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戦国時代の自動操縦(2000字越えの冗長Ver.)【毎週ショートショートnote】
注)お時間のある方だけお読み下さい。サブタイトルは「時間泥棒」です。
22XX年代の超大手IT企業の自動操縦研究部門はその能力を搾り取られ尽くされた研究者の島送りの地と呼ばれていた。この部門が最盛期を迎えていたのは自動車と呼ばれる乗り物の自動操縦を研究していた今からおよそ200年前の頃だ。
事態が一変したのはいわゆるタイムマシンの登場だった。それまで移動と言えば空間移動のことを指したがタイムマシンはその概念を変えてしまった。
現在の時間と座標を登録して、目的地の到着時刻と座標を登録すれば瞬時に移動が出来るのだ。究極の自動操縦だ。
疲れ切ったエンジニア達は流刑の地で、それでも一旗揚げようと目論んでいた。自分達はまだまだやれる。上層部に認めさせたかった。
同じような動きが世界各地の支社で巻き起こり自動操縦研究部門の地位向上を目指して自主的なプロジェクトがほぼ同時期立ち上がった。
理論上どこでも移動が可能なタイムマシンだったが、さすがに伝説の地だけは無理だった。考えて見れば天国や地獄に行くのも自動操縦によるものだ。このあたりの解明はヨーロッパあたりの支社に任せておいて日本支社は目的地に〝竜宮〟を選んだ。海亀による自動操縦だ。
動物による自動操縦だけに限って言えば〝牛に引かれて善光寺〟というのもあったが善光寺の座標ははっきりわかっているので研究対象としての面白みはない。
やはり御伽草子に登場する室町末期あたりの浦島太郎伝説だった。このあたりを検証して竜宮の場所が特定できればそれこそ輝かしい実績となる。
御伽草子の稿本によると浦島太郎伝説は丹後の国の海岸が発端らしい。丹後の国というのは一時期「Kyo-to」とも呼ばれていたらくて、とにかくその北部の海岸で研究者達は浦島太郎を待った。
タイムマシンを酷使してしまったが、なんとか海岸で子供達が海亀を虐めているところに出会えた。そうこうするとそこへ浦島太郎がやってきた。あとはお話通りの展開だった。
研究者達は海亀の跡をつけた。タイムマシンを普通の空間移動に使うのは初めてだったかもしれないが意外とイケた。そして海中でもなんら問題は無かった。海亀と浦島太郎は海中深く潜っていった。
そうこうするうちにようやく竜宮城に着いたみたいだ。
「おい!これはどこかで見たことがあるぞ。そうだ!およそ200年前の画像を集めた写真集にあった。これはまさに歌舞伎町だ!」
研究者の一人が叫んだ。
竜宮でも歌舞伎町でも良い。そこはきらびやかで華やかな不夜城だった。海亀と浦島太郎はなにやら入り口で話をしている。あたかも入店前の交渉みたいだ。
「座標を確認しろ!」
研究者達は急いで確認して、ナビゲーションの履歴の欄にセットした。
「これでよし!っと……さあ早く戻ろう。彼らに付き合っていると700年経ってしまう」
研究者達は海亀と浦島太郎を後にして、急いで海岸に戻った。
わかっていた事とはいえ研究者達は海岸に残してきた時計を見て驚いた。わずか小一時間と思っていたものが、10日近く経過していた。およそ230倍強の時間経過だった。
〝この時間経過の違いは移動速度の速さによるものではなくおそらく重力によるものだろう〟研究者達はこのように結論づけた。
目的を達成し、帰り支度を始めた研究者達だったが、一人の研究者がある提案をした。
「700年後の浦島太郎にせめて玉手箱を開けた結果をアドバイスをしてはいかがでしょう?伝えるだけ伝えてあとの判断を彼に任せては?」
それも良かろうと言うことで、研究者達は700年後に移動した。
海岸で待っていると、浦島太郎が海から上がってきた。ラウンジを朝6時に出てきたような満足感に満ちていた。
「浦島太郎さん、ご機嫌のところ申し訳ないのですが……」
研究者の一人が話を始めた。
最初は見たことのない研究者達の様子に聞く耳ももたなかった太郎だったが700年も経過しているくだりで驚きを隠せなかった。
「嘘だ!」と叫びながらも父親の墓を発見した太郎は肩を落とした。
「オレには、いいなずけがいたんだ……」
太郎はさめざめと泣き始めた。
〝えっ!いいなずけ?お話にはなかった新事実か?〟
研究者達は興味をそそられた。
「太郎さん、いいなずけの話は本当ですか?それなのにあなた……700年もキャバクラみたいなところで飲み食いし、姫ともねんごろになって……」
「うるさいっ!」
気の毒に思った研究者達は太郎にある提案をした。
「えっ!その籠のようなものに乗れば700年前に戻れるというのか……」
太郎は早速タイムマシンに乗り込んで700年前のあの日のあの海岸に戻った。
太郎はとるものもとりあえずいいなずけを探した。
ようやく探し当てたいいなずけだったが、あろうことか浮気の最中だった。
激昂するかと思いきや太郎は静かにその場を後にした。
太郎の落ち込みようは見るに堪えなかった。研究者達は掛ける言葉もなかった。
「帰ってくれ!」
研究者達はすごすごと引き上げた。そして視界から外れたところで太郎を観察することにした。
太郎は失意のまま海岸線を歩き始めた。時刻は夕刻に近づきつつあった。
そんな中子供達が捕まえた海亀を虐めているところに出くわした。
太郎はその瞬間のみ失恋のことを忘れ、義勇モードに入った。
子供達から海亀を買い取り、太郎は海亀とともに小一時間をその海岸線で過ごした。再び失恋の痛手が太郎を襲っていた。
そのうち太郎は薪をあつめて火をおこしはじめた。
そしてどこからか大きな鍋を調達してきたかと思うと、海亀スープを作り始めた。
研究者達はその経過をひっそりと観察するほかはなすべもなかった。そして履歴から竜宮の座標もひっそりと消えてしまったことにも気づくことはなかった。
(2000字越え)
他の皆様の作品とネタかぶりが多々あります。後発につき修正しようと思いましたが他にアイディアが思い浮かばなく時間切れを起こしそうでしたのでこれにて投稿することに致しました。決して確信犯ではございませんのでご容赦下さいませ。