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忍者ラブレター【毎週ショートショートnote】

「老中、集荷に上がりました」

天井の一角がパカッと開いて忍者が手を出した。

「おお。黒猫忍者のメール便か、早いな!姫宛だ」

老中が差し出した文をもぎ取ると城内のベーススポットを経由してその数分後には姫のもとに一通の文が届けられた。

姫はその文を一読するや激怒した。

「おのれ、老中の分際で我に恋をしおって……打ち首じゃ!」


「黒猫忍者事業部」では新規事業の立ち上げに苦慮していた。従来通りのネコのように音を立てず、素早くしなやかな配送は当たり前になってきて顧客に飽きられてきていた。

つい先ごろの『超光速!矢文リレー』は失敗に終わった。定番ルートとして、ベーススポットを経由する矢文リレーは恐ろしいほど早かった。ところがちょっと宛先が変わってしまうとまずその配送ルートに射手を配置して、それから矢のリレーが始まる。

ライバルの「飛脚組」には到底かなわなかった。「黒猫忍者」が射手を配置すると同じ手間で飛脚による文リレーを行うためどう転んでも「飛脚組」に軍配が上がる。

ところが「飛脚組」のサービスには致命的な欠陥があった。

飛脚組の「メール便」を使うとまず配達を担当する飛脚がその文を開封して内容を確認する。そしてそれに見合ったチラシを到着時に合わせて差し出していたのだ。現代で言うリスティング広告ではないか。

これではプライバシーも何もあったもんじゃない。「飛脚組メール便」は商人には大いにウケていたが個人の利用者には疎まれていた。

「黒猫忍者」事業部はここに注目した。個人のメール便、特に秘匿性の高い恋文に焦点をあてた「黒猫忍者恋文便」が立ち上げられた。

このプライバシーに特化した新規事業は素晴らしい業績を上げた。なんといっても忍者といえばザ・隠密行動である。これほど適任なものは他にないのではないか。

このサービスにはもう一つの特徴があってやや高額の追加料金を支払うと、配送忍者はすべて「くノ一」となり配達時に即興で恋の短歌を添えるというオプションが選べた。

余談だが、令和の時代に「ノオト」という媒体がある。そこで短歌や俳句で活躍しているクリエーターの前世を鑑定する。するとかなりの確率でこの恋文の即興短歌のくノ一だった……という噂は……ただの噂だった。

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また皆様の作品をよく確認せずに投稿しております。ネタかぶり等ございましたらご容赦願います。

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