
アジアのExpediaになれるか:Travelokaの成長戦略を読み解く
パンデミックからの回復期にある東南アジアの旅行業界は、新たな成長機会を秘めており、東南アジア最大級のオンライン旅行プラットフォーム「Traveloka(トラベローカ)」を中心に、旅行市場の現状と成長戦略、競合やM&A動向を分析します。

東南アジア旅行市場の最新動向
東南アジアの旅行市場は、パンデミックによる停滞を経て力強い回復を遂げています。2024年には同地域の旅行取扱高が約590億ドルに達し、コロナ前の水準を上回る見通しとされます。
特にオンライン経由の予約が急増しており、2023年の東南アジアにおけるオンライン旅行の取引総額(GMV)は前年から63%増の300億ドルに達しました。2025年にはその数値が430億ドルに達する勢いで、市場は年内にも完全回復すると予測されています。各国で国境を越えた渡航制限が緩和され、航空旅客数がほぼ正常化しつつあることが背景にあります。
また、旅行ビジネスのデジタル化も一段と進展しています。消費者の予約行動はモバイルアプリ中心へとシフトしており、オンライン旅行市場の浸透率は今後さらに高まる見込みです。

例えばアジアの旅行プラットフォームKlookでは予約の80%以上がモバイル経由で行われており、旅行業界全体でも「スマホで旅行予約」が新常態になりつつあります。各社はAIを活用したパーソナライズやチャットボット対応など、デジタル顧客体験の強化にも注力しています。政府や企業による観光インフラ投資も活発化しており、市場は回復と変革が同時進行するダイナミックな局面にあります。
業界内のM&Aや資本提携も活発で世界大手のExpediaは2017年にTravelokaへ3億5,000万ドルを出資し、Travelokaは東南アジア初のユニコーンOTA企業となりました。
インドネシアでは競合のTiket.comが特別買収目的会社(SPAC)との合併による上場を模索しており、企業評価額20億ドル規模で交渉が行われたと報じられています。パンデミック後も資金調達は続き、Travelokaは2022年にインドネシア政府系ファンドやBlackRockから3億ドルの資金調達を実行しました。
また、旅行体験プラットフォームのKlookは2022年末に2億10百万ドルの増資を行い、2023年には過去最高の取扱高30億ドルを記録して黒字化を達成しています。このように東南アジアのオンライン旅行市場は、出資や提携を通じた勢力図の変化にも注目です。
Travelokaの成長戦略と競争環境
Travelokaは2012年にインドネシアで創業したオンライン旅行代理店(OTA)で、当初は航空券のメタ検索からスタートしました。現在ではホテル、鉄道、バス、レンタカーに加え、遊園地などのアクティビティ予約やレストランクーポンまで扱う総合旅行・ライフスタイルプラットフォームへと進化しています。東南アジア6か国とオーストラリア、日本でサービスを展開し、累計アプリダウンロードは1億件、月間アクティブユーザー数は4,000万人に上ります。Travelokaの強みは徹底したローカライズ戦略にあります。
クレジットカード保有率が低い東南アジアの事情に合わせ、銀行振込やコンビニ決済など多様な決済手段を提供し、独自の後払い・分割払いサービス(PayLater)も2018年から開始しました。これにより「今手元に現金がなくても旅行予約ができる」環境を整え、中間所得層の需要を掘り起こしています。また24時間多言語対応のカスタマーサポートや地域ごとのマーケティングを充実させ、東南アジア現地のユーザー体験に最適化したサービス展開で支持を獲得しました。
実際、2022年時点でTravelokaは東南アジアで最も利用されているオンライン旅行アプリとなっており、その存在感は群を抜いています。近年は「Traveloka Xperience」として地元での日常レジャー(映画館やスパ、美容院予約など)にもサービスを拡大し、ユーザーのアプリ利用頻度を高める戦略を取っています。このように旅行の枠を超えたライフスタイル領域への拡張は、旅行需要が低迷したパンデミック期にも新たな収益源を生む施策となりました。
主要な競合
Travelokaを取り巻く競争環境には、多様なプレイヤーが存在します。
Agoda / Booking.com(グローバルOTA)
AgodaはBooking Holdings傘下で東南アジアに強いホテル予約サイトです。世界中の宿泊在庫と強力な価格競争力を持ち、特にホテル分野ではTravelokaにとって最大の競合です。例えばベトナムではBooking.com(Agoda含む)がオンライン旅行予約の首位を占めるなど、グローバルOTAの存在感も依然大きいと言えます。Travelokaはローカル顧客のニーズ対応や航空券+宿泊のパッケージ提案などで差別化し、これら国際的巨頭に挑んでいます。
Klook(旅行体験プラットフォーム)
香港発のKlookはアクティビティやツアー体験に特化して急成長した企業です。現在は宿泊や交通チケットにもサービスを拡充し、OTA的な包括サービスに近づきつつあります。
Klookは若年層や個人旅行者に強く、Travelokaの提供する現地体験カテゴリでは直接の競合となります。Klookはパンデミック中も積極投資を行い、2023年には取扱高がコロナ前の3倍に達して年間30億ドルを突破、初の黒字化も果たしました。モバイルアプリを軸に集客しており、その予約の大半(80%以上)がモバイル経由というデータは、Travelokaにとってもモバイル戦略の重要性を再認識させる指標と言えます。豊富な体験コンテンツとUI/UXの良さでリピーターを増やしており、今後も有力な競合として存在感を示すでしょう。
Grab / Gojek(スーパーアプリ勢)
東南アジアのライドシェアやデリバリーで圧倒的ユーザー基盤を持つスーパーアプリも、旅行分野への進出を図っています。
シンガポール発のGrabはアプリ内でAgodaやBooking.comと提携したホテル予約サービスを提供し始めました。
インドネシアのGojek(現GoToグループ)は、Travelokaの競合Tiket.comとパートナーシップを結び、自社電子マネー「GoPay」で旅行予約の支払いができるよう連携しています。
こうしたスーパーアプリは既存ユーザーにクロスセルで旅行サービスを案内できる強みがありますが、旅行専業ではないため提供コンテンツは限定的です。
Traveloka側も「配車アプリの旅行機能はユーザーとの関係が浅く、当社が提供する深い旅行体験とは異なる」と分析しており、現時点では直接の脅威と見なしていません。ただしGrabやGoToは金融サービスも含めエコシステムが広大なため、将来的に旅行予約に本格参入すれば無視できない存在になる可能性はあります。
Tiket.com(国内競合)
Tiket.comはインドネシアでTravelokaと市場を二分するOTAで、地元財閥リッポーグループ傘下の電子商取引企業Blibliに買収されて以降、資本力を背景に巻き返しを図っています。
市場シェアではTravelokaがリードしていますが、Tiketも独自の割引戦略や提携で健闘しています。実際、Tiketの共同創業者は「Travelokaはかつてほど割引攻勢をしなくなった」と述べており、Travelokaが規模拡大とともに収益性重視に舵を切ったことを指摘しています。Tiketは2021年にSPAC上場を検討し評価額10億ドル超と報じられるなど、着実にユニコーンクラブに仲間入りしました。今後もインドネシア国内ではTraveloka vs Tiketの構図が続く見通しです。

