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紫原明子さんの魅力が詰まっています

『大人だって、泣いたらいいよ 〜紫原さんのお悩み相談室〜』を読ませていただきました。すごかった。とにかくすごかった。エッセイスト紫原明子さんのお悩み相談の何がすごいかって、笑えるし、優しいし、的確だし、何よりすごく誠実なのです。

本書はマガジンハウス「クロワッサン」が運営するオンラインメディアで大好評だった連載に、改稿が加えられ書籍化されたもの。相談の内容は、夫婦関係や恋愛、人付き合い、自身の性格に関すること等、多岐に渡ります。古今東西、あらゆる媒体で作家・著名人による"お悩み相談"を目にしますが、紫原さんの回答スタイルは、きっと誰にも真似できない唯一無二のものだと思います。

まず第一に、相談者への思いの馳せ方が良い意味でエグすぎます。相談者がどのような葛藤を経てきたか、どれだけ孤独に耐え頑張ってきたか、紫原さんはお手紙に書かれた一つ一つの事柄から想像し、その健気さを称え、寄り添います。

相談内容が書かれたお手紙は字数が限られるため、書きぶりやちょっとした補足、さらにはペンネームから、紫原さんはその人となりを想像します。
彼女の回答を読むと、不思議と相談者さんが人間味のある"個人"として立体的に浮かび上がってくるのです。しかもそれは、相手を決めつけるような言い方ではなく「もしかしたら」と、あくまで可能性の一つとして謙虚に呈示してくれます。

想像力の結晶としての配慮が、文体のいたるところに滲み出ている。エグすぎます…。

二つ目は、相談者との絶妙なチューニングです。紫原さんの(お人柄もあってか)お悩み相談には、陽気で個性的な相談者も登場し、そこが本書の魅力の一つでもあります。中には卑猥な自己紹介をするお手紙もありますが、流石そこは熟練の紫原さん。ピシャリとたしなめ、笑いも取りつつ、本質的な話をしてくれます。

相談者のテンションに合わせ、時にひょうきんに、時に耳の痛いこともはっきりと言ってくれる。だから、次にどんな回答が来るのか、わくわくしながら読み進めてしまいます。一定のルールの中で、相談者の個性を際立たせ、聴衆(読者)まで楽しませようとしてくれます。まるでジャズセッションを見ているようです。

三つ目は、希望ある言葉の数々です。教養とは、単に知識を持っているかではなく、学んだことを広くどう転用するかだと私は考えますが、紫原さんの回答は、まさに教養あるオリジナルの言葉に溢れています。

決して借り物ではない経験に裏打ちされたものだから、すっと入ってくるのでしょうか。また退屈さを抜け出すための、ユーモアある提案も素敵です。相談者が一歩踏み出せるように、「想像してみて欲しいのですが…」「もうこれだけで楽しいですよね。」とイメージを描き、希望を抱かせてくれます。

ここまですごいと『人生何周目なんだ?』『超人か!』と思うほどですが、収録のエッセイを読むと、シングルマザーで二児の母である紫原さんご自身が、悩み、時に脆くありながらも、真摯にご自身と向き合われてきた軌跡が赤裸々に書かれています。

自身の言葉がどのように影響するか、誰よりも時間をかけ考える人だから、心に響く。その奥底には『絶対にあなたを置き去りにしないぞ』、という一貫した信念と覚悟を感じずにはいられません。そういう意味では、他者の悩みに誠実に応えるとはどういうことか、を教えてくれる本でもあると思います。

人間・紫原明子さんの魅力が詰まっている本書。是非、多くの方に読んでもらえたら嬉しいです。