小室哲哉の音楽について、あさちると神原一光・2人の業界人同士が、ラジオ番組で対談!
8月30日にFM京都で放送された番組「CHILL 90's EMOTION」で、NHKチーフ・プロデューサーの神原一光をゲストに迎えて、平成を彩った小室哲哉のプロデュース・ワークについて、MCのあさちると対談が行われた。
知識豊富な神原一光の話のうまさに、じっと聞き入っているあさちる。その中でも特に引っかかる事柄には、彼女なりに時折問い直す感じ。これが全体的な印象だった。2人は今回が初顔合わせではなく、3度目の会合らしい。共通の趣味も持っているので、談笑を交えながら和やかなムードで対談は進行していった。
はじめにオンエアされた曲はこちら。
てれび戦士『Be The World』
まずは神原一光の経歴紹介から入る。2002年にNHK入社し、「NHKスペシャル」、「天才てれびくん」、「令和ネット論」などの番組制作を担当した。
早稲田実業高校の出身で、小室哲哉の後輩にあたる神原一光。彼にとっては憧れの先輩で、「令和ネット論」の主題歌のオファーをTM NETWORKに引き受けてもらった縁から、小室哲哉のファンクラブ・TETSUYA KOMURO STUDIOの配信に呼ばれたり、「天才てれびくん」のテーマ曲制作など、その後の交流につながっていったようだ。
「憧れの先輩と、今一緒に仕事しているって事態になっています」という神原一光の口調は実に嬉しそうで、これを聞いたあさちるも「元々ファンだったんですよね?」と確認を入れた。神原一光の青春時代すべては小室哲哉のメロディーで彩られているという程、聴き倒している模様。これは「令和ネット論」のBGMの使い方を見れば、一目瞭然だ。
あさちるは、「青春時代に神のように思っていた方に、初めて会ったときって、どんな気持ちでした?」と尋ねた。
神原一光の中では、小室哲哉は歴史上の人物のような扱いで、実際に会って初めて「小室哲哉って本当に実在するんだ!?」という感覚だを持てたみたいだ。あさちるも「分かる分かる」という気持ちで頷きながら聞いていた。筆者はglobeや再結成後のTM NETWORKのライブを会場で観覧しているので、小室哲哉が実在する感覚は持っているが、やはりテレビや映像作品からだけでは、十分な実在感は得られないだろう。
小室哲哉に会ったときは、楽曲の「この音がよかった」とか「あの歌詞が良かった」というような、お気に入りポイントの詳細をメモしておいて、作品がどれだけ好きかを熱く語ったようだ。
神原一光の熱弁ぶりに驚いたのか、小室哲哉から「ただものじゃないね」という一言が返ってきた、と嬉しそうに話しており、このヴァイブスがインタビュアーのあさちるにも伝播しているのが感じられた。
「天才てれびくん」のテーマ曲のオファーにあたり、曲を作るプロセスをすべて追いかけさせて欲しいと小室哲哉にお願いして、MVが完成するまでのドキュメントを制作した話もした。ここにBTSの振り付けを担当するRIEHATAも絡み、贅沢な内容になったようだ。作詞では、言葉をどう選ぶのか、その様子も追った。
NHKの番組・「プロフェッショナル仕事の流儀」を、子供でも見られるようにした形になった、という具合に、神原一光はこのプロジェクトを総括した。
小室哲哉の音楽の魅力、そしてヒットの理由とは?あさちるはこれを興味津々に神原一光に問う。
神原一光にとって小室哲哉は、90年代・平成を象徴する音楽家。当時、歌謡曲と呼ばれた日本のポップスに、新しい概念を持ち込んだのが小室哲哉だと捉えているようだ。
それまでの日本の流行音楽にはなかった、ダンス・ミュージックのビートを導入。筆者が思うに、これは80年代の渡英経験が大きくモノを言っているだろう。小室哲哉の制作活動に影響を与えたうちの一人、ピート・ハモンドが当時使用したスタジオを訪れる様子を特集した番組も、確かNHKで作られたはず。
もうひとつ、プロデューサーという言葉が世間一般に浸透したのも、小室哲哉の功績によるところが大きい。小室哲哉のヒット曲が連発されるのに呼応して、当時のテレビや雑誌でも「プロデューサーとは何か?」というテーマの特集があちこちで組まれた。
