Get Wildのカバー動画から、その歌い手のオリジナル曲をDigる

 今回はウェブ上に公開されている、お気に入りオリジナル曲の魅力に迫っていく。昨年もTM NETWORK「Get Wild」をカバーする歌い手の作品を鑑賞して、気に入ればその歌い手のオリジナル曲にも踏み込んでいく企画を試みた。その続編だ。執筆後もさまざまな「Get Wild」が生まれることだろうと思ってはいたが、本当にその通りになった。今回は女性ボーカルにフォーカスしてみよう。


Red Heels「Get Wild」、「Decision」

 3人組のダンスロックユニット・Red Heels。メンバー紹介をする際に、普通はボーカル誰々、に続けるのはギター誰々、ドラム誰々…と担当楽器を並べ立てていくところが、こちらはボーカルAyaKoとダンサーのPinko・junkoとなる。この時点からもう新鮮でいいねー!僕もまだこのユニットを知ってから日が浅いので、どちらがPinkoでどちらがjunkoなのかよく分からないまま書いているんだけど、とにかくMVが気に入った。

 まずはTM NETWORKのヒット曲「Get Wild」のカバーから鑑賞していこう。「Get Wild」のカバーを鑑賞するときは、好きな曲だからもちろんテンションが上がるのだが、伴奏のイントロがピアノで始まる「シティーハンター」のエンディングで毎週使われていたオリジナル・バージョンだと、期待と同時に不安も入り混じる。サビの「一人では」「この街で」の音程の取り方を間違って覚えてるんじゃないか。それに細かいところを抜きにしても、そもそも全体的にうろ覚えなんじゃないかとか。余計な心配が先立ってしまうのだ。今では、歌い手それぞれの解釈の仕方があると思えるようになったけど、やはり長年のファンにとってはオリジナル歌手・宇都宮隆の歌唱法に準じている方が、聴いていてシックリくる。

 再生ボタンを押す前はこんな心境だったが、出だしからすっかり僕はロック・オンされてしまった。おおー、このイントロかあー!これは本当にアーテイストや楽曲に愛着を持ったやり方だよなあと、直感でピーンときた。意外性のあるアレンジや卓越した歌唱力など、これまでも音声面で驚くべきカバー動画をたくさん目の当たりにしてきたが、振り付けという映像面で感動するカバー動画もいいね。

 ダンス・ミュージックが大好物な僕だけど、映像もガッツリ楽しめるMVって、そんなに大量に出回ってはいないから、これは嬉しい。ダンス・ミュージックの形態はとっているけれど、MVが制作されていないヒット曲を題材にして、オリジナルの振り付けを当ててみるのも一興だ。この動画はワンコーラスで終わっているけれど、当日会場にいた方は最後まで見れたんだろう。羨ましい。

 続いては彼女たちのオリジナル曲「Decision」を鑑賞する。こちらも先のカバー同様、歌いだす前のイントロの段階でもう期待が高まる。「Get Wild」が好きなら、ほぼもれなくこちらも気に入るよね!という始まり方だ。

 僕のツボはイントロのシンセサイザーによるコード・バッキング。16分音符の刻みに続く、付点音符でのトップ・ノートの移り方とかもう最高だね。このボイシング大好き!その後ベースが加わるのだが、このベース・パターンは90年代のヨーロッパのクラブ・シーンが好きなら、もう自動的にテンションが上がること間違いなし。EUROGROOVE「Move Your Body」やCappella「Move It Up」やMAXX「GET-A-WAY」という楽曲にピンとくる方なら、「Decision」にもこれらと共通するエッセンスを感じられることだろう。

 楽曲が佳境に入ってくると、サビの英語詞部分の音程が、突然意外なところに飛んでいく。ここも聴きどころのひとつだ。こんな所に飛んでおいて、よく元に戻ってこられるなと思う。振り付けは、床に突っ伏す動きが見どころ。オリジナルのダンス・ミュージックは数あれど、振り付けまでしっかり堪能できるものとなると、グッと数が絞られる。今後の活動にもぜひ注目したい。


真行寺恵里「Get Wild」、「地球の子」

 続いてピックアップするのはソロ・シンガーの真行寺恵里。彼女のカバー動画「Get Wild」は、先のRed Heelsのバッキングとは一転して、アコースティック・ギターとカホンの2台だけというシンプルな構成。この見た目だけで、「Get  Wild」を延々と4ストロークで爪弾く、おとなしい動画なのかなと早合点してはならない。オリジナルの世界観に迫る、リズミカルな演奏に注目したい。後から知ったことだが、T.Rexも最初はこういう編成だったらしい。僕は映像を見た途端にシットリしたイメージを持ってしまったので、その後展開されるアグレッシブな演奏とのギャップに驚いたものだ。この編成でも、"攻める"音楽ってできるんだなあと発見になった。

 原曲の重要なフレーズは、ギター演奏できっちり踏襲しつつも、奏者独自の個性を出したアドリブも楽しめる、カバーの理想的な形。シンセサイザーの音色がギターに差し変わるだけで、結構新鮮に響くものだ。

 ボーカリストも、オケが薄くなっても問題なく聴かせられる確かな歌唱力で、これに応える。

 オリジナル曲は、タイアップもついた「In My Dream」が最も知名度が高そうだが、僕は「地球の子」が良いなと思う。ちょっとトリッキーでとっつきにくいかもしれないが、あまり耳障りが良すぎても、ひっかかるところがなくて面白みに欠ける。これぐらいの方が聴きごたえがあるよね。

 ボーカルについては、主旋律の音程が高くなっても、どうにかこうにか音が当たっている感じは全くない。最高音でも狙った表現ができていて、きっちりコントロールが効いているように思う。迫力ある歌声を聴かせてくれる。


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