『不便益』
おはようございます。
さて。
世の中がどんどん便利になっていく中で「不便をデザインした方がいいよ」とおっしゃるビジネス系インフルエンサーがそこそこいらっしゃるので、今日は『不便をデザインして、コミュニケーションをコンテンツにする』というテーマでお話ししたいと思います。
マーケティングするうえで、今日の内容はまあまあ大事な部分になってきます。
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▼ 不便益
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日頃、お客さんの満足度を上げようと思って、やみくもに自動化や効率化を目指すスタッフや本社勤務の社員を見つけては、「せっかく脳ミソを搭載しているのだから、使った方がいいよ」と声をかけています。
#なんてイヤミな奴なんだ
彼らの脳内にある「目的」と「手段」をそれぞれ整理すると…
【目的】お客さんを喜ばせる
【手段】便利にする
になると思います。
……まぁ、分からんでもないです。
ただ、全ての場合において「便利にする=お客さんが喜ぶ」が通用するわけではありません。
富士山の頂上まで車でブイーンと行けてしまうと、富士登山の価値はグンと下がります。
「徒歩で登らなきゃいけない」という【不便】が、富士登山というエンタメを生み、富士山周辺の経済をまわしています。
富士登山の場合、「便利にしてもいいライン」は五合目までで、それ以上、便利にしてしまうと全員が不幸になるわけですね。
こういった「不便であることによって発生している利益」のことを『不便益』と呼んだりします。
『不便益』は、to C向け(消費者向け)の商売をする全てのサービス提供者が頭に叩き込んでおかなければいけない概念です。
とくに、品質にこだわり始めると(職人化が進むと)、ここはゴッソリ抜け落ちて、「何の為の効率化なの?」という悲惨な結末を迎えるので、マジで気をつけて。
#料理人あるある
僕の基本業務は、ざっくり言うとホテルの付帯施設としての飲食店を上手いことやりくりして、ホテル全体の価値を向上させる。といったところなので、割と手頃な宿泊施設(イン、ビジネス、民宿など)から、高級なホテル・旅館(帝国、星野など)までいろいろ視察(めっちゃ楽しみながら、めっちゃ見る。)をする機会があるのですが、その時に感じるのが、料金グレードがある一定から上がるにつれて、お部屋に置いてあるアメニティーが減っていく、という点です。
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#ハイグレードっす。。
もちろん、全てのハイグレードホテルに当てはまる事では無いと思いますが、今やホテル業界もコモディティー化が進み、比較的利用しやすい料金帯の宿泊施設でも、ある程度の備品(ケータイ充電器、空気清浄機、ズボンプレッサー、ちょっといいシャンプー、セパレートの部屋着など)は揃っていて、そこで差別化を図るのは難しい中で、ハイブランドホテルではケータイの充電器が部屋に置いていないトコロも。
フロントに内線し、お部屋まで持ってきて頂いた時に「他に不足しているモノはございませんか? 何かあれば何なりとお申し付けください。」とマスク越しのスーパー笑顔と共に充電器を受け取りました。
ここで僕の心は少し動きます。
結果、フロントスタッフに充電器を持ってきてもらう事で対面での接客になり、スタッフさんのお顔とお名前と好印象を覚えることになりました。
スタッフの印象=ホテルの印象です。
不便を設計することによって、「ホテルとの距離」を縮めたわけですね。
もしも、お部屋に充電器を常設していれば、なんの不便も感じずに難なくケータイを充電して、さっさと飲みに出ていたと思います。
目的はあくまで「お客さんの満足度を上げること」であって、「便利にすること」ではないので、サービスを提供する時は、「便利」と「不便」の割合を常に意識しなければなりません。
そして、これは、これからの時代、メチャクチャ重要になってきます。
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▼ 不便だから「ヒーロー」が生まれる
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これは僕自身の体験談では無いのですが、すごく好きなストーリーがあります。
スペインのサン・セバスティアンの山奥にある酒場でのおはなしで…店に入ると空のグラスがテーブルの上にドンと出されて、それだけなんです(笑)
店内を見渡してみると、皆、空のグラスを持って「奥の部屋」にゾロゾロと歩いていきます。
よく分からないまま「奥の部屋」に行ってみると、そこには巨大な酒樽がズラリ。
どうやら酒樽から直接お酒を注ぐらしいのですが、困ったことに、蛇口から出てくるお酒の勢いが凄いんです。
水圧が凄すぎて凄すぎて、グラスに注いだお酒が跳ね返ってしまうので、少なくとも1メートル以上は蛇口から離れないといけません。
というわけで、お酒をグラスに注ぐには、「お酒を受けとる人」と「蛇口をひねる人」の二人が必要です。
#この店では誰かの為に蛇口をひねる人がヒーロー扱いされます
この店でお酒を呑もうと思ったら、自分と同じようにグラスが空いた人を探しだして、「(一緒にお酒を)入れに行こうぜ!」と声をかけなければなりません。
コミュニケーションをとらないと、お酒にありつけないんですね(笑)
おかげで、お店のお客さんは全員が仲良し。
そりゃそうです。
「共同作業」をした仲間ですもの。
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#暮らしてみたい 。。
多くのサービス提供者は効率化を求めますが、便利にすることで削れてしまうものが一つあります。
「コミュニケーション」です。
商品の品質で差別化が図りづらくなった(※誰でも高品質の商品を作れるようになった)今、残された売り物は「コミュニケーション」です。
「あの店に行けば、あの人に会える」や「あの店に行けば、友達ができる」といったコミュニケーションは、多くの場合、【不便】がもたらしてくれます。
サービス提供者が提供しなければならないのは「問題」で、お客さん同士が力を合わせて「解決」するその一連のアクションがコンテンツになっていないと、品質で差別化が図りづらくなった時代に生き残ることは厳しいです。
この「不便から生まれるコミュニケーションデザイン」は、あらゆるシーンで転用できます。
公園にある大きい地球儀みたいな遊具あるじゃないですか。子供が中に入ったり外側に引っ付いたりして、もう一人が回してあげる。 もしくは、ブランコで子供の背中を押してたらよその子も「おっちゃん!こっちもおして~!」と急に忙しくなるお父さん。
きっと、そんな「お父さんヒーロー」を作ってあげる仕組みが必要で、そのために上手いこと「不便」を設計してあげなきゃいけない。
公園という野外の公共施設という事で、維持管理費が高くつく電動機具はないのでしょうが、結果として、ゲームや動画サイト等で一人遊びのバリエーションが増え、ある意味親にとっては便利(電動)にしたことで削られていた「親子のコミュニケーション」を、不便(人力)にすることで甦らせる事が必要とされている。
「あそこに行くと、親子の仲が深まるよね」というポジションをとりにいく。
今、(to C向けの)あらゆるサービス業に求められている変化だと思います。
そんな場所が増えたらいいなぁ。
まずはウチから!
今日もありがとう。
じゃ
またね。
阿部