頓珍館殺人事件・起【毎週ショートショートnote】
一回も事件を解決したことのない名探偵の小籠包蒸(ショーロン・ポームス)探偵に呼ばれた。
「よお!懇願もしてないのによく来る気になったな!小林君」
「いや、普通呼ばれたら行くだろ。一体何の用だ!」
ポームスの物言いに付き合うヒマはなかった。先を促した。
「今世間を騒がせている一昨日の頓珍館の毒殺の件だ。私の推理を聞きたくないのか?」
「えっそうなのか?」〝早く言えって!〟
僕は椅子を引き寄せて掛けるやいなや身を乗り出してしまった。
「まずあの奇妙な建物の名称からだ。命名したのは依頼主ではなくちょっと酔狂な建築家なんだ」
「綾辻行人氏の館シリーズみたいだな」
ポームスはその一言に反応した。
「あれは珠玉の本格ミステリだった!金字塔だ!」
なにやらつぶやいてしばしうっとりと華麗な謎解きミステリの世界に思いをはせていたようだったがすぐに現実に戻ってきた。
「だがこちらはリアルだ。そもそも頓珍館などというくだんの建物は今回の事件があったからこそ知れ渡ったのだが、もともと建築家と依頼主しかその名を呼んでいなかったんだ。しかもとんちんかんにあの字を当てたのはマスコミだからな」
「それは納得できる。頓珍館で検索してみると、今回の事件を扱った新しい記事しかヒットしない。その他にわんさと出てくるのは外観が逆さまになっているレストランや居酒屋ばかりだ」
「そう。事件のあった頓珍館の外観はいたって普通の洋館だ。ただし内装や間取りなどがちょっと変わっている。依頼主は小説も書く美術家だ。設計の際にわざと落ち着かない空間をリクエストしたらしい。創造力を刺激するためだな。だから色使いや空間設計が不協和音というかちぐはぐで一言でいえば非常に居心地の悪いものとなっているんだ」
「ああ、あの恐怖漫画家の私邸みたいな?」
「そうだ、まさに鍛冶屋がとんかんとリズムよろしく鉄を鍛えてるときに間の抜けた弟子がちんと合いの手をいれるようなものだ」
「なるほど!殺人事件の舞台としては申し分ない設定だ。でその何かの仕掛けがトリックに使われるのだな?」
僕はその展開にちょっとわくわくしてしまい不謹慎な発言をしてしまった。
「いやぜんぜん」
ポームスはさらりと流した。
「わかった!動機に大いに関わってくるんだ!」
「ない。まったく」
ポームスは〝こいつは何を言っているんだ!〟という顔をしていた。
「でだ…」
「ちょっとまて!」
話題を変えようとしていたポームスに僕は食い下がった。
「じゃあ、頓珍館という名前も、建物の設計も事件にはまったく関係ないのか?」
「1mmも関係ない!」
そうだったのか!ただマスコミに踊らされていただけなのか!よほど残念に感じていたのに気付いたのか珍しくポームスが空気を読んだ。
「何事も前ばり…じゃなかった、前振りというのも必要だろう。背景の説明だ。いずれにせよ小林君のどんな小さな事にもこだわる粘着質でしつこい性格からするとこの建物についていろいろ気になって根掘り葉掘り私を質問責めにすることになったんじゃないのか?あらかじめ聞いておいて良かっただろう」
余計な指摘もされて悔しいが的を得ていた。
(1300字弱 頓珍館殺人事件・承に続く)
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