティラノを魔法のように消滅させて助けてくれる。

 男は当初、レスキュー隊員のようなものと名乗るが、その正体は時間管制局であった。男の説明によれば、冒頭の地震(時震)の影響で、時間断層が不安定になり、三人組が過去にタイムスリップしてしまった。しかも時間断層がボロボロになったせいで、「観念実体化現象」が引き起こされ、ハチベエ、ハカセ、モーちゃんの不完全な知識が勝手に具現化された、というのが今までの真相らしい。

 時代劇好きなハチベエが武田信玄、水戸黄門、鞍馬天狗を歴史に召喚してしまい、怖がりのモーちゃんがティラノサウルスを生み出し、ハカセの中途半端な歴史雑学が、新選組の襲撃を呼び起こしたのである。これらの歴史トラブルは、時間管理局の男が苦労して、ティラノと同じく、正しく修正(消去?)したとのこと。
 そもそも卑弥呼にテレパシーでお告げを与え、三人を誘導したのもこの男であった。彼は最後に謎めいた小箱を使い、(タイムマシン?)あっさりと三人を元の時代に帰してくれる。

 エピローグ、記憶を消されることもなく、無事に現代の花山団地に帰ってきた三人組。モーちゃんは社会(歴史)のテストで先生がお説教するなか、邪馬台国での出来事を思い出すが、それより給食の献立の方が気になるのだった、という結末です。

 よく練り込まれたSF設定がなかなか唸らせます。あと、男気のある坂本竜馬や優柔不断な小早川秀秋のキャラが良いですね。
 終盤明かされる「観念実体化現象」という独自の設定も興味深い。いっぺん起こしてみたいですなあ、自己妄想の具現化(そのせいで、命危うくなってますが)。

 ズッコケ三人組シリーズは、小学生時代から思い入れがあるので、順不同でちょくちょくレビューしていきたいと思います。読んでないやつもたくさんあるしなー。



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