神原一光は小室哲哉のヒット曲に感化されながら「プロデューサーってカッコいいな!なりたいな!」と思っていたようだ。
楽曲制作では作詞・作曲・編曲の分業体制が当たり前だった時代に、すべてをひとりで兼任。globeに至っては演奏も自分自身であるから、作詞・作曲・編曲・実演・プロデュースと、ひとり3役も4役も5役もこなしてしまう。小室哲哉のこういう点は凄いと言っていた。
リスナーにとって歌を聴くだけのものから、歌ったり踊ったりするものへ変えたのは、小室哲哉の功績だ。これが神原一光による見解である。カラオケで誰かと一緒に盛り上がったり、ひとりで一生懸命歌を練習した成果を披露したり、音楽に合わせてノったり踊ったり、音楽鑑賞を以前よりも深くアクティブに楽しむように、リスナーの方にも変化が起きたということだろうか。あさちるも、「そう言えば聞いたことあります!」と言って、カラオケでみんな一緒に盛り上がれる部分を創出するために、「Yeah Yeah」「Wow Wow」といった分かりやすい言葉を多用しているというような、小室哲哉の音楽にまつわる話を思い返していた。
神原一光による時代の捉え方を聞いていて、筆者もこういう連想をした。このムーブメントが「ASAYAN」で見たような、音楽関係者に自分の歌を聴いてもらおうとする若者が、長蛇の列を成している光景と地続きになっていて、やがては鈴木亜美(当時・鈴木あみ)の『BE TOGETHER』のヒットまで到達していったのか。そのように思われる。
昭和の時代の概念を一気に昔に追いやり、「これが平成なんだよ」という新たな時代の提示をしたのが小室哲哉だった、と神原一光はまとめた。
「小室前か小室後かで、時代が区切られている気はしますね」という、あさちるのコメントに、神原一光も同意していた。
あさちるは締めくくりに、番組リスナーへ一言メッセージを求めた。これを受けた神原一光は、楽しいトレンドを追い方を次のように提案した。
「今、流行ってるもの、ブームって、なぜ流行しているのか理解できないことも少なくないと思うんですよ。そのときに、時代は変わっているようで、実は繰り返しているんじゃないかと僕は思っていて、流行るものに出会ったときに『これって昔の〇〇版だったんじゃない?』、『平成で言うと、あれの今版なんじゃない?』というふうに、平成や90年代を思い出して、あのときのあの気持ちを今の高校生・大学生は思ってるんじゃないかなという具合に、過去と現在の共通点を見つけて探ってみると面白い。そんな楽しみ方をするために平成カルチャーを振り返ってみるのは、懐かしくて新しい発見があるのではないでしょうか。」
これは筆者も聴いていて、ビシッ!と締まる名文句だなと感じた。昨年放送のテレビ番組「インタビューここから」の、小室哲哉出演回における、廣瀬智美アナウンサーのまとめ方でも思ったことだが、NHK関係者はきれいな収束をする印象を持った。あさちるも「素晴らしい!最高の締めをありがとうございます」と感嘆しきったようすで返礼していた。ここで終わっていればカッコ良い退場になっていたはずだが、続きがもう少しだけある。
神原一光は、「手元にメモ書いて用意したりしていませんよ!」と断りを入れたのだった。聴く側もアンテナが鋭く立った状態から、一気に緊張が緩和して、力抜けしたような感じになった。最後にひと笑いできて、これもまた面白い。
あさちるも「絶対用意したでしょ!?そのメモ帳欲しいわ、読みたいわ」と言っていた。最後は2人で笑いあって終了。これは生放送なのか、それとも事前収録なのか。もし収録なら、きれいにまとまったところで切り上げて、それ以降を編集でバッサリとカットする選択もあったろうが、最後の2人の和気あいあいとした雰囲気まで感じられたのは良かった。
最後にこちらをオンエア。
TM NETWORK『Whatever Comes』
あさちるは新曲『恋のアルファ』を配信リリースする。FM京都の「CHILL 90's EMOTION」以外の番組でも紹介される見込みだという。ぜひご注目いただきたい。
関連記事:対談中に話題に上った書籍がこちら(前半の、神原一光の経歴紹介の中で語られた)。
NHKの番組・令和ネット論:主題歌・TM NETWORK