頓珍館殺人事件・承【毎週ショートショートnote】
(こちらの投稿の続きになります)
一回も事件を解決したことのない名探偵の小籠包蒸(ショーロン・ポームス)探偵の頓珍館殺人事件の推理はいよいよ本筋に入ってきた。
「驚くなよ!今回被害者となった頓珍館の主の奥さんはなんと私のクライアントだったのだ!」
「ええっ!いったいどういうことだ?」
「だから驚くなといっただろう。いちいちリアクションがうざいぞ小林君!私は奥さんの依頼を受けて頓珍館の主の浮気調査をしていたのだ」
僕は展開の意外さに驚いたが、まずそもそものポームスの姿勢について質したかった。
「ちょっとまて。ポームス。お前は浮気調査なんて低俗なもの絶対引き受けないっていっていたじゃないか!定款にも書いてなかったっけ?刑事専門だと。あと折に触れて言ってなかったか?民事は遠慮してくださいって」
「時と場合による。特に今回みたいに着手金の桁が二つばかり多いときなどだ。頭では必死に断るつもりだったが口は勝手に動いていたのだ『領収書の宛名はどうなさいます?』ってな…まあはからずとも刑事事件に発展してしまったが」
「いきなり中の人になったわけか。経過を話してくれるんだろうな?」
ポームスは立ち上がってカウンターに引っ込んだかと思うと、濃くするか薄くするかを聞いてきた。僕が身振りで〝濃くしてくれ!〟と合図をすると何やら準備している。〝今日は運転じゃないよな!〟と念を押してきた。
「飲めよ!」
ポームスが渡してくれたものを口につけるととびきり苦いエスプレッソだった。期待してがっかりしたがエスプレッソはいつも僕が所望するものだ。
「今夜は長くなる!」
ポームスはヤクルト1000を口にしていた。どうせならそっちの方が良かった…
「今から三ヶ月ほど前の事。清楚で美人でとても身なりの良い女性が事務所にやってきたんだ。和服がよく似合ってた。年の頃は30前後だ。だが、うちにそんな女性が尋ねてくるわけがないじゃないか!」
「有り得ない」
「だから教えてあげたんだ『あの~キャストの面接ですか?それでしたら下の階ですよ!』と言うと『いいえ!あなたに用があってきたのです』と言うじゃないか。正確には私の稼業に用があったということだ。そういうわけさ」
〝ほう!〟僕はすっかりこの有り得ないストーリーの虜になっていた。
「で?」
「以上だ!」
「ちょっと待て!聞きたいのはそこじゃない。その女性がどういう事をお前に依頼したんだ?そっちの方が重要だろうが!」
「やはりな。着手金の額は…」
「そこじゃない!」
「ちょっともったいつけ過ぎたがそんなに聞きたければ教えてあげないでもない…」
〝こいつの性格の悪さは一体どうなっているんだ?〟
僕は黙ってポームスをにらめつけた。
「わかったわかった。小林君!泣いて懇願するのはやめてくれないか…」
〝いや別に泣いてねえし!〟
僕はなおも黙っていた。すごい形相だったに違いない。
「無駄な描写は冗長なだけなので簡潔に説明する。その女性が言うには自分には美術家で小説家の40代半ばの夫がいる。これは新聞でも報道されたとおりだ。で浮気調査の内容なんだが、浮気をしているのはわかっているのだが現在は誰と懇意にしているのか突き止めてくれという内容だった」
僕は目を丸くした。やはりこの事件一筋縄ではない。
「その奥さんがいうには夫は無類の女好きで、目に入る女性をとにかく片っ端から手を付けていたとのことだった。もう付いてさえなければ手当たり次第というわけだ。自分は惚れた弱みと女遊びは承知で嫁いだのだから別にそのことは構わないのだといってたが、最近ご懐妊されたということで、夫の身の回りを整理したいとのことだった。清算ではないぞ整理だ」
「どう違うんだ?」
「浮気は構わないのだが本気は困るということだ!」
「つまり?」
「私に夫の過去の関係や現在の関係を浮気か本気かの仕分けしてくれということなんだ。本気の相手がいたら自身で何らかの手を打つつもりだったらしい」
「ただの浮気調査じゃないんだな」
「めちゃくちゃ大変だったぞ。プレイボーイとかドンファンなんてレベルじゃないんだ。例えがわからん。あ、オットセイか…とにかくそんなもんだ」
ポームスが珍しく弱音をはいたということはそれなりに苦労したのだろう。
「それでだ。夫の留守に何回か『頓珍館』に足を運んでその奥さんに経過の報告をしていたのだが、一昨日の事件のあった日は最終報告だったんだ。しかも夫の前でしてくれと言われたのさ」
「しっかり修羅場に巻き込まれてるじゃないか」
「そうなんだ。『えっご自身で解決するんじゃなかったんですか?』ってやんわりと抗議したのだが、『なんとか最後の報告だけお願いします!後は私がやりますから』といってそれはもう必死の様相で頼まれてだな、断れなかったのだ。気の毒に思えるほどだった」
「それで事件の日が報告の日だったんだな。行ったのか?」
「そうだ。昼過ぎの14:00からの予定だった。私は13:00過ぎにはに伺ったよ。昼食が遅れたと言うことでその時はまだお二人は食事中だった。私は控えの間に通されて、今回の報告書に目を通していたんだ。その時事件が起こった」
「ええええええええ~!現場に居合わせたのかっ!」
「だから小林君!リアクションが大げさすぎるぞ!…あっ!」
ポームスがなにやら突然困ったような表情をした。
「どうした?」
「今までべらべらと要らんことしゃべってしまったが依頼者との守秘義務を思い出したっ!」
〝なんだとっ!〟
突然ポームスに対して抑えきれないほどの殺意をいだいた。
「おいっ!ここまで話しておいていまさら口をつむぐ気かっ!」
もう少しでポームスの首に手を伸ばすところだった。
(2300字強、頓珍館殺人事件・転に続く)
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