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15夜の話

タイトル     へんてこ博士

 私は絶望している。かつて天才と謳われた外科医の私は、手術に失敗して実の孫を死なせてしまったのだ。以来、私は膨大な書物に囲まれた家に閉じ籠もり、知識の蒐集に取り憑かれている。希望があったときは書物を読むのは生活の一部に過ぎなかったが、絶望を味わいながらする読書は文字通り人生のすべてだ。

 風を感じたのはいつのことだろう。ホールの玄関ドアの前に知らない子供が立っていた。ちょうど死んだ孫と同じくらいの背格好だ。私は目をこすり幻を見ているのではないことを確かめた。

「入ってもいい? ひどく寒いんだ」

「だめだ、実は子供を食べる怪人がここにはいるのだ」

「ええ、本当?」

「う・そ!」

 子供をからかうのはいつぶりだろうか?

「なあんだ、嘘か。それにしてもすごい数の本だ。これ全部、物語?僕のいた宮殿にもこんなにたくさんの小説はなかったよ。おじいさんはここでなにをしているの?」本を見渡しながら少年は歩いてくる。

 私はなにをしているのだろう? 答えはしばらくしてでた。私は……。

「私は、なにもしてない人だよ」そう言うと、子どもは不思議そうな顔をした。

「へんてこだね。おじいさんはこんなにたくさんのことを知っているのに何もしてないんだ。」

「そうだろうか?」

「ねぇおじいさん、僕の生まれた国へ一緒に行こうよ。みんながおじいさんから色々なお話を聞きたがっているよ」

「そうだろうか?」

「そうだよ、何もしてないなんてもったいないよ」

「実は私はここから出られないんだ」 

「ええ、どうして?」

「なにかすると死んじゃう病気なんだ」 

「本当?」 

 何故かその時、目の前の子どもと孫の姿が重なって見えた。

「う・そ!」

 遠い国への旅立ちの日、私の目は輝いているだろうか?

 きっと……

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