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羽田空港の広さ

ふるい飛行機に乗っている。自分の目の前に,つまり座席の裏にデンモクみたいな液晶のパネルが埋め込まれていて,そのすぐ横にマッサージチェアのリモコンみたいな,なにに使うのかよくわからない電子機器がくっついている。そのリモコンがなにかのはずみで座席から取り外せそうな機構になっているので,いろいろなボタンを押したり引っ込めたりしているのだが,間抜けっぽいのでやめた。

羽田に行く前に新宿三丁目のいつものクリニックに寄りたかったんだけど,家でぼーっとしているうちにそんな猶予は無くなってしまった。なので,同居人が飲んでいる睡眠薬(デエビゴ10 mg)を一錠もらい,包丁で4等分に砕いて,たばこの箱に入れた。締切時刻ギリギリで保安検査場に着いたとき,(やばい薬だと思われて,検査に時間がかかって飛行機乗れなかったらどうしよう。たばこの箱にいれてるのも何か怪しいし😥)と不安がよぎったがすでにゲートの前。そこはなんとかクリアできた。

「時間管理ができない」だけのことをなぜ冗長にウダウダと? と思うだろう。

第一に,てっきりANAってもう全部の機体でWi-Fiが使えるもんだと勘違いしていたことがある。機内に乗り込みNetflixで「三体」を観ようとしたら,ネトフリのログイン管理が変わってて(話が脱線し続けて申し訳ないんですが,私は同居人の弟のファミリーアカウントの一枠を使わせてもらっています),移動先でログインできないようになっていた。仕方がないので,同居人に「いま君の弟宛てにログイン承認用のSMSが送られてきたはずだから,そこに書いてある4桁の番号を転送してくれ」と連絡した。はたして返信はすぐに返ってきた。やるな😃😃 とすぐに番号を打ち込み,さっそく「三体」をダウンロードしたかったのだが,機内にWi-Fiサービスが搭載されていなかった。目の前にあるのはデンモクとマッサージチェアのリモコンもどきだけ。つまり100分ほど暇になっている。

第二に,隣の男の口臭がひどく,なるべくスマホのキーボード入力に意識を逃してやりたい。

目的地行きの搭乗口は,私の地元,岩国錦帯橋空港のゲートの隣だった。私は過去,岩国行きの飛行機に2回ほど乗り遅れたことがある。記憶が嘘をついてなければ2回だけ。まあ地元なので,すぐにママンに「乗り遅れちゃったよ〜😂」みたいなLINEをして代わりのチケットを用意してもらった。今回は会社の出張なので,乗り遅れるというのはまずい。私が抱えているたくさんのパーソナリティの問題のひとつに,ちゃんとしなくてはいけない場面に限ってなぜかちゃんとできなくなる。というのがある。今回は本当にギリギリで,そもそも直前になって出発時刻が5分遅延しますというアナウンスがなければ搭乗に間に合わなかった。

ひとつだけ文句を言わせてもらうと,羽田空港は,人間が行き来する場所としてはあまりにもデカすぎる。無謀に近い。

「三体」を諦めて山田詠美の吉祥寺のエッセイを読んでいると,ドリンクサービスの時間になった。私は幼いころからANAのビーフコンソメスープが大好きだ。親に頼んで,家で飲む用のパウチを買ってもらって毎朝飲んでいた。最近はりんごジュースの方に気移りしていたのだけど,今日は簡単なお弁当を買ってきていたので(この弁当を持ってレジに並ぶ時間がなければもう少し余裕があったのだが,こういった類の計算が私にはまったくできない),久々にコンソメを飲んだ。とっても美味しかった。人間は熱い飲み物をもっと飲んでいったほうがいい。飲むと,ちょっと元気になるだろう? おにぎりとの相性もいい。西洋と東洋が上空何千メートルだかでシナジーしている。こうやっている間はだめな自分を無視できる。社会人になって2年半経つが,こういった鈍麻の技法だけが洗練されていっている。

私は,自分がなんで仕事を続けていられるかがいまだによくわかっていない。ウソ。わかっている。労働時間が短いから。悪くない給料だから。前者は事実で,後者は感覚。

毎日のように,「自分は,この仕事に向いていない!」と思わされているが,それが仕事を変える理由には,私の場合はまったくならない。最近はもう見てないけどオモコロチャンネルの永田が「憧れで始めて,殺意で続けろ」と昔言っていたのを思い出したりして,なかなか説得力のある言葉だな。と感じている。なんとなくかっこいいな〜と思って入った業界がどこの関係者も貧乏で,身内ノリで回っていて,創造性は前例である程度規定されていて,そもそも斜陽産業の代表で未来がない(まあ,これはわかっていたか),ということが明かされたが,結局「仕事」だから全然苦ではない。そんなことよりも自分に似合う髪型が,26歳になってわかってないとかのほうが苦しい。

