ほんの一部スイカ【毎週ショートショートnote】
「ほんの一部のスイカでいいってあなたは言う。わかっている。あなたのお気に入りの手作りのスイカサイダーはたぶん私にしか作れないはず」
物思いにふけっている彼女を尻目に僕は予定されたプロトコルを確認していた。実のところ僕はアストロダイナミクス社から送り込まれて来たAIだった。つまりはスイカが一部であろうと全部であろうと僕にはまったく関係なかったのだ。
「それにしてもなんて私好みなの?あなたは私の100%理想よ!」
それはそうだ!僕は彼女の好み100%になるよう作られていたからだ。僕の任務は彼女との子作りだった。彼女の遺伝子があるクライアントの要望に合致したのだ。そして僕にはそのクライアントの冷凍精子が搭載されている。
「そういえば月のものが来ないの!」
「何っ?」
彼女と付き合って3ヶ月。メインの任務はまだ着手していなかった。
僕はメモリーを総スキャンした。想定外だ。こんな事例は学習したことがなかった。広くネットで情報を漁った。〝浮気〟または〝ふたまた〟か!よくあるケースらしい。それにしても僕の先生役はなぜこうなることを予想してなかったのだろう。
いずれにせよ本社持ち帰りで出直さねばならない。再学習が必要だった。
「待って!どこへ行くの!」
彼女は聞き分けがなかった。
「ええい!離せ!情報が足らんのだ!ほんの一部追加してくるだけだ。全部じゃない!ほんの一部追加だ」
僕はようやく振り切って本社に戻った。
その次の日。
「あっ。来た!……なんだ、またいつものように遅れていただけか」
影響力の大きさや因果関係を知らぬ彼女の無邪気な声が誰もいない一室に響き渡った。
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