このようにTravelokaはグローバルOTA、専門特化型プラットフォーム、スーパーアプリ、国内プレイヤーと多方面で競合しています。それぞれ強みが異なるプレイヤーに対し、Travelokaは「ローカルユーザーに根差した総合力」を武器に戦略を繰り出していると言えます。
資金調達面でも、TravelokaはExpediaや政府系ファンドからの出資を得つつ、無謀なディスカウント競争を避けて単独での成長路線を歩んできました。パンデミック期には収益悪化に対応して不要事業を整理(食品デリバリーのTraveloka Eats等を撤退)する一方、ホテルチェーン大手Accorとの戦略提携で宿泊在庫を拡充するなど柔軟な戦略も見せています。東南アジア随一の顧客基盤と多角化サービスを背景に、Travelokaは競争環境をリードし続けています。
東南アジアの旅行市場の未来
東南アジアの旅行市場は今後も高成長が見込まれ、Travelokaにとって追い風となる成長ドライバーがいくつか存在します。
人口増加と中間層の台頭
東南アジアは人口6億超、経済成長に伴い旅行に支出できる中間所得層が拡大しています。若年人口も多く、今後初めて海外旅行を経験する層が大幅に増える見込みです。旅行需要の底上げにつながるこの人口動態は、長期的な市場拡大要因です。
デジタル普及とモバイル経済
スマートフォンの浸透と安価なモバイルデータ環境により、地方部までオンラインサービス利用が広がっています。旅行予約もオンライン移行が加速し、2027年には東南アジアの旅行予約の74%がオンライン経由になるとの予測があります。Travelokaのようなデジタルネイティブ企業には追い風であり、地方都市や新興国市場の開拓余地も大きいでしょう。
観光産業への投資とイベント需要
各国政府は観光立国政策を掲げ、空港・鉄道・観光地整備などインフラ投資を拡大しています。例えばカジノ解禁に踏み切る動きや、インドからの観光客誘致策など、各国で観光振興が活発です。また2024年のパリ五輪や2025年の大阪万博など国際イベントも控え、アジアからの海外旅行需要喚起が見込まれます。こうした追い風により、地域内・域外を問わず旅行市場にはさらなる拡大のチャンスがあります。
一方で、景気変動や為替の影響で旅行需要は変動しやすく、インフレや経済停滞が中間層の旅行支出を抑制するリスクがあります。またパンデミック再来や地政学リスクも依然ゼロではなく、特に東南アジアは国によってワクチン普及率や医療体制に差があるため、新型感染症流行時の打撃リスクは意識すべきでしょう。
競合環境も厳しく、グローバル大手との競争で手数料率の引き下げやマーケティング費用増大が避けられない可能性があります。さらに、昨今のスタートアップ投資環境は厳格化しており、投資家は成長より利益を重視する傾向が強まっています。資本市場の低迷でIPOの窓口も狭まる中、黒字化や堅実な成長戦略を示せない企業は資金調達に苦戦するリスクがあります。Traveloka自身、以前は成長重視でクーポン乱発の戦略もとりましたが、市場成熟に合わせて収益性とのバランスを追求するフェーズに入っています。
今日はここまで!
それではまた次回!
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