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月夜の寝ぐせ【毎週ショートショートnote】
とある村に吸血鬼の伯爵と、その家来の狼男が越してきた。いや伯爵のペットと言っても良い。満月の夜には変身した狼に特注のリードをつけて、やはり特注の大きなエチケット袋とキャッチ棒を携え散歩する伯爵の姿が目撃されていた。
幸いなことにその村ではまだ犠牲者が出ていなかった。
恐怖におののく村人は勇気を絞って直接、伯爵に交渉を試みた。
「伯爵とペットともどもすぐに村から出て行って欲しい!」
だがそんな戯言があっさりと受け入れられる訳もない。
村人と伯爵は交渉を重ねなんと「人狼ゲーム」で決着をつけることになった。「伯爵&狼男」チームが追放されるのか、村人が襲われ放題になるのか。結果には双方無条件で従わねばならない。
ただし当事者それぞれがゲームプレーヤーではすでに素性が明らかという事でゲームが成りたたない。そこでこの「人狼ゲーム」では独自のルールが決められられることになった。
まず村で1番腕の良いゲームクリエーターに「人狼ゲーム」の会場となる仮想空間が依頼された。そして伯爵、狼男はじめ選抜された精鋭7名の村人の3DCGキャラが作られた。そしてそのプレーヤー予定者には100問にも渡る質問票が配られ、それぞれのキャラにその回答による外観やら振る舞いなどが割り当てられた。
そして一ヶ月半にも及ぶ準備期間を経てとうとう決戦の日がやってきた。
プレーヤーはお互いの存在が確認することができないようそれぞれの個室にひきこもる。そして各プレーヤーの頭、胴体、両腕、両足にはモーションキャプチャーと呼ばれるセンサーが取り付けられ、体の動きはそれぞれのCGキャラにダイレクトに反映される仕組みだ。
音声はマイクで拾われ別の声に変換される。表情はカメラで捉えられこれも即座に反映される。もちろんしゃべるときの口の動きも即時だった。リップシンクと呼ばれる。
そしてようやく3DCGによる「リアル人狼ゲーム」が始まった。
第一日目の昼のターン。
人狼はもちろん伯爵と狼男二名だ。だが見た目では何とも判断のしようが無かった。
9人はセオリーどおりおそるおそる探りを入れるところから始まった。
「村人手を挙げて~!」
ドレスを着た金髪の夜会巻きの美少女……実は太ったおっさんの村人が叫んだ。
全員が手を上げる。それぞれがお互いを観察する。だが推理する間もなくすぐに時間切れを迎えた。
「さてこれより投票に移ります。人狼と思われる人を一斉に指差してください。それでは…せ〜の!」
「ねば、ねば、ねば、ねば〜…」
糸を引くようなしゃべり方をする男がみるみる小さくなりどこかに消えてしまった。
〝うっまずい!騎士が選ばれてしまった…〟
ゲームマスターも兼ねるクリエーターが思わず心の中でつぶやいてしまった。
〝やはり見た目がまずかった…〟
無理もなかった。追放された男はゲルと呼ばれる〝時の総理〟に外見を寄せていたのだ。そして妖怪みたいな外見だけではなくだらしのない振る舞いも、そして簡単に前言をひるがえすキャラも見事に再現されていた。
この男に〝騎士〟が廻って来たところに村人チームに運がなかったといえる。この見るからに嘘つきで、簡単に人を裏切りそうで一番信用できそうもない男は、その場の全員に〝彼の追放〟を決心させた。人狼以前の問題だった。
この男はなぜゲルに外見も中身も寄せたのか?理解に苦しむなか…伯爵と狼男だけは密かにほくそ笑んだ。
第一日目の夜のターン。
仮想空間は狼男が身震いをするような見事な満月だった。そして人狼チームが牙を剥いた。
