TYOV_Silverio Galie 02
1300年代中盤
記憶06
私の変化はすぐ気づかれた。次兄のところに転がり込もう。あそこなら裏の森で飢えも満たせそうだ。
資産04
石造りの小さな離れ、ジェノヴァ郊外
次兄を囲っている貴族の奥方が使っている郊外の別宅、その離れは森になかば埋もれている。
回想:初めての逃亡
日光に目が眩んだ。仕事の手伝いは休むと言い部屋に籠る。食事も摂る気にならず2日ほどを寝床で過ごす。
その次も食事を断ると父が様子を見に来た。私の顔を見て不可思議な表情を浮かべた気がしたが、彼は何も言わない。だが、よくないことが起きようとしていると感じた私は扉が閉ざされるなり目についた物を袋に詰めた。
だがどこへ逃げよう? Lucianoはあの翌朝からずっと現れなかった。Danteは? 彼の助けを今は乞うべきではない。ああ、長兄について旅してまわれる年だったなら! 自分に合う土地を思いつけたかもしれない。この近隣なら……Adriaにこの街の物乞いの、だめだ、できるわけがない。ならば次兄だ。彼の家は知っている。
マントをかぶり一心に走る。目眩は光のせいか、空腹か、きっとどちらもだ。貴族の別宅が散在する山際の地区は昼でも静かだ。その一軒をひどい顔色で荒々しく訪うと、出てきた次兄は事情も訊かず迎え入れてくれた。
与えられた離れで床に座り込み、先ほどの次兄の様子を思い起こす。もとから仲は良かったが、こうも容易く受け入れられるのは意外だった。彼とて父に睨まれたくはないはずだ。それでも私の様子に哀れを感じてくれたのか、まさか売られることはないだろうが……
夜半、次兄が食事を持ってきてくれた時に様子を窺う。怪しくは見えない。いつもの優しく、移り気な兄だ。心底から感謝の念が湧き、膝をついてそれを伝える。私を微笑んで眺める兄の目は移ろに輝いていた。
私はそれ以上兄と話してはいけないと思った。弟の我儘さで彼を追い出す。
記憶07
私の声は何らかの作用を備えたらしい。Lucianoのそれを思い出す。
技能04
魅了
相手の目を見ながら語りかける。相手の唇は私への賛辞を吐く。その指先は私の思うがまま動く。
記憶08
裏の森には不届き者がいくらでもいる。それを夜に食らえばいい。死体は月光を浴びれば灰になった。
技能05
夜歩く
日没後ならば気配を消すことができる。
回想:単なる食べ滓
次兄の置いていった食事から立つ湯気は私に吐き気を催させた。そういえば、Lucianoも私達家族と食卓を囲むことはなかった。父は何度か酒を飲んだようだったが。ああ、私も2度とこれらに唾を飲むことはないのだろう。
それにしても飢えはある。どこかに、私のための食事があるはずだった。
幸い、この隠れ家は庭から裏手の森に繋がっている。こういうところの常で、暗くなればそこにいくらでも不良な使用人や、逢引中の恋人たち、ならず者がいる。
早速私は森の中を移動した。使用人らしい女を見つけ、人であったときには違う目的で空想していた通りにことを運ぶ。ただし結末は異なる。無意識的に貪り、満ちて白い胸元から顔を上げて気が付いた。彼女もまた、私と同類になってしまうのか? それは本意ではなかった。だが、女が目を覚ます様子はない。雲が晴れ月光がさすと、その体は灰になって散った。私は安堵した。
記憶09
私はだんだんと大胆になった。近隣の屋敷のどれかを訪れ、会話をしながら食事を楽しみ、灰の掃除はそこそこに、いくらかの土産をもらって帰る――金を使って身なりを整えておく方が、何かと都合がよかった。