山本希望さんを推して10年になるオタクの話
2021年11月25日。声優の山本希望さんを推すようになって丁度10年が経った。
「10年推してる」というのを長いと感じるか短いと感じるかは人によると思うが、30数年の人生の中で趣味も仕事も人間関係も長く続くことがあまり無かったオタクにとって「10年続いた」というのは自分でもちょっと驚く。
どうして10年も女性声優を推してるのか。どうして既婚の30代女性声優を今も推してるのか。そもそもどうして山本希望さんなのか。この機会に、「山本希望さんを推して10年になるオタク」の話をしようと思う。
2011年。アラサーに片足を突っ込む歳になった僕は「UN-GO」というアニメと出会った。2011年10月から12月まで、フジテレビ深夜枠「ノイタミナ」にて放送されたアニメだ。
僕はこの「UN-GO」を放送前からかなり楽しみにしていた。監督に水島精二さん。脚本に會川昇さん。僕の好きなアニメ監督と脚本家の座組みだった。このふたりの座組みによる数々のアニメは僕の人生観にまで影響を与えているのでそれについても色々語りたいぐらいなのだが、それはともかくとして僕は「UN-GO」を放送前から楽しみにし、放送後も見事にこの作品にハマった。
この「UN-GO」に登場するヒロイン、海勝梨江役でアニメ初レギュラー出演を果たした新人声優が山本希望さんだった。
が、「UN-GO」を見てすぐに希望さんの声に惚れたというわけではなかった。
はっきりと覚えている。
僕は2011年の11月25日に山本希望さんにハマり、推すようになった。
「UN-GO」はテレビ放送期間中に、本編の前日譚にあたる話を劇場版として上映するという特殊な方式を取っていた。
「UN-GO episode:0 因果論」と題されたその劇場版は11月から2週間の期間限定上映が行われ、一部の上映回では上映後に出演者、スタッフによるトークショーも開催された。
そして、そのトークショーのMCを希望さんが担当していた。
僕が参加した回は11月25日、TOHOシネマズ川崎で開催された回だ。トークショーの登壇者は三木眞一郎さんと會川昇さん。脚本担当の會川さんの話を聴きたいというのが参加した理由だったが、もっと言うと丁度この日とその前日が当時やっていたバイトが休みで暇だったからだ。
24日の夕方、暇を持て余していた僕は翌日に川崎で「UN-GO」のトークショーが行われることに気づき、チケットを購入した。
MCを希望さんが担当するということはチケットを買ってから知った。
25日夜。女性客が8割ほどの会場で上映時間約1時間の「因果論」が終了し、その後すぐにBGMが流れてトークショーが始まった。僕の座席は通路のすぐ横だった。
「サッ」と何かが僕のすぐ横を、スクリーンの方へ向けて猛スピードで駆けていった。
僕の横を猛スピードで駆けていった「ソレ」はスクリーンの前に着くとMCとして自己紹介を始めた。
これが僕が初めて生で山本希望さんを見た瞬間だった。
このトークショーのことは10年経った今でもよく覚えている。しかし失礼なことに、しっかりと覚えているのは「UN-GO」に関する内容よりも希望さんの言動の方なのだ。
わずかな時間の中で、僕はこの新人声優の言動に笑い、楽しみ、夢中になっていた。トークショーの時間は30分程度だったと思う。
僕はこの約30分でこの新人声優にハマったのだ。
そしてこの日から僕は山本希望さんを推すようになった。お仕事やブログをひたすらチェックし、イベントがあれば通う日々。まったく予想もしていなかったタイミングでまったく予想もしていなかったものにハマる。
出会いというのはそんなものなのだろう。
翌2012年以降は希望さんの活動も増え、アニメ・ゲーム・ラジオ等で声を聴ける機会も、イベントの場で生で姿を見れる機会もたくさんできた。
ファンレターを書き、ラジオのメール投稿に励み、投稿したメールがラジオで採用されると歓喜した。お渡し会に参加し短い時間でお仕事の感想を伝える。回を重ねると向こうも自分のことを覚えてくれ、有頂天になる。
新人声優を推したことがある人には伝わると思うが、この辺の時期が新人声優を追いかけていてとにかくひたすら楽しい時期だろう。
希望さんの演技、キャラソンの歌い方、ラジオやイベントではとにかく面白い方に走るという所、趣味やこだわり等、知れば知るほど好きになっていった。
新人時代の希望さんを推していて、もっとも記憶に残っているものは何かというと、やはり2013年のアニメ「げんしけん二代目」だろうか。
希望さんはこの作品の荻上千佳役でアニメ初主演を務めた。
とにかくイベントが多かった。なにせ毎週、アニメ放送日・放送時間の「直前」にトークイベントがあるのだ(当然参加券は抽選方式である)。
