【大学入試物理】SND'19第1回全国模試・物理へのコメント

総論

全体的に物理の本質を外すような問題はなく,適切な時期にじっくりと時間をかけて解く目的では良問ばかりと言えるが,この時期にたった60分の制限時間で解くべき問題群では決してないので,本番にどれだけ点数が取れたかほとんど気にしなくてよい.

ただし,第1問(力学)に関しては現時点としても標準的な問題であるから,出来なかった者は十分な反省が必要ではある.全体の得点は高くとも,力学で落としているような者は,物理の土台があやうく,今後伸び悩む可能性が高いので要注意.

また,(特に高卒生が)この時期に理科で得点を稼いで良い判定を出すことはほぼ無意味であるから,模試全体の成績としては,とにかく主要科目である英数国の基礎に穴がないかチェックすること.

以下,大問ごとにコメントしておく.

第1問

[A]
(1) 45度の斜面に沿った小球の運動である.運動方程式からの時間追跡もできるが,力学的エネルギー保存則で充分.

(2) Pを飛び出す条件を考える.
つまり,(1)で求めたPでの速さが存在する条件(数学的に言えば,虚数にならない条件)を求めればよい.

(3) 飛び出した後の放物運動を時間追跡して最高点を求めるだけ.力学的エネルギー保存則を用いてもよいが,水平方向の速度が一定であることに注意.

[B] 2物体系の運動.問題文の指示がなくとも,全体の運動量・エネルギー保存則を考えるのが基本.(6)で問われているのは束縛条件であり,計算力も大切.

束縛条件が絡むと正答率が一気に低くなってしまうが,今後の勉強へのつながりを考えると,この問題を的確に理解しておくことが重要である.計算も含めて一切妥協なく復習すること(計算ミスは,イージーミスではなく,本質的な学力の欠落を意味する).

束縛条件については,JUKEN7の春期物理『運動方程式と束縛条件』,2物体系の基本的な処理については前期物理②『2物体系』の学習を推奨する.

※ 教材を自力で進められるものは独学すればよい.無理なものは映像を見よ.

第2問

波の式とドップラー効果,うなりを絡めた問題.波動分野を一通り学んだ後に,色々な視点を確認する問題としては良問と言えよう.しかしながら,この時期に点数をつける問題としては不適切に思える(しかも,誘導に出題者のクセが出すぎている).現時点としては[A]と[C]が取れればよいだろう.[B]は(特に(6)が)難問.

2019.0714追記:
[B](6)は不適切な問題であったことを認識しました.詳細はこちらの記事をお読みください.

第2問に関しては,真面目に復習しようとして解説で詰まってしまっている学生を見かけたので,復習のための準備となる問題を作成して添付しておくので,利用して欲しい.

※ 以前アップしていたファイルには[B](6)に対応した第3問がありましたが,追記のように不適切であることが分かりましたので,削除しました.申し訳ありませんでした.
※ 誤りを見つけた際にはコメント欄等でご指摘いただければ幸いです.

第3問

電気の分野というよりは,電気的な力の下での力学の標準問題.特にコメントすることはないが,この分野を未習であったような現役生は,習った後に解き直せばよいだろう.

第2問に関するプロ向けの補足

昨年の阪大での出題ミスにもあったように,音波の干渉の問題では,音波による空気変位の向きがfatalになることがあるので注意が必要である.本問は,1次元である上に,波源での変位の式が明示されているため,曖昧さはない.

また,「大きな音」を観測する位置についての設問があるが,音波の定常波においては,腹(変位の振幅最大)で音が大きく聴こえるのか,節(圧力変化の振幅最大)で音が大きく聴こえるのか,統一見解は出ていないように思われる(人間の周波数特性にも依存する?).もちろん,[C]で「大きな音」を観測する位置どうしの間の間隔を求める上では,どちらで解釈しても答えは同じになるので,出題ミスというわけでは決してない.ただし,解説において,「振幅が大きいほど音が大きい」という記述があり,これは不用意であるように感じるが,どうなのだろう.

ここら辺の事情に精通している方がいいらっしゃれば,ご教示いただければ幸いです.

※ 「音が大きい」という記述は「人間の聴覚により大きい音として認識される」ことを意味すると自分は考えているが,もし「音が大きい」という記述が「音波の振幅が大きい」を意味するのであれば,何の矛盾もそこには生じない.しかしその場合,「振幅が大きいほど音が大きい」という記述が同語反復になってしまう.



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