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楽曲に込めた想いを発信しよう! Awichテレビ出演の感想

 1月14日、NHKの番組「おかえり音楽室」のAwich出演回を見た。先月、ビルボードライブ東京で行われたG-SHOCKのイベント「G-SHOCK PREMIUM NIGHT」では、小室哲哉(TM NETWORK)とのセッションで安室奈美恵の『SWEET 19 BLUES』をカバーを披露した彼女。このときの映像は期間限定で公開され、筆者もチェックしている。終演後の小室哲哉の談話によると、ステージでのAwichの緊張が自分にも伝わってきたと言っていた。Awichも偉大な存在の小室を前にして、押しつぶされないように必死だった。2人にとってスリリングな経験になったようだ。
 
 番組の企画のためAwichが故郷の沖縄県浦添市へ帰ると、お世話になった先生や親しかった旧友たちと再会する。母校の昭和薬科大学附属高等学校に到着すると、そこで教職に就いた同級生が出迎えていた。見ていても心温まる場面だった。
 Awichがオリジナル曲を披露する会場は、母校の音楽室だ。やりたいことに夢中になっている自分のひたむきな姿を、「何を真面目ぶっているのか」とからかわれ、過去には快くない思いもした。沖縄なんて嫌いだと思うこともあった。だがこの学校では、そんな自分に同調してくれる仲間がいて、応援してくれる雰囲気があったという。懐かしい面々との再会の後に、撮影スタッフを除いて一人きりになった音楽室。そこでこみあげてくる、過去から現在までの道のり。さらに我が子の将来のこと。とめどなく溢れる思いを一気に吐露していた。
 卒業後は大きな夢を抱いて渡米。そこで結婚し子供も授かるが、夫が事故死して失意の帰国となる。ここまでの壮絶な経緯を楽曲に込めたのが『Queendom』だ。


 イントロの時点では初めて聴く曲に思えたが、ライムが進むにつれて「一度聴いたことがある」という記憶が蘇ってくる。小室哲哉とのセッションで、歌の合間に挟み込んでいたラップ・パートがこの曲だ。
 『SWEET 19 BLUES』という曲は、オリジナルのメロディーを土台にしてシンガー独自の新たな解釈を加えるというカバーが、加藤ミリヤによって既になされている。2008年発売の『19 memories』だ。制作手法は合い通ずる面があるものの、Awichのカバーは加藤ミリヤの延長線上にあるものだとは思えない。新鮮に響いた。安室奈美恵以外のバージョンを知らないリスナーには、尚更そうだろう。G-SHOCKのイベントのときは、単にカッコ良い音の響きだなという印象だけだった。
 だが今回の番組でのパフォーマンスは違う。これはAwichの実体験に基づく自らの思いを発信しているのだ。それがわかるから、歌詞の内容も深く心に刺さってくるし、歌唱中の真剣な表情の源泉に触れることができる。小室哲哉とのセッションのときには感じ取れなかったものを、ここでは感じ取れた。
 この音楽室でのAwichのパフォーマンス映像は、現在の在校生が真剣に見つめていた。先輩が頑張って夢を叶える姿に、心を打たれたようだった。

 歌い手やサウンド・クリエイターの音楽活動においては、次のようなことに留意しておきたい。音源単体でリリースするだけでは、魅力が伝わりきらないこともある。フィクションなら、細部まで語り過ぎるよりもリスナーに想像の余地を残した方が良い場合もあるだろう。しかし今回のAwichのように、事実や実体験が基になる作品では、バックグラウンドを赤裸々に明かしてみてはどうだろうか。すべての作品でというわけにはいかなくとも、「これは!」という自信作だけでもいい。「ただなんとなく好き」なリスナーにも、新たな気づきを注入し、より深く作品を愛してもらえるようになるのではないか。リスナーの興味の対象をひとつの楽曲に留まらせることなく、表現者の価値観や人生そのもの、つまりアーティスト自体へ向けることができる。
 鑑賞後、単に「良い曲だったな」で終わらずに、過去作へ遡ったり次回作へ期待してもらうためには、大切なことだ。
 今回のAwichのように、「おかえり音楽室」への出演が叶えば、シチュエーションとしては最高だが、そうとばかりも言っていられまい。
 個人のイメージだけに頼らずに、誰か聞き役を立ててみよう。そこで作品や活動についての語らいの場を設けるのだ。自分でも思わぬ所から、発想の扉が開くかも知れない。
 また、愛用のアイテムや記念写真などがあれば、自分のルーツを辿る糸口になるだろう。いろいろな方法で自分の目指す方向を定め、それをリスナーと共有することだ。そうすれば、アーティストとリスナーは、長きに渡って良い関係を続けていけるに違いない。


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