それを追うだけでも大変だったのだが(当然全通なんかできない)、それ以上に大変だったのは、このアニメが「げんしけんシリーズ数年ぶりの新作アニメ」であり「前作から声優総入れ替え」だったからだ。
そんな作品の人気キャラのCVを新たに担当するのが出たての新人声優なのだからネットは荒れに荒れていた。
当時の僕は推しに対するネットの反応をめちゃくちゃ気にするオタクだったので、見なきゃいいのに夜な夜な匿名掲示板やまとめサイトを見に行っては酷評の嵐にへこんで寝るという無益なことを繰り返していた。
キャスト発表の日からアニメの放送が終わるまでの数ヶ月ずっとだ。
アニメ自体はとても良かった。原作を丁寧にアニメ化していたし、1クールという短い放送話数の中で話をちゃんとまとめていた。
イベントでは、推しをはじめとしたキャスト陣の作品に対しての向き合い方も伝わり、原作のいち読者としてもとても良いアニメを作ってもらえたというのを感じられた。
放送期間の1クールが過ぎ、最終回の放送を見届けた時、「や~~~、良い感じに終わって良かったな~~~」と感じた。
そして、それと同時に「やっと終わったな・・・・・・」とホッとした。
推しの主演作品を見届けるのはこんなに大変なのかと実感した。
もちろん、僕がいちいち評判を気にしすぎたせいなのだが。
そんな「げんしけん二代目」と付き合った数ヶ月の中で、いちばん覚えている、というより忘れることのできないイベントがある。アニメ放送終了から約半月後に開催されたブルーレイ発売記念の特典お渡し会だ。
このお渡し会で、僕は初めて推しの目の前で泣いてしまった。
号泣だった。所謂「接近戦」はそれまでに何度も経験していたが、この時は本当に情緒がどうかしていたんだと思う。作品の感想をちゃんと伝えようと考えてきた言葉はまったく出て来ず、
「とても良かったです」
「3ヶ月、とても楽しかったです」
のふたつを声に出すのが精いっぱいだった。
限界オタクが極まったような状態で泣くアラサー男。
だが、それを前にした希望さんもボロボロに泣いていた。
必死だったのだろう。
初めての主演。否応も無しに語られる批評。前任者との比較等々。
現在に至るまで表でそのことについて語られたことは無いが、彼女は全部をちゃんと受け止めていたと思う。
彼女はそういう役者だ。
すべてを受け止め、彼女はちゃんと仕事をやりきった。
当然のことだ。しかし立派だと思う。
必死だったのだろう。
その一方で、オタクも必死だった。
頑張ったのは推しで、偉くて素晴らしいのも推しなのだが、オタクも必死だった。
心が折れないように、振り落とされないように、作品のことを、推しのことをちゃんと信じられるように、必死だった。
推しもオタクもボロボロ泣いて、あの場は本当にヤバい状態だったと思う。僕のあとに並んでいた人たちのことを考えると申し訳なさでいっぱいになる。
希望さんと一緒にお渡し会に出演していた加隈亜衣さんにも申し訳なかった。推しの前で号泣し、その次に控える加隈さんにはロクに言葉も伝えられなかった。加隈さんも泣いていたことは覚えている。
だいぶ恥ずかしい思い出なのだが、ここで泣いたことでどういうわけかスッキリし、吹っ切れた所もあった。これ以降、だいぶ冷静に推しの仕事に向き合えるようになったと思う。自分のペースで、他人の評価を気にせず、アニメもイベントも見ることができるようになった。
推しは立派な役者なのだから。自分がそれを信じていればいいのだ。
(余談だがこの号泣事件で僕の涙腺はどうも馬鹿になってしまったらしく、その後しばらくの間、接近戦のたびに推しの目の前で泣いてしまっていた。さすがに推しも面白くなったのか、何度目かからは「また泣いてるwwww」と笑っていた)
自分のペースで推しを推せるようになったことで、オタクとしての寿命が伸びたような気がする。もちろん、すべてに全力を出してオタクを続けられている人もいるだろうが、自分は「自分のペースを保つ」ことにした結果、10年推しを推し続けられたと思う。
ただ、良かったと思ったこと、面白かったと感じたことはちゃんと伝えるよう続けている。手紙を書いたり、ツイッターでつぶやいたり。
ある時、友人(こちらは11年の付き合いになる)に「ブーツくんの話を聞いていると『応援する側とされる側の幸せな関係』を感じる」、「熱量を持って適切な距離から適切に応援していればそれはちゃんと伝わると思う」と言われたことがある。適切な熱量と適切な距離。やっぱりこれは大事なんだなと感じた。
その「適切な距離」の話があったおかげか、推しの結婚という一大イベントもわりと普通に受け止めることができた。
「この人は自然に良い相手を見つけて結婚するだろうし、それを普通に公表するだろう」というよくわからない確信は早いうちから持っていたので、2020年の元日に結婚し、同日に自ら公表した際には「ついに来たか!」と意味不明のガッツポーズをしていた。
