木根尚登がラジオ番組・昭和歌謡セレクションに出演(後編)

(前編のつづき)
 LUCY IN THE ROOMのmiiは、ここまで木根尚登と放送を共にしてきて、「いい意味でカッコ良いイメージがあったので、親しみやすい方なんだな」と、印象が変わったことを話していた。
 この後はソロ活動の楽曲も紹介される。佐藤健一の大のお気に入りで、この番組でも定期的にオンエアされているのが、1996年リリースの『REMEMbER ME!?』だ。
 まず、イントロのギターは誰が弾いているのかを佐藤健一が尋ねると、そのときのバンドのメンバーだと答え(当時活動を共にしていた山本英美を指す)、「じゃあピアノは?」との問いかけにもスタジオ・ミュージシャンだと、テンポ良く話を進めた後、佐藤健一の「歌もすごく良いですね!?」という振りに、木根尚登自ら「歌も、スタジオ・ミュージシャンです!」と返したのは爆笑だった。「いやいや、あなたの持ち歌でしょうが!」と突っ込まずにはいられなかった。同席していたmiiも声を出して笑っていた。小室哲哉と華原朋美がこの曲のレコーディングに参加したことも語られた。
 ソロ活動でリリースした楽曲では、この他に『ホントの君ウソの君』もオンエア。こちらのページでは90年代にリリースされたオリジナル音源のリンクを貼っているが、番組では現代風にアレンジされたバージョンが流れた。こちらの楽曲とタイアップしている原作小説『ユンカース・カム・ヒア』が、最初の発売から時が経っても好評。近年、朗読劇となって装いも新たに発表されたことにも触れられた。
 ここで、「ウィンナートーンの風に吹かれて」と題されて、現在すでにスタートしているソロツアーの話になる。昨年実施した自身のソロツアーはギターの弾き語りだったが、今年は鍵盤奏者としての一面を見せていくようだ。演奏曲目は自身の持ち歌ではなく、他のアーティストへ提供した曲のセルフカバーになるという。
 これまで世に出ているのは、提供を受けた歌手の歌いまわしでレコーディングされたものになるが、当の本人は、どんな解釈で曲を作ったのかを味わえる公演になるだろう。いわば、当時制作されたデモ音源を、生歌で再現する企画だとも捉えることができるのではないか。木根尚登のソングライティングに興味のあるリスナーにとっては、必見のツアーである。佐藤健一とmiiも、続けざまに「聴きたいです」と言っていた。
 今年のツアーのうち、三鷹会場の話になると、miiも「ピアノの発表会ができそうな所」と言っており、ライブハウスとはまた違った雰囲気で楽しめそうだ。
 すでにツアーに訪れた観客からも番組当てにメッセージが届いており、函館会場で演奏中にピアノの弦が切れたハプニングが語られた。miiも「ピアノはなかなか切れないですよね」と言いながら驚いていた。木根尚登も「ギターの弦はいっぱい切ってきたけど、ビックリした。でもね、音あんま変わらなかったよ、1本ぐらい切れても大丈夫なんだね」と言っていた。
 佐藤健一が「ピアノは女性だって言いますからね。古いピアノはお婆ちゃんピアノとか言うじゃないですか」と口を挟むと、木根尚登も、もう少し労わってやさしく弾けばよかったと言っていた。
 TM NETWORKの新譜がソニーから出る件についても、佐藤健一はレーベルが変わることでの影響を尋ねようとしていたが、木根尚登は昔はガチガチに固められていた体制も、近年はソニーとエイベックスが協力する企画があるなど、時代は変化していると答えた。みんなが世界に行けるチャンスだし、「楽しみにした方がいいんですよ」と言っていた。木根尚登は自分の知り合いのジャズ・シンガーを例に出し、YouTubeに楽曲を掲載したら、インドネシアやイタリアからフェス出演のオファーが来たことを話した。
 LUCY IN THE ROOMが始まってから2~3年ほどのmiiに対して、来年40周年を迎えようとしている大先輩の木根尚登に「何か訊きたいことはないですか」と佐藤健一が促した。
「私たちもこれから自分たちの音を作っていきたいという野望を持ってやっているんですけど、これが自分たちの音だ!みたいなものを作るときに、どういう気持ちでやっているのかな、というか…」とmiiは問いかける。事前の準備もなく、佐藤健一が急に振ってきたので、大先輩を前にして焦りはあったと思われる。だが同じ鍵盤奏者として、TM NETWORKの木根尚登と音楽制作について語れる、貴重な機会が訪れた。木根尚登も相槌を何度も強く打ちながら、miiの質問に熱心に耳を傾けていた。「やっぱり所詮好き嫌いだから、楽しいかどうかじゃないですかね。楽しくないけど、こういうのが売れそうだからとか、みんなが良いって言いそうだからとかいうのは絶対やめた方がいい。自分が楽しければとにかく長く続くから。」このように話してから、長く続けていくうちに、何か物事が好転する機会が訪れると言っていた。
 「バンドだからメンバー間でやりたいことに違いが生じることもあるだろうけど、それぞれがリスペクトし合いながら、お互いの良いところを引き出しあっていけばいい」という助言をしていた。TM NETWORKもそうやってここまで来れたという。miiも木根尚登から素敵な言葉をいただいた、と感激していた。
 そもそもは、ゴールデンウィークに昭和のヒットソングを楽しもうという趣旨の番組で、たまたま同席することになった両者。佐藤健一の計らいで、唐突ながら最後に貴重なひとときが訪れたわけだが、最初からLUCY IN THE ROOMの新作を木根尚登のレギュラー番組で紹介するような流れだったとしたら、もっと踏み込んだ話に発展したかも知れない。いつかそういう機会が訪れるように、miiにも頑張ってもらいたい。
 今回も木根さん面白かったなあ、とさんざん笑い倒して終わるだけではなく、最後に後進のアーティストを気遣いながらかけた優しい言葉に、リスナーとしてもジーンと心温まる思いがした。
 木根尚登の今年のソロツアーと、TM NETWORKの新譜からは目が離せない。

KINE NAOTOsupported by TETSUYA KOMURO『REMEMbER ME!?』


木根尚登『ホントの君ウソの君』


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