自分たちを除く6人の中から1人を選んだ。当然村人だ。しかも〝占い師〟だった。占い師は自分でそう宣言してしまっていた。しかも外見もどう見てもあの六星占術のオバハンそっくりだった。あまりに分かり易す過ぎる天の采配にまたもや村人チームに運がなかったといえた。
〝まずいな…〟
ゲームマスターでもあるクリエーターはしばらく考えていたが、裏技で村人チームを助ける決心をした。
第ニ日目の昼のターン。
朝を迎えた。村人チームは薄々自分たちに不利な展開である事を理解していた。そして突然ある事に気付いた。
キャラの赤頭巾ちゃんのフードが外れて、髪の毛が数本立っているのだ。まさに妖気をキャッチしたアンテナさながらだった。
〝わかりやすいサインだ!〟
これは〝魔術師〟と呼ばれる隠れキャラによる支援に違いなかった。村人チームの誰もがいろめきたった。
通りいっぺんの質疑応答が交わされ、すぐさま投票になった。
〝おばあさん、なんて大きな……あれえ〜!〟
赤頭巾ちゃんはみるみる小さくなり消えてしまった。
こうして狼男扮する〝赤頭巾ちゃん〟が見事投票で追放されてしまった。
伯爵は苦虫を噛み潰したような表情になり普段は青白い顔色が真っ赤になっていた。
第ニ日の夜のターン。
2日目の夜も雲一つない見事な月夜だった。
〝おのれ霊媒師っ!〟
伯爵に迷いは無かった。村人を指差し一気に咬みついた。霊媒師の村人だった。無理もない。村人の外見はノストラダムスだったからだ。推理も何も無かった。
〝恐怖の大王が空から降って…〟
予言らしきものを残してノストラダムスは消えてしまった。なんて事だ。預言者と霊媒師と多少の違いはあったが、またもやノストラダムスが〝霊媒師〟のカードを引いていたのだ。
つくづく村人には運がなかった。
第三日目の昼のターン。
ついに3日目を迎えた。
〝おおっ〟
今度はドラえもんらしきキャラの頭のうぶ毛らしきものがおっ立っている。またまた魔術師による支援に違い無かった。
平成、令和世代には何のことかさっぱりかもしれないがあいにく村人は全員昭和世代だった。
〝頭のテッペンに毛が三本…毛が三本!〟
村人全員の頭の中にオバケのQ太郎の主題歌のワンフレーズがリフレインいていた。
投票が待ち遠しい。質疑応答もそこそこに全員がドラえもんらしきキャラを指差していた。指を指した全員がこれが人狼であり伯爵である事を確信していた。
〝のび太くん。もう少しがんばって…〟
たちまち〝らしきものが〟追放されてしまった。
そうして迎えた第三日の夜のターン。
は、〝やって来なかった!〟
ゲームマスターは終了を高らかに宣言した。
人狼である伯爵&狼男の追放に成功したのだ。
村人チームは手を取り合って喜んでいた。
だが一見すると金髪の夜会巻ドレスの美少女と遠山の金さんと横綱千代の富士とプリンセス・テンコーが抱き合っているだけの絵だった。
それにしてもなぜに人狼の伯爵がドラえもんなのか?
ドラキュラ伯爵だけにドラだけ合わせた………いやそこだけかい!
聞かないほうが良かった😭
さらにネタばれは続く。
実はプリンセス・テンコーがいたため、レアなローカルルールである〝魔術師〟がいると村人たちは勝手に勘違いしていたのだ。
そして村人が魔術師の支援だと思っていた裏技はゲームマスターであるゲームクリエーターが仕込んだものだった。
そしてその裏技は「月夜のねぐせ」とのちのち呼ばれるようになった。
とさ。
最後に注意深くゲームプレーヤーを観察すれば自ずと役職が分かる簡単な設定だった事に全員が気付いたのはだいぶ後になってからだった。
(😭😭😭)
久々に、たらはかに様の毎週ショートショートnoteに参加致しました。
のにこんなお話で申し訳ございません〜😭
そして、人狼ファンの方へ!描写や設定、構成が甘くて申し訳ございません。どうかご容赦くださいませ〜😭
ちなみにワタクシ、人狼ゲームをやった事はありませんっ!こちらを慌てて見てニワカとなりました。