カバーで楽しむ、B'z・松本孝弘作品
今回の記事では、B'zのギタリスト・松本孝弘ゆかりの作品を、YouTubeに投稿されたカバー動画で楽しんでいきたい。前回の記事で取り上げた小室哲哉のソロ・アルバム「Digitalian is eating breakfast」でも松本孝弘が演奏で参加しており、気になる存在という方も多いだろう。いまや海外のロック・スターからも認められる、偉大な存在。僕はB'zがヒット・チャートの常連になり出す、まさにその当時、シングル「太陽のKomachi Angel」からリアルタイムに体感している。90年代当時のリスナーに、松本孝弘がジャニーズのアイドルに提供した曲がチャートの1位になるとか、Mr.Bigのエリック・マーティンがB'zの曲をカバーするとか、極めつけは松本孝弘がグラミー賞を受賞するといったことを知らせても、一体どれだけの人が信じるだろうか。これらのことは当時のファンには夢物語以外の何者でもないだろうが、すべて現実に起こったことである。改めて、その存在の大きさを感じさせられる。
アカシアオルケスタ「いつかのメリークリスマス」
発売から29年が経過した今もなお、クリスマス・シーズンに愛され続ける名曲。こちらのB'zの楽曲をギターを一切使わずに、女性ボーカルで鑑賞してみよう。長年のファンの方には、聴き慣れた曲でもバンド編成が変わるだけで、こんなにも真新しく響くのか、と驚くことだろう。
僕はこのカバーに触れる前に、彼らの他の作品を聴いている。彼らの真骨頂はもっと洒落ていて複雑な響きのある表現にあると僕は思っている。今回はやたら飾り気のないストレートな音に仕上げたなあというのが率直な感想だ。
ただ、この曲は聴くシチュエーションがかなり明確に決まっている。クリスマス・ソングでやたら肩肘張って難解なテンション・ノートをビシバシ挟み込むのも、なんか違うだろう。その点、彼らはT.P.Oに合わせた音楽表現ができるバンドということになる。
「Ultra Soul」や「ギリギリChop」などの、いかにもロック・バンド然としたイメージしか持っていない方には、B'zにはこんな一面もあると知ったら、見方も変わってくるのではないか。
バンドでカバー動画を撮る際には、たまにはこのように自分たちとは異なる編成のバンドの曲を題材にすると、ピリッと刺激のある選曲になるだろう。
アカシアオルケスタ「異邦人」
松本孝弘のソロ活動で、2003年にリリースしたアルバムが「THE HIT PARADE」。この収録曲のうちのひとつが「異邦人」だ。オリジナル歌手の久保田早紀はよく知らないけど、松本孝弘のカバーでこの曲を覚えたという方もいるだろう。
この曲も、先ほどに続いてアカシアオルケスタによるカバー動画が公開された。冒頭でボーカルの藤原岬が吹いている楽器・カズーがインパクト大だ。これは意表を突かれたね。LipselectのAyumiがスタジオライブ動画で拡声器を取り出したときにも思ったのだが、バンドのボーカリストもこのような小道具を用いるといい。持ち時間の長いワンマン・ライブで中盤に取り出せば、スパイスが効いて中だるみを回避できる。
聴きどころは何と言ってもピアノのアレンジ。先の「いつかのメリークリスマス」は、アカシアオルケスタにしてはオーソドックスな演奏だったが、彼らの真骨頂はやはり「異邦人」で聴かせたような、攻めに攻めあげたアレンジだろう。イントロから音の配置が洒落ていて、「これは良さげ!」と大きな期待を抱かせる始まり方。ツカミはOKだね。Aメロの区切りの部分「つかもうとしている」の後に弾くフレーズもキマっている。ここを聴くとスカッ!とするので大好き。
楽曲全体の流れを進めたり止めたり、そのメリハリがビシバシとキマっていく様は痛快そのもの。僕は久保田早紀のオリジナルにはそんなに慣れ親しんではいないのだが、おそらく原曲からはかなり離れた仕上がりになっているのだろう。あまりにも変化し過ぎていて、ついていけないというオリジナルのファンもいるかも知れない。だが、オリジナルにさほど強い思い入れのない僕からしたら、これは面白く聴ける。
でも、オリジナルに強い思い入れを持っている「Get Wild」のときでも、彼らによる大胆な変化を伴うカバーを存分に楽しめた。これはリスナーの持つオリジナルへの愛着の強い弱いを超越して、アカシアオルケスタのアレンジセンスが率直に素晴らしいということだろう。
KINGE「少年」
動画のクレジット欄からボーカリストの名前を見て、このような表記でご紹介させて頂くが、合ってるかどうかは分からない。YouTubeチャンネルはdyzie2001という名前に設定してある。
この曲は松本孝弘が宇都宮隆に楽曲提供し、1996年にシングルがリリースされた。B'zのファンにとっては、ボーカルと作詞が稲葉浩志以外の人物による松本孝弘の楽曲ということで、新鮮に響く部分もあるだろう。僕はリアルタイムで体感しているが、初めて聴いたときは、心の底から素直に「良い曲だな」と思ったし、この先10何年と長く聴き続けていられそうな予感がしていた。実際、その通りになった。
CDの鑑賞だけではなく、宇都宮隆のライブでもこの曲を聴いたことがある。あのときはアウトロの最後の4つの音が連なる刻みフレーズで、宇都宮隆が抱え上げていたマイクスタンドを突き刺すように床に置いて曲を締める、というパフォーマンスをみせた。あのライブは本当に感動したものだ。
宇都宮隆のレパートリーの中でも、僕にとってひときわ強い愛着のある楽曲のカバーがYouTubeに投稿された。これがなかなか良い仕上がりで、何度もリピートした。伴奏のシンセサイザーの音使いは、オリジナルよりもキンキンと鋭く尖っていて、より刺激を増した。ギター演奏も松本孝弘の弾いたフレーズをそっくりそのままなぞるのではなく、ギタリスト独自の解釈による新たなフレーズに生まれ変わっている。間奏での女性の語りが終わってからサビ頭へ移るシーンでのギター演奏は、宇都宮隆のオリジナルでは1音のロングトーンだが、こちらのカバーでは発音タイミングを何段階にも分けて、連発していく表現をとっている。ここは聴いていてテンションが上がるポイントだ。
そして何よりボーカルが良い。オリジナルの雰囲気を壊さない声質に歌唱法。サラっとした爽やかさもあって繰り返し聴いていられる。僕もこんな風に歌えたらいいのに。
ついでに僕自身が第一興商のDAM★ともで歌ったテイクも掲載してみる。歌い終わった瞬間は「よし、やった!」と思ったものだが、後から振り返ってみると、余計な力みを節々に感じる。まだまだ精進が足りないな。
関連記事