コーヒーとドーナツ

仕事終わりに、とにかくコーヒーが飲みたかった。ほっと一息、「この一杯のために労働があるのだ」と感じるような体験が欲しかったのだが、お気に入りのカフェはラストオーダーの時間が過てしまっていた。キリのいいところまで、などと言わずにさっさと仕事を切り上げておけば、ギリギリ入店できたかもしれないのに。少し悔しい気分になる。
「まぁでも……夕方のカフェインは眠りの質を下げるとも言われているし、逆にこれでよかったんじゃないかな……。」と、自分をごまかしていたが、帰宅後は地味な労働が多いということを思い出した。食器を片し、洗い、食費の節約のために弁当を作り、入浴する。
「むしろ軽めの一杯ぐらいは飲むべきだ。そうだコンビニコーヒーにしよう。」

 ホットコーヒーを一つと、期間限定の紫芋ドーナツを一つ。コンビニコーヒーはカフェで提供されるものと比べてもそのクオリティは遜色ない。紫芋ドーナツは頬張った瞬間に口内に広がるふわっとした香りが上品だった。シュガーでコーティングされた外側のザクザクとした食感も良い。

 イートインスペースは無かったので、歩きながらいただく。左手の親指、人差し指、中指でカップを持ち、薬指と小指を使いドーナツをカップに固定する。少し行儀は悪いが、右手は鞄で塞がっていたので仕方がない。それにこういう行為こそが人生を楽しくしていると思う。

 まだ少し明るい空。微かな秋風。帰路に就く人々。緊張がほぐれた街の雰囲気。そこに組み込まれる街の一要素としてのただの萊萊。その左手にはコーヒーとドーナツ。 充分だ。

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