最近同期が辞めて,同世代の人間が私ひとりになった。その人も私かそれ以上に相当に事務能力に問題があり,まあ私のほかにもそういう人が職場にいたことは心理的な負担が減って良かったんだけど,それと同時に内心イライラさせられることも多かった。友だちではないから嫌いになることも無かったが,特定の個人にイライラしてしまうのは良くないと思っていて,しかもそれが職場で発生するというのはけっこう最悪だ。いまは人間関係の軋轢とかがないから辞めずに働けている。そういうの大企業とかだとあったりするんですか? 振り返ると,人が多い会社に入らなかったことは良い選択だったといえる。

そんなことを考えているうちに飛行機が着陸した。空港のロビーはまいばすけっとくらいの広さだった。実際,スーパーの入り口の匂いがした。いやしかし,本当にこれでいい。バスは市街地を目指す。防砂林の向こうには白い砂浜,群青色の日本海が見える。大山は,見るたびに想像以上にとんがっている。あとはロードサイドの街並み。方々で言っているが私はこのなんでもないチェーン店が延々と続く国道の景色が大好きだ。というか逆に嫌いな人なんているの? あと50kmは余裕で続いていて欲しいとも思う。この景色を見ると,あ〜私は日本にいるなと思う。いまの渋谷とか品川あたりの景色には,一生違和感を抱き続けるのだろう。

そういえば,行きの京急線のなかで「永野&くるまのひっかかりニーチェ」という番組のアーカイブを見た。最近の私はもう永野に首ったけで,彼の出た番組をできるだけ追い,ラジオとかもチェックしている。永野は過去にいろんな媒体で「永野&くるまの〜」の番組元である「バラバラ大作戦」のことを腐していて,その調子も最高だったんだけど(シェアハウスとかしてるような芸人がシェアハウス仲間と出てるからいつものリラックスしたトーンで喋りやがって,制作スタッフもそれを「かけがえのない顔」して見つめてるのが気持ち悪い。って,ヤバくない? 「かけがえのない顔」って絶対自分の頭から出てこないフレーズなのに,ありありとそのさまが浮かんでくるもんね),だからこそ自分は「バラバラ大作戦に出たい」と言っていたから,夢が叶って良かったな! 永野! と私も嬉しい。令和ロマンのくるまのことはM-1を見たくらいで正直あまり知らなかったのだが,永野とのトークの相性がとても良くて,ひとりで好き勝手に喋って帰るスタイルの永野が,くるまのまくし立てる熱量に合わせてか,レシーバーに回っているように見える立ち回りが新鮮でおもしろい。

令和ロマンのことをあまり知らなかったので,いままでは,変なミームとかアングラなネットの話題をよく漫才に挟んでくるひと。くらいのイメージだったけど,「永野&くるまの〜」を見ていて思ったのが,彼はADHDっぽいのが若者にウケてるのかな。ということで,気になったからざっと調べたら,どうも彼自身もそういう特性を自称しているようで,なにか一本筋が通ったというか,勝手に納得してしまった。最近読んだ本でも話されていたことで私もすごく共感したのだが,ASDとか,ADHDとか,発達障害,もしくは発達障害っぽい特性がどんどんメジャーになっていって,それも特にイーロン・マスクみたいな,社会的に成功している発達障害:多動特性をドーパミンの放出にうまく繋げられたひとは,ちょっとクレイジーでかなりクールだという価値観が,広く浸透していっている感覚がある。

あまり使いたくない表現だが「ファッション」となっているような空気もある。私も昔は,自分のことをADHDだと思い込んでたびたび話のネタにしていた。いわゆる高知能の発達障害,みたいな人に何人か出会い,彼らの話を聞いて,私はなんだかとても恥ずかしくなって,ただのポンコツ,というふうに軌道修正を図っていった。今日も,出先から米子駅へ帰る道を正反対の方向へ向かっていることに10分ほど歩いたあとで気づき,その時になってホテルに財布を置いてきたことに気付いた。いまだって,地元の人に教えてもらった居酒屋に入ったら,料理の器や徳利,おちょこなどがしゅっ西さいがまという出雲の窯元のもので揃えられていて,マジ渋い。イケすぎ,shitじゃんなどとひとりで盛り上がっていたら,一合しか飲んでいないのにラストオーダーの時間になってしまって,慌てて二合を追加している。こういうのは飛行機のリモコンをいじっているときと同様に間抜けっぽいし,若者に憧れられることはない。そんなヘマをやった時にひとりでに溢れるため息は,自分の輪郭を正確に象りすぎていて気まずい。

明日何時に起きなきゃいけないかとかもチェックしてないけど,ひとまずコンビニに行ってローカル番組を見る。最近,テレビが好きだ。いやでもさすがにちゃんと調べよう。と思う。明日もがんばろ

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