いや、それでも妙な寂しさみたいなのはあったか。結婚の報に対しての、かねてからの予想が当たった高揚感と一抹の寂しさは、上手く説明のできない感情となって正月三が日の間はつきまとっていた。と思う。
「それは『ガチ恋』というやつだったのでは?」と言われたら黙りこくってしまう気がする。ガチ恋だったのだろうか。
それでも、そこまで引きずらなかったのも確かだ。それは希望さん自身の口から結婚に至るまでの話を、結婚から間もない頃にとあるイベントの中で聴く事ができたからだろう。
内容をネットには絶対に書かないという約束で聴く事ができたこの話はめちゃくちゃ面白いものだった。こんな経緯で結婚に至った女性声優なんかそうそういないだろうと思うぐらいの面白い話だった。
普段から声優として表に出る場では何よりもエンターテインメント性を重要視する彼女は、ついに自身の結婚もエンターテインメントとしてしまったのだ。あまりにも強すぎる。本当に良い相手と出会ったのだなあと心から感じた。
そんな感じで、10年前に希望さんと出会い推すようになった僕はこうして今に至る。
今も彼女を推している。
ここまでの話を読んで、「既婚の声優をどうして今も推し続けているのか」「若くて可愛い子に乗り換えていった方がずっと良いだろう」「もっと知名度が高くて人気のある人を推していた方が楽しくないか」と思う人もいるかもしれない。「声優なんかを追いかけて10年費やすなんて馬鹿げている。時間を無駄にするな」と呆れる人もいるかもしれない。
事実、僕は20代半ばから30代半ばまでの10年という時間の大半を山本希望さんに費やした。
傍から見て呆れられるのも、それはそうだろうなあと思う。
それでも、この10年を何度振り返ってみたとしても「とても楽しかった」という感想になるのだ。
「推しが人生に彩りを与えてくれる」という言葉をよく聞く。正直、クサイ言葉だなあと思う。なので普段はこういう言葉は使わないようにしている。
しかし僕のこの10年は、推しによって数えきれないほどの彩りを与えられた10年だった。
出演作を楽しみ、イベントのために行ったことの無い場所へ行き、パフォーマンスに感動し、次はどんなモノを見せてくれるのだろうと思いを巡らせた。
好きなモノの話、最近見た作品の話を聞いたら自分もそれに手を出してみたりもした。そこから好きになったモノもたくさんある。
どれもこれも楽しい時間だった。
実を言えば、僕は希望さんひとりを推しているわけではない。推している女性声優は他にもいるし、男性声優にも推しがいる。推している声優ユニットもある。
だが、これらの推しも希望さんの存在が無ければ出会う事のなかったものかもしれない。
僕が推している声優の野上翔さんと峯田茉優さんは山本希望さんと同じ事務所の後輩であり、それがきっかけで名前と顔を覚えた。
この1年でハマり、推すようになった声優ユニット「DIALOGUE+」は、山本希望さんがきっかけで知り合いになったオタク(5年ぐらいの付き合いか)から熱心に薦められたコンテンツ「CUE!」に触れたことで興味を持った。
前に書いた「熱量と距離の話」をしてくれた友人にも最近ハマったものとして「DIALOGUE+」を紹介したところ彼も興味を持ってくれ、先月には一緒にライブを観に行った。帰りのクルマの中ではふたり揃って「楽しかった。楽しかった」と繰り返し語った。
これも楽しかった時間として良い思い出になっていくのだろう。
そして、これは僕が特に嬉しかったことだが、新人時代の希望さんの演技に出会ったことで「声優になりたい」という夢を抱いた子が、その後その夢を叶え、ひとりの声優として活躍し始めていることを知ったりもした。天野聡美さんの話だ。
僕の10年は希望さんと出会ったことによって彩られた。
希望さんをきっかけにしてたくさんのものと出会った。
新しい推しとも出会わせてくれた。世界がどんどん広がっていった。
そして希望さんをきっかけに別の世界が彩られ、その世界が広がっていくのも見ることができた。
「声優なんかにハマってなければもっと別の人生があっただろうに」と言われるかもしれない。実際にそうかもしれない。それでもこの10年を振り返って、間違いなくこの10年めちゃくちゃ楽しかったと言える。そして今もそれは続いている。
今、この人生が最高なのだ。
僕はこれから先も変わらず希望さんを推して行く(あとどれぐらい推せる時間があるのかはわからないが)(とりあえず歳も歳なので健康にはちゃんと気をつけていかなければと思っている)。
きっとこれから先もめちゃくちゃ楽しいんだと思う。
彼女はきっとそうしてくれる。
山本希望は最強で最高の推しだからだ。
いつもありがとう。
これからもよろしく。
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