歌ってみた動画で楽しむ、洋楽カバー曲

 今回のDIGは洋楽ヒット曲の日本人アーティストによるカバーにフォーカスしてみた。僕も最初は外国人が英語で歌う曲には関心が持てなかったのだが、Dave Rodgersのアルバム「TMN SONG MEETS DISCO STYLE」を契機に、だんだんと洋楽にも耳を傾けるようになった。

 興味を持ってもらう入り口としても、カバー曲は有効な手段。だから歌ってみた動画でも盛んにアップされているのだろう。

 今回はYouTube上の歌ってみた動画をピックアップしつつも、オリジナル・バージョンの方も改めて聴き直し、そちらにも触れつつ歌い手や楽曲の魅力をご紹介していきたい。


 Yummi with Charmgirls「TRY ME ~私を信じて~」

 まずは安室奈美恵のヒット曲から。引退の際にリリースしたアルバム「Finally」にも録り直したバージョンが収録された。発売当時は「安室奈美恵with SUPER MONKEY'S」名義でのリリース。このころは現在のMAXと活動を共にしていた。MAXの方は今年も新曲がリリースされている。体が動く限り、いつまでも頑張ってもらいたいね。

 僕はグループとしての彼女たちに肩入れしていたので、安室奈美恵はソロ・シンガーへ、残ったメンバーは新ユニット結成へと、それぞれ袂を分けたときは寂しさもあった。数年ぐらいは5人で活動する姿を見たかったものだ。

 このカバー動画の一番の見どころはなんといっても振り付け。曲の進行に合わせて人数が増えたり減ったりするのだが、5人揃った場面は、やはり見ごたえがある。1人で歌を覚えて振りをつけるだけでも相当なものだが、踊れるメンバーを5人揃えるとなると、そうそう真似できるものではない。

 僕は発売当時、安室奈美恵with SUPER MONKEY'SのTV出演を録画してリピートで見ていた。サビで手のひらを頭上でヒラヒラさせる動きは、当時から強く印象に残っていたものだ。番組によってカメラ割がまちまちなので、画面に収まっている動きと、フレーム・アウトしていて、どう動いているのか伝わってこない動きがあるのだが、この振り付けはどこの番組も撮れていたような印象がある。Yummiたちがこれを再現しているのは、見ていても楽しかった

 何度も見たはずの曲なのに、このカバー動画によって「へえー、ここのパートはこういう振り付けだったんだ」と新しく知る部分もあったのが良かった。これはTVの収録とは違って、常に出演者がフレーム・アウトしないポイントにカメラを固定しているから。ダンスを楽しむなら、むしろこういう方がいい。カメラ・アングルを曲中で頻繁に切り換えてもダンスの躍動感を殺さない腕があるのならいい。でもそうでなければ、むやみやたらとカメラ・アングルを切り換えても、あまり良い結果にはならないだろう。

 僕はオリジナル歌手のLolitaの歌の方を先に知っていたのだが、当時のダンス・ミュージックの中でも格上な印象だった。改めて聴き直してみると、両者の歌い回しに若干の違いがあることに気づく。

 Lolitaのオリジナル版だと、サビが半分あたりまで進んだ「愛し合える」に相当するパートは、サビのラスト「抱きしめたい」と同じような音程の動き方で、高音で張り上げる。それに対して安室奈美恵のカバー版は、次のパートへの橋渡しをするような、やや抑えた音程の動き方。こちらの方が全体を通してわびさびが生まれる。単に歌詞を日本語にするだけではなく、日本のリスナー向けに歌い回しをいじってくるのは、さすがだと思った。

 また、サビの最後のフレーズ「夢をあげるーーー」におけるロング・トーンの締め括り方にも注目いただきたい。安室奈美恵は飾り立てのない、シンプルな伸ばし方。Lolitaは一度発音した後、2度3度とさらに音にうねりを込め直していくエモーショナルな歌唱法。あなたはどちらがお好みだろうか。

 両者の歌い回しを改めて聴き比べてみると、新たな発見があるだろう。この楽曲のファンで、カラオケでも既にマスターしているという方も、それぞれの良いとこ取りをした独自の歌い回しで、この曲に再チャレンジしてみるのも面白い。


じゅにひめ「Stop! In the Name of Love」

 続いてはglobeのカバー曲。こちらは2001年に発売され、藤原紀香主演のTVドラマ「スタアの恋」主題歌に起用された。

 この楽曲をアップした、じゅにひめの歌唱を聴いてみよう。KEIKOの歌い回しを細かいところまでよく拾っていて、アーティスト愛をヒシヒシ感じる力作だ。サビ頭のフレーズ「Stop!」のあたりなんかは実にそう感じる。

 歌い手の歌唱力もなかなかのものだが、歌に入る前の聴き込みの段階がしっかりしていたから好結果に繋がったのだろう。パッと数回聴いただけで、メロディーだけはなんとなく覚えました、というような聴き方では、こんなに深いところまではニュアンスは拾えない。

 歌唱だけではない。レコーディングにおいても、ボーカル・パートが部分的にラジオ・ボイスに切り替わったり、ラップ・パートの声の出どころを左右のスピーカーに割り振ったり、手間隙かけたこだわりの仕上がりになっている。これぐらいやってくれたら、リスナーとしても聴き応えがあって良いね。

 こちらも、スプリームスのオリジナル音源を聴き返してみた。先の「TRY ME」はオリジナルのLolita、カバーの安室奈美恵のどちらにも親しんでいたが、スプリームスの曲にちゃんと相対したことはない。3人組の利点を活かして、元々は複数のフレーズが交錯するような歌だったんだ。初めて気づいた。globe版は主旋律の女性ボーカル・パートだけならワン・テイクで録れてしまうからね。

 それにしても、TRY MEとはうって変わって、オリジナルの面影はほとんど残ってないね。でも僕はglobeのカバー版は煌びやかで気に入っている。

 僕自身がこの曲の主旋律を歌うことはないだろうが、globe版のコーラス・パートやラップ・パートは歌っていても楽しい。まだ完成まで持ち込めたことはないが、第一興商のカラオケ録音サービス・DAM★ともでも、自分のマイページにこの「Stop! In the Name of Love」の失敗作をたくさん眠らせていたものだ。どれだけ失敗を繰り返そうとも、アウトロで曲名を連呼するラップ・パートに入ると、たまらなくスカッ!とするんだよね。ここまでになると、ボーカリストのKEIKOの出番はもう終わっているんだけど、僕にとってはココこそがこの楽曲のクライマックスだと思っている。

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